27 視点変更_サラとユーゴ
■(視点変更)
「ユーゴ!!」
「ああ!任せてくれ!」
サラがボナコンの動きを止め、そしてユーゴが止めを刺すシーンを眺めながら俺は思った。
また随分仲を深めたもんだな、と。
◇
俺、マルコ、サラに加え騎士科のユーゴの四人のメンバーで練習場のエリアCに足を踏み入れた俺たち。
水属性であるサラにメインアタッカーとして活躍してもらう為、探知魔法を俺とマルコで担うことになり、とりあえずボナコンが好そうな地形まで走り出す。
「え、ユーゴさん、それって魔法使ってない?ですよね?」
身体能力を向上させる魔法を使って駆けている俺たちとは別に、魔法を使わずに走るユーゴにサラの目が大きく見開かれた。
いやサラだけではなく、俺とマルコも驚きのあまり声も出せず口をパクパクさせることとなっている。
「ええ、騎士科ではこれが当たり前ですよ」
マジか。と俺たちは思った。
俺たちと同い年でこの肉体差にも驚いたのに、更に魔法も使わずに俊敏な動きを見せる騎士科の当たり前があり得なかった。
(騎士科ってレベル高すぎじゃね?)
レルリラとサラに対して凄いと今迄思っていたけど、更に上をいく存在がいるとは。と考えていると、涼し気な表情で余裕すら感じられるユーゴは、途端にポリポリと頬をかく仕草を見せる。
「あ、あのサラさん。出来たら敬語ではなく普通にお話ししていただけませんか?
この学園は身分ではなく実力を高めるところです。せっかく同じチームになったのですし、気軽に話していただけた方が、連携もとりやすい…と思います…」
僅かに頬を赤く染めるユーゴからは明らかに下心が見受けられるような感じがしたが、サラは気付かなかったのかいつもの調子で答える。
「わかりました!
じゃあユーゴも、私のことさん付けしなくてもいいよ。敬語もなしね!」
「ッ!ありがとう!サラ!」
早速敬称も敬語も外すサラにユーゴは破顔して喜んだ。
サラの方が平民で貴族のユーゴより身分が低いのに、礼を告げるユーゴをみたら立場が逆だろと思わず口から出ていこうとするのを必死で耐える。
つか…これ…
「……これはレルリラの機嫌が悪くなりそうだな…」
ぼそりとマルコが呟く言葉に俺は(確かに)と心の中で同意した。
サラは気付いていないようだが、明らかにレルリラはサラに好意を寄せている。
サラの髪が切られた時も、他の女子に対してならあそこまで反応しないだろうレルリラが感情を露にしたんだ。
俺たちのクラスでレルリラの気持ちを知らない者はサラを除いていないだろう。
(あいつは本当に鈍いからな)
レルリラがサラに対してあそこまで引っ付いているのも、好意を寄せているからという理由より、初めての友達だからという誤った認識でサラはレルリラのことを見ているのだろうと推測している。
(そうじゃなきゃ、レルリラも“ああ”言わないだろう)
サラはモテる。
いや、モテ始めてたという表現が正しいか。
最初は平民の女子生徒がサラ一人でいた為に髪は適当に束ね、俺たち以外の交流はなかった。
それが些細なきっかけで貴族の生徒たちとも交流し始め、今ではクラスの中心人物として存在している。
貴族女子との交流をしてからは、指摘されたのか適当に扱っていた髪には艶が生まれ始め、レルリラとの特訓で睡眠時間は少なくなっている筈なのに、肌も荒れた様子も見せない。
性格は努力家で真面目、レルリラの教えを他の生徒にも伝授するような面倒見の良さと、授業で身に着けた礼儀作法を加えたら、貴族の生まれでもサラに憧れを抱く者が増えても当然の事だった。
(それに加えてあの顔だしな)
レルリラに鏡をみてこいと度々口にしているが、サラだって整っている顔立ちをしている。
ドレスを着せて着飾ったらレルリラの隣に立ってもなんも引けも取らないくらいだ。
(まぁ、俺にとってはただの女友達だけどな…)
授業の合間の休憩時間。
俺はじっとサラを見つめるレルリラに聞いたことがある。
『レルリラはさ、サラに告白しないのか?』
いつまで経っても友達の枠から抜け出そうとしないレルリラに尋ねたのは、本当になんとなくだった。
レルリラが他のクラスの女子から告白されるようになり、その時初めてレルリラが自分の気持ちに気付いたんだろうと思われることがあった。
その後進展でもあるのかと期待したが、今までの関係に戻る二人を見て俺は疑問に思う。
だからこそ尋ねた。
『どうしてだ』
『どうしてって、……好きなんだろ?付き合いたいとか思わねーのか?』
『………』
レルリラは黙った。
口を閉ざしたレルリラに、俺は居心地の悪さのようなものを感じる。
『わ、わりぃ…気に_』
『サラは単純だが馬鹿じゃない』
『は?』
『貴族と平民は籍を入れることは出来ない事を知っている。
だから例え想いを伝えたとしても、俺はサラに受け入れられることはないだろう』
『………』
今度は俺が黙る番だった。
『それにアイツは俺をそういう目で見ていない』
『え…』
そんなバカなと、俺は思った。
呼び出しに応じ席を外したレルリラの後姿を、あんな顔で気にする素振りを見せたサラがレルリラに対して好意を持ってないはずがないだろうと。
(まさか、アイツ鈍感なのか!?超が付くほど!?)
『言われたんだ。友達だって。何の顔色も変えずに』
『……』
(超鈍感だったわ……)
俺が絶句している中、レルリラはそのまま話を続ける。
『サラが俺を友達と思っているのなら、俺は友達のままでいい。
友達なら身分差があっても問題なく一緒にいれるだろうからな』
うっすらと笑みを浮かべるレルリラは男の俺でも目を奪われる程綺麗だったが、同時に切なさが伝わり胸を痛める。
関係ない俺だってこうなんだから、当人であるレルリラはもっと辛い思いをしているだろう。
(貴族と平民、か……)
いっそのこと人族でなければこんな問題など起きないのかもしれない。
亜人族に身分による上下関係などあるのかはわからないが。
だけど俺たちは人間で、亜人族でもなく人族なのだ。
変えられない種族はどうしようもない。
(まぁ、レルリラにあんなこと言ったが俺だって_)
「ちょっとキア!マルコ!探知魔法はどうしたのよ!」
ふと昔にレルリラと話したことを思い出していると、前を走るサラが振り返りながら声を張り上げる。
いくら標的魔物に対してのメインアタッカーをサラに決めたと言っても、ああやって怒鳴られたら気も悪くなるだろう。
「………なぁマルコ」
しかも微妙に感傷的になっていた時に張り上げられたもんだから、余計にイラつきが増した。
「なんだ?」
「俺、アイツはレルリラに怒られたほうがいいと思うんだわ」
「ああ……。まぁ確かに」
マルコも同じく感じたのか、仲良くユーゴと話すサラを見て頷いた。
「まぁ、これ以上役割を放置したらもっとうるさくなるだろうから、さっさと目標を探すか」
「そうだな」
そうはいっても俺たちはレルリラやサラ程魔力量はないため、広げる魔力の形を変えて丁寧に調べる事しかできないが。
(とっとと見つけて、高みの見物してやるか!)
(視点変更終わり)




