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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
学園編~三学年~
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18 昇級試験③





練習場Gは簡単に言うと小さな森みたいな感じだ。

木が生い茂っていて、場所によっては湖やちょっとした地面の亀裂、低いけど崖もあって危ない感じ。

しかも魔物はいないけれど、動物はいる。

人間を襲わない兎や狐のような動物だけど、そんな環境だから今回の昇級試験の場所として選ばれたのだろう。


探知魔法は自分の魔力を広げ、他の魔力の位置を確認する方法だ。

小さな虫にだって魔力がある。

そんな小さくとも魔力が沢山ある練習場の中で人工石を見つけられるかが一番のネックとなる点で、探索魔法を身に着けて日が浅い私達にはハードルが高い場所である。


「レルリラ!勝負しよう!どっちが先に見つけられるか!」


「構わないが……、なにか賭けるのか?」


「じゃあ一つだけ勝った人が負けた人に言うこと聞かせられるってのはどう?」


そういった私に対してレルリラは一瞬目を見開いた後、楽しそうにフッて笑った。

なんだかもう勝った気でいるみたいだけど、勝負はこれからだ。


「いいな、それ」


「じゃあ決まりね!」


私は一度もレルリラに勝ったことはない。

でもそれはぶつかり合って対戦するという上での話で、今回のような個人戦ではない。

だから勝てる可能性だって絶対あるのだ。

だって条件は一緒なんだから。

それになにか賭けたほうが勝負しがいがあるというものだしね。


そうして私はレルリラと別れて、更に奥に進んでから足を止める。

そして目を閉じて魔力を放出させた。


目を閉じる必要はないけれど、集中する為には目を瞑った方がやりやすい。

自分の魔力を出来る限り薄め、そして広範囲に広げる。

自身の魔力から伝わる波形のようなものから伝わる魔力にはほとんどが動きがあった。


動物や虫たちが持っている魔力は人間よりも微弱だから判断するのは比較的楽だ。

でも残っている人工石に先生が少ない魔力しか込めてなかったら?

小動物に人工石をくくりつけているとしたら?

そうなると動物や虫だからと除外するのは気が早いだろう。

そして判断に困るのなら他の人工石を参考にすればいい。

だって私が練習場に入ったのはついさっき。

皆よりもだいぶ遅れての入場だ。

これくらいの情報をもらえないのはフェアじゃない。


今よりももっともっと遠くの場所まで探索できるよう放出する魔力の形を変える。

動きがある魔力はクラスメイトの者であると考えていいだろう。

なら人工石は……と、さらに集中する。

すると全く動きがない魔力にクラスメイトの者と思われる魔力反応があるのがわかった。


(…なるほど、どうやら人工石は動きのある何かにつけているわけではなさそう)


しかも先生がいったように込められた魔力にバラツキがあるから、魔力に対する反応もバラバラ。

それでも動きがないものを探せばいいとわかったのは大きな収穫だ。

ぐっと難易度が下がってくれたことはありがたく思いながら私は苦笑する。


苦笑した理由は見つけた人工石の場所が理由だ。

探知範囲を広げたことでついでに見つけた人工石の場所。

ちなみに周りに人が持つ強い魔力反応がなかったから、たぶん誰にもみつかってはいないものだ。

流石に見つけてる人がいたら、私が横取りしたみたいで気が引けるし。

でも今の場所から一番遠い場所なだけに、思わず苦笑したのだ。

練習場の端といってもいいくらい遠い場所である。

ちなみにどうやってこの広い練習場の端まで魔力を広めたかというと、円を描くように広めるのではなくて、真っ直ぐの棒のように形を変えて広げたのだ。

面積が抑えられればその分魔力も使わないから。

…まぁ、もっと薄く広められれば一番なんだけど。


残る時間から人工石を探す時間と往復する時間を差し引いても、結構ギリギリだと計算した私は足に強化魔法を掛けて駆け出した。


(もう!本当に体力つけておいてよかった!!)


