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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
学園編~四学年~
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19.強制帰還







近づいてきた森のふもとに辿り着くと、馬のスピードを落としゆっくりとした歩行に切り替わる。

僅かに感じられた魔力に、私は誰かが探知魔法を使っているのだと察した。


(凄い薄い…)


思わず感心してしまうほどに薄く広げられた魔力に私は息をのむ。

のほほんと立っていたら、広げられた魔力に気付かないほどに微妙な魔力だったのだ。

そして迷うことなく歩き進める先頭の騎士の人を見て、広大な森の中に一体どれほど魔力を広げているのか気になった。


「…エステル、なにか…変じゃない?」


「レロサーナもそう思う?」


後ろで着いてくるエステルとレロサーナが互いに近寄り、森を見渡しながらそう話す声が聞こえてきた。


(二人も気付いてるのね)


全く一緒という森は存在しないが、少なからず生物が住んでいるという共通点だけは一緒である。

マーオ町に隣接していた森も、学園が所有していた森も、必ず虫や鳥、小さな動物たちが生息していた。

小さな虫や鳥たちが、身を潜めたり、様子を伺っていると必ずといって草木が揺れる。

それなのにこの森は静まり返っていた。

探知魔法で周囲の魔力状況を確認したいが、騎士の人が探知している中行うのは相応しい行動ではない為、確認したくとも出来ないけれど。

だけど、この森に生物はいないのではないかと思ってしまうほど、静まり返る異様な森の様子に二人は不安がっていた。


いや、二人だけじゃない。

シモンさんの隊の人たちも一様に緊張が走っている。


(……なんか、寒い……?)


私は思わず腕を擦った。

一年の間に最も気温が低くなるポインセチアの季節でも、肌をさするほどに気温が下がることはないのに、今は肌を突き刺すような寒さが襲い掛かる。

そんな私の様子を見て、不安げに森を見渡していたエステルが馬を横につけ尋ねる。


「サラ、どうしたの?大丈夫?」


「う、うん…なんか…急に寒くなって…」


「寒いの?私のローブ使う?」


慌てて脱いで渡そうとするエステルに私は大丈夫と断りを入れる。


「そのローブは私達生徒の安全を守るための物でもあるんだから、エステルはちゃんと着ていて。ね?」


ニコリと無理やりでも笑みを浮かべるとエステルは引き下がり、脱ぎかけたローブを着直した。

そんなエステルの様子をみてホッとしていると、今度は頭痛が襲う。


「つぅッ…!」


ズキズキと痛む頭を咄嗟に抱え込む。


「ァア、っ!」


「「サラ!?」」


「なんだ!どうした!?」


二人が声を荒げ、シモンさんが後ろを振り返りながら私の様子を伺った。


「わからないんです!サラが急に苦しみ出して!」


「さっきは寒いって言っていました!」


焦るような二人の声を聞きながら、限界を迎えた私は馬から転げ落ちるように下りた。

馬の後ろは危ないと知ってはいたけれど、そんなことを考え実施できるような余裕はなかった。

地面で丸まるように頭を抱える私を、エステルとレロサーナが駆け寄って背中を摩る。


そんな騒ぎを先頭を進む騎士たちも察知して馬を戻したのか、どうしたのかという声が聞こえてきた。


_____ああ、迷惑をかけてしまってる。


そんな事をうっすらと考えながら耐えていると、急に寒さと痛みがなくなった。


「……あれ、治った、?」


地面にうずくまっていた私は、急によくなった体調に体を起こして自分の体を不思議に眺める。


「サラ!」


「よかった!本当に心配したのよ!」


エステルとレロサーナが目に涙を浮かべながら私に抱き着く様子に、私は不謹慎ながらも嬉しく感じた。

さて、騎士団の人たちにはどう言おうかと考えた時だった。


「え、?」


「あれって…」


今迄気配も何も感じなかった森から一体の魔物が姿を見せる。

だけど、今までみたこともない黒いもやを身に纏った魔物は初めて見た。


「戦闘態勢に入れ!!!!」


シモンさんの緊迫した様子に私やレロサーナ、エステルは狼狽えたが他の騎士団の人たちは慌てることなく態勢を構える。


授業でもそうだったが、基本的にチームは他属性と組むことが多い。

それは何故か。

偏った属性だけでは魔物討伐は向かないからだ。

魔物にはそれぞれ弱点というものがある。

火に弱かったり、水に弱かったりと魔物の特徴から属性ごとでより効果を与えられる場合があるが、逆をいうと弱点である属性魔力を持つ人がいないと魔物はなかなか倒せない。

だからこそチームやパーティーを組むときは他属性と組むことが推奨されているが、その分組んでいるチームメンバーとの連携が必要になってくる。


それはなにも生徒だけではなく、騎士団においても同じことと言える。

雷属性のシモンさんに、他は名前がわからないけれど、水属性と火属性、土属性と風属性の属性を持つメンバーが揃っているからだ。

それに加えてとてもガタイの良い、服の上からでも筋肉の盛り上がりがわかる剣を持った、学園で言うと騎士科に所属しているような人がメンバーにいる。


私達の目の前にいる魔物はクロコッタという魔物で、アナグマのような頭とライオンのような体をした大きな魔物。

アナグマのようなといったがけっして可愛い魔物ではないことは言っておく。

ギラギラと光る眼差しで獲物を怯えさせ、そして耳まで裂けた恐ろしい口で食らいつく、まるで肉食動物の魔物であるために危険度はマックスと指定されていた。


だけど気になったのはクロコッタの見た目ではない。


「…あの魔物なに?あの黒いもやもやは、なんなの…?」


私は思わず呟いていた。

クロコッタが黒いもやもやとしたものを身に纏い、私達から目を離さないでいるからだ。

こちらの様子を伺っているのか、目を逸らすことなくただただこちらを睨みつけているクロコッタが、得体のしれない何かの様で恐ろしく感じるとともになにか、そうなんともいえない不思議な感覚に陥ったからだ。


(それにあのもや…、見ているだけでさっき感じた頭痛がぶり返してきそう…)


ぶるりと体が勝手に震える中、一人の騎士が馬に乗った状態で声を発した。


「<フレーム・アロー_炎射矢>」


動かないでこちらを見続けるクロコッタに騎士団の一人が発動した攻撃魔法が囲い、発射する。

森が焼けてしまわない様に調整しているのか放たれた火の矢はすぐに消えていったが、様々な属性魔法、そして時には支援魔法を混ぜて次々と攻撃魔法を浴びせていった。


そんな騎士団の人たちの攻撃の間、シモンさんが私達に視線を向ける。


「お前たち学園から帰還道具は渡されているか!?」


今が余程危険な状態なのか、今まで冷静沈着な様子を見せてきていたシモンさんが返事を聞かぬまま取り乱した様子で言い放つ。


「渡されているのなら今すぐそれを起動しろ!」


「は、はい!」


クロコッタは凶暴で危険な魔物と指定されているが、決して倒せない魔物ではない。

だが、ただならぬ気配のシモンさんの様子に私達はすぐに手首につけていたブレスレットを取り、勢いよく引きちぎった。

途端に発動する魔法陣が、私とエステル、レロサーナの足元に浮かぶ。

先生がよく私達を転移させていた時のように、光が私達を包み込んだ。


「…え、…?」


光が視界を完全に覆う前、強い視線を感じる。

誘われるままに視線を向けると、クロコッタが私をじっと見ているような、そんな気がしたのだ。


そして光が視界を完全に覆う、次に見えた光景はいつもの学園の様子だった。





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