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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
学園編~四学年~
80/253

15.視点変更_嫌な夢 ※残酷な表現有



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




『お前本当いい加減にしろよ』


一人の男が言った。


『無駄に血流して、俺たちに同情してほしいの見え見えなんだよ』


『つか、この飯も人間の飯かってくらいマジィんだけど、…ああ、お前こういうのしか食えなかったとか…そういう系?』


『は?マジでか、お前はこれでよくても俺たちには人間扱いしてくれよ』


男に続いて、周りの男たちが次々に非難の言葉を浴びせる。

非難の対象は一人の女性だった。


黒髪で元は可愛らしい少女だった彼女が、今では栄養失調を疑うほど顔色が悪く、そしてガリガリにやせ細っていた。


少女がこのような姿になったのも、少女が作った料理は全て男たちが平らげ、少女は食べることが出来なかったことが原因の一つである。


そして吐血に関しても少女は何一つ悪くない。

いきなり異世界に召喚され、今まで知らなかった、発現さえもしたことない、そして意識したこともなかった自分の力。

無理やり引き出されているような、自分の命を削っているような感覚に少女の体が耐えられなかった。


少女は何度も訴えた。

だが何度訴えようとも男たちは少女の言葉に耳を貸さなかった。

まるで少女の力は、少女の身を壊すものでも使うのが当然だというような態度が国全体にあったからだ。


そしていつしか少女を自分達と同じ人間ではないかのような、そんな扱いに変わり、ついに少女は耐えられなくなった。


(この人たちは、”人”じゃない……)


少女はそう思った。


同じ人間ならば召喚までして“拉致”した人間をここまで痛みつけることはしないだろう。


『この国の力になってほしい』などと乞うた相手に、ここまでひどいことはしない。


(逃げなきゃ…この人たちから…)


少女が召喚されたこの世界には、少女の世界にはなかった魔法というものが存在していた。

そして魔物と呼ばれるバケモノも少女の世界にはいなかった。


少女は召喚されたこの世界で、ある特定の魔法が使えるようになっていた。

穢れを払うことが出来る、魔法という概念が存在するこの世界で誰一人持っていないとされている特別な力。

いや、実際には“聖女”という存在のみが使えると伝えられている特別な力を少女は使えることができた。


少女にその力が使えるとわかったこの国の者は、この国を救ってくれるよう少女に頼んだ。

今この国は瘴気に支配された魔物が多発していたからだ。

魔物とはいわば肉食動物より強い動物と思っていいだろう。

普通の動物にも魔力を持っているが体外に放つことも自身の肉体のために利用すこともできない一方で、魔物は自身の魔力で身体能力を高めたり、また魔法を使うことができる。

魔力を持ち魔法を使う人と何が違うかは、理性がなく、まるで本能的に人間を襲えと指示されているように人間を視界にとらえると襲ってくるところである。


また先程瘴気という言葉を出したが、瘴気についてはまだ詳しくわかっていない。

ただ瘴気は人間にとっては有毒であることだけはわかった。

瘴気にあてられた人間は暫くの間生きることが出来るが、次第に皮膚が爛れ、穴という穴から血が噴き出し、そして死に至る。

そんな瘴気は魔物にとっては死には至らないが、正気を失う、または己の自由を奪われるものだった。

瘴気の濃度にもよるが、瘴気が強いと瘴気にあてられた魔物は死んでも動き続けることがあるため、そうなってしまえば瘴気を払うことが出来ないこの国の者にはどうしようもできなかった。


だからこそ瘴気を払う力を持つ人間を求め、召喚した。

だがその力が少女だけの特別な力であることを、少女を意のままに操りたいと画策する者たちは少女に伝えなかった。


少女は力になってほしいとお願いされ、それを引き受けただけなのに、何故ここまで虐げられる理由がわからなかった。

そして少女はこの男たちから逃げることを決意する。


(どうせこの人たちは私を待ってくれない…)


少女が今まで男たちと一緒にいた理由は、少女には瘴気を払う力があっても魔物を退治する力がなかったためだ。


だからこそ見下された。


”俺たちが魔物を弱らすことが出来るから、お前の力が役に立つんだ”と。


”俺たちがいなければお前なんてすぐ死んでいるだろう”と。


”瘴気が払われた魔物はお前ではなく、俺たちが倒しているのだ。お前なんて何も役に立っていない”と。


確かに今までの旅もそうだった。

瘴気を払っても魔物そのものを弱らせることはできなかった。

気を失っていた魔物から瘴気を払うと、魔物はすぐさま意識を取り戻しそして襲い掛かってきた。


そんな少女を守ってくれたのは紛れもなく、少女を苦しめてきた男たちだったのだ。

だからこそ今まで一緒にいた。

いや、いるしかなかったのだ。

死にたくないから。


だけど、この男たちと一緒にいてもどうせ死んでしまうのではないか。

いつしかそう考えるようになったのだ。


森を進む中、男たちはその長い脚でどんどん先に進む。

少女の弱った体の事も一切考えていない足取りに、魔物がうようよ徘徊していると言われていた森の中を、少女はいつも一人取り残されてきた。



だから


(この男たちから逃げるチャンスはそこだ)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



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