7.Bクラスとの対戦2
「おい!お前ら平民の為に初手だけは譲ってやろう!」
そう金髪が告げる。
ヨリス・ロールかリッケル・ランドールか、どっちがどっちか知らないけど金髪男でいいだろう。
そして茶髪男もニヤニヤして、防御魔法を発動する様子もうかがえない。
こいつらどんだけ私達を舐めているんだ。
「サー、聞いた?初手を譲ってくれるんだって」
「聞いた聞いた。お前の魔法と俺の魔法合わせたやつお見舞いしてやろうぜ」
前にシェイリンが見せてくれたやつとサーがいう。
私は、いいねそれ。というとサーはバチバチと雷を生み出した。
その雷を氷に纏わりつかせる。
そして分散させると一気に二人へと射出させた。
驚く金髪と茶髪だったが、さすがに魔法科に四年もいるだけあって体を捩じらせスレスレで避けたり防御魔法を展開してうまく避ける。
当たれば氷の威力もさることながら、雷の属性を混ぜている為”かすり傷”では済まないことを理解しているのだろう。
険しい表情を浮かべる二人に私は少しだけ口端があがる。
「<バーリリー・デオー_水のバリア>」
相手の二人が複数の攻撃に対処している最中に私は、サーに防御魔法を掛ける。
水の薄い膜が球体状でサーの体を包み込んだ。
「お?なんだこれ?」
「水魔法の防御だよ。これなら全身守れるからいいでしょ。
しかもレルリラ相手にもある程度は防いでくれることを確認済みだから、好きに暴れていいよ」
防御と言ったら支援魔法である壁などを思い浮かべるが、私はアラさん曰く攻撃防御ともに特化した水属性なのだ。
水魔法の特性を生かして、それを防御に変えることだって容易である。
まぁレルリラのアドバイスによるものなんだけどね。
『別に壁の形にこだわる必要ないだろう。身体の周りに纏わりつかせておけば死角もなくなるし、魔力を流しておけばある程度の魔法だって防げるんじゃないか?』
やってみろといって、ここまで完成させた私を誰か褒めて欲しいくらいだ。
まぁ欠点があるとしたら体全体を防御している為、物理攻撃は出来ないこと。
そして内側だけではなく外側からでも物理攻撃に弱いため、水の膜を割る、もしくは割られてしまうと防御はたちまち機能しなくなる。
そんな少し前だけど懐かしいことを思い出していると、攻撃を全てかわした二人組が凄い形相のまま魔法を繰り出した。
「<クー・ディー・ファウド_落雷>!!!」
「<トレンブレメント・ディー・テラー_地震>!!」
初手は譲るといっていたのに、随分心が狭いのね。
サーが金髪男の雷魔法を同じ雷の魔法で防ぐ中、私は揺れる地面の上に魔法を使うこともせず、立った状態でいると茶髪男はニィと笑って続けて魔法を発動させた。
「<フィシャー・ダンズ・ラー・ソル_地割>!!」
茶髪男の足元から私に向かって地面が割れていく。
そのスピードは意外にも速く、あっという間に私に迫る。
「……、<ゲル_氷結><フロタント_浮遊>」
だけど、私には遅く感じた。
それにそれをやるなら私の真下で魔法を発動させるべきだ。
そうじゃないと逃げる猶予を与えてしまうでしょう。
…まぁそういう余裕をなくすために最初別の魔法を使って体制を崩そうとしたと思うけれど、トレーニングしてきた私の体幹を甘く見てもらっては困る。
あ、やっぱり対戦となったら困らないね。
相手が油断してればその分私が有利になるんだから。
私は生み出した氷に浮遊の魔法を掛けると氷の上に乗った。
「ッ!<ソル_土>!」
割れる地面から私が回避すると、茶髪男は悔しそうな顔をしながら私達との距離を詰める。
魔法範囲が広くないのだろう、走りながら手を合わせて魔法を発動させると後方で大きな音が鳴る。
<ドンッ!!>
「…え?」
後ろを振り返ると土煙がもくもくと上がっている。
すぐに土煙がはれ見えるようになると、先生が魔法で生徒を守る様子が伺えた。
ぶちッと私は何かが切れるような音が聞こえる気がしたのは気の所為じゃない。
「…対戦相手じゃない人たちに攻撃するなんて許せない!!!サー!下がって!!
