7 さて!始めましょう!②
意識した瞬間ぶわっと、私を中心に風が舞い上がり、私は思わず目を開けて空を見上げる。
草が宙を舞っていて、そこには微量な水もあったように見えた。
ごくりと息を飲む音が聞こえた私は、視線を前に戻す。
「……お母さん?」
「…さ、すが私の娘ね!」
驚きに目を見開くお母さんにわしゃわしゃと頭を撫でられた。
「うん!私自分のまりょくわかったよ!!!」
お母さんに褒められたことが嬉しくて、私は満面の笑みでお母さんに報告した。
「じゃあ次は~~~」
「魔法!!だよね!!!?」
わくわくと胸を膨らませながら尋ねると、「ええ」とお母さんが頷いた。
「なにしてるの?」
自分の魔力を感じることが出来た私は、次に魔法を教えてもらえることにわくわくしていると、お母さんが転がっている石を拾い草むらに何か模様のような絵を描きだした。
思わずお母さんに尋ねるとお母さんは手を止めることなく答える。
「これは魔法陣って言って、魔法の基礎よ」
「まほーじん?」
「ええ。基本は歪みのない綺麗な円の中に発動したい内容を描くのよ」
「じゃあ、このジグザグしたのはなに?」
「これはね、光という意味を持っている文字よ」
「文字?」と私は首を傾げる。
ギルドでも読み書きを教えてもらった時の文字とは全く形が違っていたからだ。
「そう、古い文字だから日常生活には使う人もいないわ。
勿論魔法陣には日常生活で使ってる文字を書いてもいいけど、それだと魔法陣に書き込む量が多くなっちゃうから、お母さんは古い文字を使ってるの」
「どうして?」
「文字の量が圧倒的に違うからよ。魔法陣は簡略化すればするほど、発動時間も魔力量も最小限に出来るから。
…じゃあこれに魔力を流してみるから見ていてね」
そういうとお母さんは地面に描いた魔法陣に手を重ねる。
すると、魔法陣が光り、魔法陣から一つの光の玉が飛び出した。
その光の玉に驚き、私は尻もちをつく。
「わっ!!」
「ふふ。魔法陣は書いただけだとただの絵になってしまうけれど、さっきお母さんがやったみたいに魔力を流すと、今みたいに魔法を使うことができるのよ」
「ね!ね!サラにもできる!?」
「出来るわよ。じゃあ、お母さんが書いた魔法陣を真似して書いてみて?」
「うん!」
手渡された石を受け取り、お母さんが描いた魔法陣の横に、お母さんの魔法陣を見ながら同じように書いてみる。
少し丸が歪んでしまったけれど、綺麗に描けたと思う。
「できたよ!」
「じゃあ次に魔力を流してみて」
「やってみる!」
これまたお母さんのように手を重ねて、私はさっき感じることが出来た自分の魔力を意識した。
でも流し込むってどうすればいいのだろう、と首を傾げると気付いたお母さんがアドバイスをしてくれた。
「サラの心臓から、腕、手に沿って魔力が流れることをイメージして」
お母さんの言う通りに魔力の流れをイメージすると、私の中の魔力が動きだす。
そのまま手のひらから魔力が抜けるイメージをすると、私が描いた魔法陣が青く光り出した。
そして、光の玉が魔法陣から飛び出す。
「わあ!できた!!!」
「やったわね!凄いわ!」
「うん!!!でも…………なんか光がぐにょぐにょしてる…」
そうなのだ。
光の玉を生み出すことには成功したが、何故かお母さんのように綺麗な球体の光の玉が生まれることが無く、とても不安定で光の玉がぐにょぐにょと揺れ動いている。
何故だとお母さんを見上げると、お母さんは面白そうに笑った。
「魔法陣はね、綺麗に描かないと効果が正しく出ないのよ。
お母さんとサラの魔法陣の違いは、綺麗な円が書かれていないこと、そして光を意味する記号が少し歪んでしまっていることね。
これがうまく書けるようになると、お母さんのような光が出来るわ」
「そうなの?サラが出来ないんじゃなくて…?」
「じゃあ試しにお母さんが書いた魔法陣に魔力を流してみてみる?」
「うん!」
先程と同じように手を魔法陣の上に置き、魔力を送る。
すると、今度は綺麗な形の光の玉が飛び出した。
「わあああ!」
「ほら、ね?綺麗にできたでしょ?」
「うん!」
「じゃあこれからは、魔法陣を沢山覚えてもらうわね!」
「はーい!!」
そして私とお母さんは家へと戻る。
これからは魔法陣を出来るだけ多く覚えていかなければいけないからだ。
お母さんが晩御飯の用意をしている最中、私は必死にお母さんから教わった魔法陣を何度も何度も紙の上に書いて覚えていく。
たまにお母さんは私から魔法陣が書かれた紙を取り上げて、「じゃあ”浮遊”の魔法陣を書いてみて」とテストされたりしていると、お父さんが帰ってきた。
私はお父さんにお母さんから魔法を習い始めたことを話すと、お父さんも何か教えると言い出す。
お母さんはくすくすと笑っていたが、私は教えてもらえることが嬉しくて喜んだ。
そして悩みに悩んだお父さんからは剣術を、…といっても子供だからと真剣は持たせてもらえなく、また危ないからと短剣すらも与えられず、木の枝を剣に見立てて振うことになったけれど。
また文字の読み書きや簡単な計算は出来ていた私だったが、国一番の学園に入るためにはこのままでは物足りないと感じた私は自らギルドへ赴き、この国の成り立ちから始まる事柄についても調べていったのである。