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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
学園編~四学年~
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18.森の調査







一人の騎士が隊から離れ王都に向かうのに対し、私達は森の方に突き進むように馬を走らせる。

どういうことなのかとレロサーナやエステルへと視線を合わせ首を傾げているとシモンさんが教えてくれた。


「今私達はある情報から王都の西側にある森の調査を行っている。

その中で魔物の氾濫の兆候があるという情報が正しいものかを確認しているんだ」


「魔物の氾濫、ですか?」


「ああ。氾濫といっても、今対処することができれば特段気にするようなものではないほどの小さなものだ」


そのようにシモンさんは言ったが、対処が遅れてしまったら数を増やした魔物が近隣の村や町を襲うこともあるだろう。

そうならないことを祈るしかないが。


「あの、さっき冒険者に回すとか言ってましたが、その魔物の対処を冒険者に依頼するのですか?騎士団がするのではなく?」


「その通りだ。私達王立騎士団は国の安寧を守るための組織であるが、その為に様々な問題を対処しなくてはならない。

一つの問題に時間を費やすことはできない為、冒険者ギルドへ依頼するという形をとり様々な問題に対処している」


ギルドに依頼する際には迅速な対応が必須の為に、冒険者のランク指定はさせてもらうが。と続けるシモンさんに私は尋ねる。


「あの、私の育った町にギルドはありましたが、ランク指定のある依頼は見たことがありませんでした。

王都だけが騎士団からの依頼があるのですか?」


「そうではない。が、王都にそういった依頼が多いのが事実だな。

王都含め周辺地域は我々王立騎士団が対処しているが、他の地域は貴族が各々で管理している。

その管轄の貴族が抱える騎士団で対処できない場合はギルドに依頼することもあるだろう。

……君がそう尋ねるのは冒険者志望だからか?」


その言葉に私は少し躊躇った。

騎士団の人に「私は騎士団を目指してない」といってもいいものなのか、気分を害するのではないかと思ってしまったからだ。


「気にしなくてもいい。

騎士団でも冒険者でも、学園で学んだことを生かせる場所であるなら私は気にならない。

………流石にオーレ学園に通っているのに田舎に帰って、パンを捏ねるとか言い出すなら考えてしまうが…」


「いいえ!冒険者になりたいんです!」


慌てて否定する私に、シモンさんは前を見ながらくすりと笑った。


「そうか。ならば依頼の多い王都で活動することをすすめよう」


そう話したシモンさんの身近に、もしかしてパン屋さんに就職した人がいたのかと少しだけ疑問に思ったが、私は尋ねることをせずに少しだけ体を傾かせて前の光景を確認した。

傾かせて確認したのはシモンさんの体が大きいからだ。


「森を確認するのはどうしてですか!?」


レロサーナがシモンさんに尋ねる。

大きな声で尋ねているのは、一番レロサーナが後ろを走っている為だ。


「先程魔物に氾濫の兆候があると話したのは覚えているか?」


「はい!」


「魔物には種類がある」


種類?と私はシモンさんの話を聞きながら首を傾げた。

昆虫系や動物系など様々な見た目をしていることは知っているが、一貫して人を襲う存在だということは変わらないからだ。


「一般的に魔物には理性がなく人を襲うと言われているが、実は全ての魔物がそうではないことが分かった。

魔物の中には感情を持ち合わせた存在もいて、そういった魔物は群れを成して生活している。

その為魔物同士で争うことがあるが、群れを成して生活している魔物は滅多に住処を変えたりはしない」


君たちが想像しやすい魔物でいうとゴブリンがあげられるだろう。と続けられ、私は納得した。


ゴブリンも人間を見つけると目尻を吊り上げ恐ろしい形相で襲ってくるが、確かにシモンさんの言った通り人間が関わることが無ければ、小さな村を作ってゴブリンだけで生活している。

魔物と言ってもまるで人間のように知能を発達させ、家を作り、武器を作り、そうして暮らしているのだ。

そんな当たり前のことをシモンさんに言われるまで考えもしなかった。


だけど魔物は魔物同士でも争うことがある。

種族によって違いはあるにしても、知能がある筈なのに何故争うことがあるのだろうかという疑問を抱く。


「だが森に何かが起こると、ゴブリンのような弱い魔物は生きていけなくなる。

そうなると住処を変えて、森から出ようとするんだ。

そして今回、町の近くにゴブリンの集落が発見されたという情報が入った」


「だから現況を探る為に森に向かっているんですね!」


「その通りだ。住処を変えたゴブリンだけを対処しても根本を叩かなければ、いつか国に巨大な被害が及ぼされるかもしれない。

……魔物のスタンピードだけは回避しなくてはいけない」


「スタン、ピード…」


ぼそりと呟かれたシモンさんの最後の言葉を耳にした私は血の気が下がるような感覚に陥った。

今もなお森に向けて馬を走らせて進んでいるのに、まるで周囲の音が一瞬消えたように静かになったように思えるほど。


(……氾濫、とシモンさんは言っていたけど、要はスタンピードに繋がると思われる異常現象が起きている可能性があるということなのね)


氾濫と聞いて、数体、もしくは数十体をイメージしていたが、シモンさんが考える最低はそんなものではなかった。


スタンピードとは、動物たちの集団が興奮や恐怖などのために突然同じ方向へ走り始める現象で、実際動物がそういう行動を起こしたことは過去にある。


だけど動物ならまだいい。

動物は人間の力で制御できるから。

たとえ被害があっても、人が死亡したという話は聞いたことがないのだ。


だがその現象が魔物にもたらされたら、そう考えるだけでぞっとした。

国の子供たちに対する学習環境が変わった今、誰もが持っている魔力を用いて魔法を使うようになった。

だが個々の魔力量も魔法精度もそれぞれだ。

誰しもに得意不得意があり、それは魔法にも言えることである。


(お母さんだって沢山の魔法を簡単に使えているけれど、魔力量が少ないっていっていたわ)


魔物が飽和状態になったのならば数を減らせばいつかは収まる。

だけどもし森の中で異常現象が起きていて、それによって魔物がスタンピードが起きたら。

その魔物の大行進をもし騎士団や冒険者が対処できなかったら。


その被害は想像を絶するだろう。


「……心配しなくても魔物によるスタンピートは起こったことはない」


シモンさんの体に手が触れていたのか、私の震えを感じ取ったシモンさんが慰めるかのように伝えた言葉に私は顔をあげた。


そうだ。私たちの国では魔物によるスタンピートが起こった事例は一度もない。

それは国民一人一人がどんな形であれ国に意見を伝えられるようになり、そして騎士団や冒険者たちが対応しているからだ。


(今森に向かっているのも、その確認と対応によるもの)


「………ただの氾濫、もしくはスタンピードの方が、マシの可能性もあるがな」


まるで独り言のように呟かれたシモンさんの言葉は、風の音で掻き消され、すぐ後ろに座っている私にもまったく聞こえなかった。

そもそも伝えるつもりもなかったのだろう、シモンさんは言い直すこともせずただただ馬を走らせた。





アルファポリスさんの方はもう学生編終わっていましたね。

もし続きをと思っていただけたら、アルファポリスさんの方もみていただけたらと思います。

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