24 視点変更_合同授業の提案
□視点変更□
「え?騎士科の生徒たちとですか?」
校外授業が中断となり、当分の間見送りに決まった暫くたったある日のことだった。
騎士科の生徒と魔法科の生徒の合同授業を提案され、俺は目を瞬かせる。
そんな俺を見て豪快に笑うのはこの提案をしてきた張本人でもあり、四年の騎士科を担当しているダニエル・テヨン先生だ。
「ガハハハ!そんなに目を見開いては落ちてしまいますぞ!ヒルガース先生!」
四学年へと進級してすぐの頃に俺のクラスと魔法科Bクラスが合同授業を行ったことを耳にしたのか、校外授業が中断したタイミングで騎士科との合同授業を提案してきたテヨン先生に俺は思考を巡らせる。
はっきりいって騎士科は魔法科とは毛色が違う。
魔法科は体内の魔力を最大限活かして魔法として発動させることで、身を守り、そして攻撃することが可能となる術を学ぶが、騎士科は武器との共鳴を学ぶ。
武器との共鳴を行うことで自身の持つ少ない魔力でも、膨大な魔力を持つ人間と同じくらい活性化させることが出来るのが武技というものだからだ。
その為、騎士科では入学試験の際目の前にいるテヨン先生にその才能があると思わせる人物の選定で決まる。
テヨン先生は剣を愛し、肉体を鍛え、そしてその武技は山をも切り裂くほどの実力ともいわれている人物である。
まぁ本当に山を切り裂くことが出来るのはこのテヨン先生の師匠に当たる人物で、現役で王の護衛を務めている近衛騎士の一人であるが。
ちなみにもう一人は、王国最強ともいわれる魔法使いが傍に控えている。
そんな剣が大好きなテヨン先生は、騎士科でも必要最低限の魔法の授業しか行わない。
それは武器との共鳴には相当の時間の鍛錬が必要だからだ。
限界まで身体と精神を鍛え上げた先に、共鳴が起こり、自身の魔力以上のものを解き放つことが出来るようになると言われている。
その為に少ない学園在学期間、テヨン先生は生徒に魔法を教えることはない。
人は誰しも魔力を持つ。
武器との共鳴、そして武技を身に着けるより魔法を習えばいいと思う人は少なくない。
だが、それを実際に武技を身に着けた人に対して口にしてはいけない。
それは武技そのものを侮辱する言葉と共に、武技を取得した人物を護衛として任命している王までも侮辱することになるからだ。
この学園には騎士科と呼ばれるクラスが存在しているが、この国には武器との共鳴を実際に行える人物は少ない。
テヨン先生が入学時に人選したとしても毎年のように脱落する者、クラスを移動する者が現れる為、今年の四年目になる騎士科は人数が半分以下となっていた。
つまり残っている生徒は、武器との共鳴に限りなく近い人物、もしくは共鳴を成功させた生徒ともいえよう。
何しろ騎士科の卒業テストは武器との共鳴が出来なければ卒業できないからだ。
(騎士科…か)
正直四年もの間、このテヨン先生についてこれた生徒達は実際にこの目で見なくとも、魔法科の生徒との身体的能力が格別に違うと想像できる。
何度も言っている通り騎士科は武器との共鳴の為己の体を徹底的に鍛え上げるからだ。
その為共鳴が出来なくとも身体能力は高くなる。
身体能力が高ければ高いほど、魔法科の生徒が魔法を発動する前に懐に入られてしまう可能性だってあるし、魔法科の生徒が騎士科の生徒の身体能力に翻弄されてしまう可能性もある。
そんな騎士科に対し相手になるのは無詠唱魔法を習得し始めていっているレルリラと、よくてサラくらいだろう。
サラはまだ無詠唱を行える魔法が少ないが、その魔力の多さから同時に複数の魔法を展開する。
それもレルリラとの鍛錬のお陰でもあるが、サラとレルリラでは属性魔法の相性もあって結局負けてしまうが、それでもいい線をいっている。
だから、たとえ数多くの無詠唱ができなくとも騎士科の生徒に先に懐に入られてしまうことはない。
(だが……)
問題は他の生徒だ。
レルリラとサラが異常であるだけで、他の生徒だって優秀な部類に入る。
それもレルリラに鍛えられたサラが他の生徒へ助言しているからだ。
そんなサラに他の生徒が好意的な感情を持ち、他のクラスや学年からサラを守っているようだが。
「おや、もしや厳しいですか?」
「……対決させるのは正直難しいですが、騎士科の生徒をまじえてチームを組む。ならば問題ないかと」
俺がそう提案すると、テヨン先生はニヤリと笑った。
魔法科よりも騎士科の生徒の方が優勢であると、俺に言わせたからだろう。
素直すぎてなにも思えなくなるのが、この人の長所かもしれない。
はぁと、ため息をついたその時職員室にやってきたのは二人の生徒だった。
「先生、今日もまた練習場の貸し出しを…」
「テヨン先生!練習場Bをこの後使いたいです!」
毎度お馴染みレルリラと、鍛え上げたその見た目から騎士科に所属する生徒だらう。
名前は確か……
「おお!ユーゴ!いいぞ!鍛錬に励め!」
ガハハハッと豪快に笑いながら許可を出すテヨン先生に、嬉しそうにカギを受け取るユーゴ・ガストン。
テヨン先生のお気に入りなのか、同じ歳であるレルリラと比べ筋肉の付き方が全く違うユーゴ・ガストンに(テヨン先生が合同授業を提案してきたのはこれか)と納得することになる。
「…何の話をしていたんですか?」
鍵を受け取ったレルリラが騎士科の先生が俺と話していることに対して不思議に思ったのだろう尋ねた。
「いやな、騎士科との合同演習はどうだと提案され_」
「え!魔法科の生徒達と合同授業できるんですか!?」
遮るように会話に乱入したのは先程テヨン先生から鍵を受け取り、この場を去ろうとしていたユーゴ・ガストンだった。
何がそんなに嬉しいのか、キラキラと輝いた目で嬉しそうな表情を浮かべているユーゴ・ガストンに俺は首を傾げる。
「じゃあ、サラさんと会えるんですね!」
楽しみだなぁと純粋な笑顔を見せて口にしたユーゴ・ガストンに、俺はちらりとレルリラを見上げ、そしてテヨン先生がユーゴ・ガストンに「知っているのか?」と話しかける。
魔法科と騎士科には関わり合いが全くないからだ。
唯一の共通点といえば、寮が同じである事。
だが、授業時間も違うし、サラは放課後も早朝も鍛錬の為に寮にいない時が殆どだから顔を合わせることもなかっただろう。
「王都に買い物に行った時に学生証を拾ってもらったんです!
騎士科と魔法科は全然接点がないので今までお礼も伝えられなかったんで、これであの時のお礼が出来ます!」
「学生証を!それはちゃんとお礼しないとな!」
二人の会話を聞いて、そういうことかと苦笑する。
だが…
「先生、サラさんはなにが好きでしょうか!?」
落とし物を届けただけで、クラスも違う他人にそこまでする必要はあるのかと思いながら眺めていると、「女の子には甘いもんが好きだぞ!」とアドバイスを入れるテヨン先生に、レルリラが目を細める。
「……先生」
「な、なんだ?」
「…騎士科との合同授業は、対戦形式ですか?」
「………詳しいことは教室で話すから待ってろ」
この場に居づらいと感じたのはきっと俺だけだろう。