<マー・ディー・グラセー_氷壁>!!!!」
「お、おいサラ!」
サーが何かを言おうとしているが、発動した魔法を私は止めることはしない。
槍や刃なんて生み出してもよけられてしまうかもしれないのなら、避けられないくらい大きな魔法を生み出すまで。
私は二人を囲むように巨大な氷の壁を二つ生み出し、それをぶつけさせた。
「ふんっ」
ぱちんと指を鳴らして魔法を解除する。
せまる氷の壁に挟まれた二人は気を失ったのか、氷の壁が消えるとそのまま倒れる。
勿論倒れた二人を受け止める人はいないため、地面とそのままこんにちわだ。
私は階段のように氷を作ると、割られてない地面に戻る。
サーが歩いてきて、倒れた二人を見下ろした。
「あーあ…、俺全然攻撃してなかったってーのに」
残念そうに溜息をつきながらサーが言う。
「仕方ないじゃない。対戦相手じゃない人を狙うだなんて許せなかったんだもの」
そういった私だったが、サーはジト目で私を見た。
「なによ?」
「お前はそういうけど、あの茶髪男は別にそんなことしてないぞ。お前の死角の後方から魔法をぶつけようとしていたみたいだけど、お前の防御魔法で弾かれてあっちまで飛んで行ったんだ」
「へ?」
本当で?
「だからお前の誤解で俺はこの怒りをぶつけられなかったってわけだ」
「ご、ごめん…」
素直に謝る私にサーはもう一度気を失う二人を見下ろした。
「…いいよ。勝ちは勝ちだ。こいつらのこの顔見れただけでもスカッとしたよ」
薄く笑みを浮かべて皆の元に戻るサーに続き私も歩き出すと、観戦していたBクラスの生徒が二人に駆け寄る。
そしてBクラスの生徒達とすれ違い私とサーが皆の元まで戻ると、気付いたヒルガース先生はニコリと笑って親指を立てた。
私達も「勝ちましたよー!」と声を掛けると、呻き声が聞こえる。
「……ぐぬぬ、まさか平民がここまでやるとは…」
悔しそうな顔でヒルガース先生を見つめるエリシアン先生に私は驚いた。
”ぐぬぬ”っていう人、実際にいるんだ…。
そのうちハンカチを咥えそうな勢いのエリシアン先生に私は目が釘付けになる。
いつハンカチ取り出すのかな。とワクワクした。
「…で?まだやるんですか?うちのクラスは優秀な生徒が揃っているので構いませんが?」
先生は顎を上げ、エリシアン先生を見下ろす様にそう告げた。
だけど、ヒルガース先生もエリシアン先生も同じような身長の為全然様になっていない。
まぁ、こういうのは雰囲気だから、エリシアン先生が悔しそうにしているのならそれだけでした価値はあるのだろう。
エリシアン先生は「次は負けませんからね」と捨て台詞を残してBクラスの生徒に駆け寄った。
そしてまだ倒れている対戦相手に治癒魔法を掛け、クラス全員纏めて転移する。
目の前から消えたBクラスに、いや、エリシアン先生に先生は体をぶるぶると震わせ、そして叫んだ。
「やったぁああーーーー!先生はほんっとう心の底からスッキリしたぞおおお!!
だけどサラ、お前の防御魔法のあれちょっと改善しろ。周りに人いたらめちゃくちゃ危険だから」
「……はーい」
サーの言った通り、本当に私の防御魔法があの茶髪男の魔法を跳ね返してしまったみたいだ。
レルリラが火と風の属性だから、気付かなかったのも大きい。
弱い風魔法なら弾けるし、火なら打ち消したから_勿論水のバリアも崩れてしまうから張り直さなければいけないけれど_土魔法も弾けたりするのかと思ったのだが、まさか弾んでしまうとは思わなかったのだ。
これはこれで使い道はあるかもしれないけれど、チーム戦となったら味方にも怪我をさせてしまうかもしれない。
私は先生の指摘に素直に頷いたのだった。