11.髪の毛
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「サラ……お前何があったんだ?」
あの後無事に課題を終わらせ戻ってきた私たちは…というより私は、既に帰還していたレルリラチーム…いや、レルリラに”捕まった”。
「いや別に何もなかったんだけど…ねぇ?」
警戒を怠ることもなく、スムーズに討伐できた筈だとマリアとセファルドに同意を求めると、視線を泳がせながらも頷いてくれる。
二人は空気を読んでくれた。
だがそう思わないのがレルリラだ。
勿論今回ばかりはこの男だけではなく周りも同じ意見なのか、ひそひそと話し声をたてながら成り行きを見守っている。
ちなみに皆の視線の先は一箇所に注がれていた。
「だが…その髪は…」
多少なりとも注目されるだろうと思っていたが、皆が凝視する先はやはり”短くなった”私の髪に対してだった。
レルリラも周りの皆も、私の肩甲骨辺りまであった髪が、肩より短くなっていることに目が離せない様子。
勿論私にとってはなんでもない。
今まで髪を切ってなかったのはただたんに面倒だったというのもあるけど、そもそも王都の物価は高い。
髪を切るだけで私のお小遣いとして仕送りしてもらっているお金の殆どが消えてしまうのだ。
伸ばす以外の選択肢がなかった為に伸びた髪の毛が今回短くなっただけ。
そう。本当に全く問題ない。
「あ、これね。討伐対象じゃなかったんだけど…途中であったオークに髪の毛掴まれて……切っちゃった」
エリアAにはゴブリンがいるとは聞いてたけれど、オーク迄いるとは思ってなかったから油断したなと笑いながら話すが…
「…………」
何故か本人_私_よりもショックを受けていそうな様子に、私は不思議に思いながらなるべく明るく伝えることを心がけた。
なんでそんなに真っ青になってるのか全くわからないけど。
しかも周りの皆もだ。
あ、でもマルコたち平民組は「へー」って感じでみている。
俯くレルリラ。
私はレルリラの表情が読めなくなり恐る恐る近づいた。
「……………………」
「………あの…?」
「……………………」
「………おーい、話聞いてる?」
「………………」
「………………だめだ。反応がない。
ねぇ、レルリラに水ぶっかけてもいいと思う?」
下を俯いたまま反応がないレルリラを指さしながら周りに問うとブンブンと首を振られる。
その時だ。
レルリラの顔の前で手を振っていた私の手首をガシッと掴む。
私は思わず「ヒッ」と声を上げてしまったけど、これは誰もが驚くと思うんだ。
「………………………………決めた」
長い沈黙の後、ため息をつくように呟かれた一言に私は首をひねった。
「へ?………あ、あの…レルリラさん?一応聞くけど、なにを決めたの?」
「今度からお前と同じチームにすると決めた」
「は!?いやアンタね!私達がチーム組むのはパワーバランスが偏るって先生にダメって言われたでしょ!!」
無理無理無理無理無理無理無理無理!
ていうか今日も(最初の件を除いて)余裕だったのに、コイツと組んだら今後の課題全くタメにならないでしょ!
「れ、レルリラ様!サラの髪は私をかばってのことなので、サラは悪くはありません!」
「マリア!もっといってやって!」
擁護するマリア。
「他人を守る度に自身を傷つけるつもりか?」
「髪の毛だよ!?大したことないじゃん!」
それでもレルリラは意思を変えるつもりがないのか、厳しい表情を変えない。
そんなとき平然な態度を見せていた平民仲間が口を開く。
「あー、確かに髪の毛大事にしている平民の女子って珍しいぞ。俺の母ちゃんも家事の邪魔だっていって髪の毛短くしてるし」
今回レルリラとチームを組んでいたキアだ。
「さすが!ほら!同じチームの言葉ちゃんときいて!」
だけど反応したのは別の人だった。
キアと同じく、今回レルリラとチームを組んでいた伯爵家の令嬢リノス・トーアナが話に加わる。
「サラ!髪の毛は女性にとってとても大切な部位ですのよ!」
「リノスは黙ってて!」
ぎゃいぎゃいと騒ぐ中で、レルリラの表情が徐々に険しくなっていく。
うっわ、怖…くはないぞ!
しかも手首掴んでいる手にも若干だが力が強くなっていた。
跡がつくほどではないと思うけどそろそろ離してほしい。
「もう!!!!! 私にこの髪型が似合ってないっていうの!?」
叫んだ瞬間、一気に静まり返った。
え、なに? 言葉間違えた?
「………いや、似合っている」
なにを思ったのか、短い私の髪に手を伸ばすレルリラ。
レルリラの綺麗で長い指先から、サラサラと私の短い髪の毛が落ちる様子が異様に恥ずかしくなった。
ちょ、おま。この空気どうするのよ。