今の私があるのは、レルリラが勝手に始めたトレーニングのお陰といってもいい。

学園の練習場は広いとはいえそれでも日々走らされている距離に比べたら断然短い。

息が上がるほどではないけれど、それでも体が火照るくらい走った私は目的の場所について再び探索魔法を掛けた。

そして自分の足元にあることがわかると、私は魔法を使って地面を抉る。

地面に立った感じでわかったけど、土の中にただ埋めたんじゃなくて、ちゃんと土を固めてあるからだ。


「あった!!!」


キラリと光る人工石を手にして、私は急いで駆け出した。


だって勝負しているからね!

今時点でお願いしたいことは特に思いつかないけど、これから出来るかもしれないし、なにより勝ちたい!!


人工石を見つけたことに対して喜びながら戻るとそこにはもうレルリラがいた。


「……へ?」


なんで?


「お!サラも見つけられたか!これで全員合格だな!

皆四学年への昇級合格おめでとう!」


パンパンと両手を合わせる先生に、嬉しそうな表情を浮かべる皆。

私も嬉しいけれど、ちょっと待って。

なんでレルリラの方が先にいるの?え?

隅々まで探してないけど、誰も狙ってなかった人工石は私のの手にあるんだよ?

え?本当になんで?


「いやー、さすがレルリラだな!

まさか俺の足元に隠してあった人工石を見つけられるとは!」


「足元…?先生の…?」


その言葉を聞いた私は復唱するかのように呟き、そしてレルリラがなんでもないかのように口を開く。


「ハールが採りに向かった人工石が、森にある最後の人工石だったからな」


「やっぱり最後のだったよね!?」


やっぱり私の探知は間違っていなかったと安堵したところで、じゃあレルリラはどこから…と考えた時先程の先生の言葉を思い出す。

つまり最後の一つは練習場の外にいた先生の足元に最初からあったということ。

私は勢いよく先生に体ごと向けた。


「練習場の中っていってたじゃないですか!」


「先生は練習場にあるとだけいったが、中にあるとは言ってないぞ?

入口も範囲内だ!」


ハハハハと笑う先生に、私はなんだそれと愕然とする。


「だがな、魔力が重なる部分の探知は非常に難しいものなんだ。

高い集中力で平面上から立体上に見えるようにならなければ見つけることは出来ない」


確かに先生の言う通り私の探知はまだまだ不完全だ。

地上の上ではある程度の形が魔力から伝わってくる波動というか、そんな感じでわかるが、魔力反応がぴったり重なってしまうともう見分けがつかない。

だから今の私では先生の足元にあった人工石を見つけることも区別することもできなかった。


「…もしレルリラ様が見つけられていなかったらどうしていたのですか…?」


「その時は伝えていた通り退学だな!」


このとき先生が初めて恐ろしく見えたが、幸運にもクラスから不合格者が出たわけでもないし、私は合格したことだけを喜べばいいかと息をついた。


「ハール」


「ん?あ、レルリラが勝ったってことだもんね。

なんか私にしてほしいことある?出来ることならするよ?」


私は振り向きレルリラに問いかけると、レルリラは少し悩み口を開く。


「……名前で呼んでいいか?」


「名前?私のってこと?」


「ああ」


なんとなくいつものレルリラらしくなく、落ち着かないような態度で尋ねるレルリラに私は首を傾げた。


「勿論呼んでいいけど、そんなことに使わなくていいよ」


「だが……」


「マルコ達だって名前で呼んでるんだよ?そんなことに使ったら勿体ないでしょ」


「……なら、後ででいいか?じっくり考える」


「レルリラが忘れないなら私は別に構わないけど?」


レルリラなら無理な事言わなそうだし。

それに私は忘れる可能性が高いけどレルリラなら覚えていそうだし、今無理に考えさせなくてもいっか、と思った私はレルリラの希望を受け入れた。

すると、嬉しそうに少しだけ口元を上げるレルリラをみて、なんだかいいことしたような気分になるから不思議だ。


「サラ」


「…、うん?」


「ありがとうな」


レルリラが躊躇いもなく私の名前を呼ぶことにもそうだが、誰がみても微笑んでいるとはっきりわかる笑みを向けられたことに、私は挙動不審気味になった。

それとこれは誰にも言えないことだけど、ドキッとした。


顔がいい人はもう少し自覚した方がいいと思う。




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