17 昇級試験②
昇級試験といっても日常と特段変わることはない。
いつもと同じように教室で始まるのを待ち、やってきた先生の言葉に従ってテストを受ける。
私達生徒は席に座り、やってくる先生を静かに待った。
そして鐘が鳴るのと同時にやってきた先生がテンション高めに告げる。
「やぁ!今日は昇級試験だ!はりきっていくぞ!!」
指パッチンを教室内に音を響かせて、私達全員を移動させる先生。
先生の突然の転移魔法にはもう誰も驚かなくなった。
先生が生徒に前触れもなく移動魔法をかけるのは、さすがに慣れたからである。
だけど移動させた場所は湖があったり小さいながらも崖があったり規模の小さい森で、戦う場所には不向きな練習場のために私達はキョロキョロと周りを見渡した。
「先生、試験内容は何ですか?」
「お!知りたいか!それはだなー………」
一人の生徒が尋ねるとごそごそとズボンのポケットに手を突っ込み、何かを取り出そうとする先生はとても楽しそうだ。
そして、じゃーんと取り出したものは形が歪な宝石みたいな石。
以前探知魔法の授業で見たような人工石に似ていたけれど、大きさは半分ほどのサイズだ。
「試験内容はこの人工石探しだ。
数は人数分用意しているし、隠している場所はこの練習場Gだけにした」
どうだ簡単だろう?と笑う先生に生徒の目は細くなる。
まぁ確かに昇級試験と考えれば簡単だ。
昇級試験は一年間で学んだことの復習のようなもので、基準点に達しなかった場合は退学すらあり得る。
だから一学年の時の筆記テストも簡単といえば簡単だったけれど、数が尋常じゃないほどの問題を出されたのだ。
なので今回の人工石探しという、探索魔法だけをみたらとても簡単である。
本当探すだけなら。
「ちなみに制限時間は昼までの四時間。それを過ぎたら問答無用で不合格だ」
「え!二度目はありませんの!?」
「ない!」
はっきりと告げた先生に生徒達は騒ぎ出す。
不合格、という言葉には退学という意味があるからだ。
今までは二度チャンスが与えられていたが今回ないと告げられたことが私達を困惑させる。
「まぁ落ち着け。先生も考えなしじゃない。
人工石にはそれぞれ魔力を調整したし、生徒それぞれの実力も先生はわかっているつもりだ」
「なら、どうするんです?」
「そこで、開始のタイミングをずらすこととする!
同じスタートじゃなくなれば、自信のない生徒へのチャンスになるだろう?……まぁそれでも見つけられなかったら終わりだし、後ろのやつほど時間的な余裕もないから大変だけどな。
じゃあ名前を呼ばれた者からスタートするぞ」
リム・セファルド、シャル・マビス、カイウン・ベジェリノと三人が名前を呼ばれ練習場Gエリアに入っていく。
続けて呼ばれたのはマリア・シティシスとリノス・トーアナ、そしてナオ・メシュジの三人。
その三人が入るとすぐに最初に入ったシャルが人工石を見つけて戻ってきた。
「先生見つけました!」
「おお!やったな!」
シャルはとても嬉しそうに人工石を先生に渡した。
その人工石は初めて探知魔法を試してみたときと同じような大きさだった。
(人工石の魔力調整ってこういうことね…)
試験前に掲げた人工石はもっと小さかったから、込める量の魔力量だって大したものにならない。
どうやって調整したのだろうと思っていたけれど、そもそも用意している人工石の大きさが違っていた。
ちなみにシャルは前髪がとても長くて表情なんて全然わからないような容貌をもっていた人だけど、駆け寄った事で前髪が分かれ素顔が見える。
だからとても嬉しそうだとわかった。
なんというか、自信に満ち溢れているように見えた。
先生は人工石を受け取ると、次の三組目であるリク・シェイリンとアコ・クルオーディ、そしてエステルの名前を呼んだ。
エステルを応援したい気持ちは当然だが、シェイリンもアコも私と同じ水属性だし、是非とも頑張ってもらいたいものだ。
三組目が中に入ると最初に入っていった残りの二人が戻るが、その後なかなか生徒が戻らない。
まぁ確かにこの練習場は広いと言われているから、小さいものを探すとなったら大変だろう。
……でも気になる。
私はこっそり魔力を広げて練習場内を確認しようとしたところでレルリラに止められた。
「まだ開始の合図がないんだから止めておいた方が良い。
不正だと判断されてしまったら元も子もないだろう」
「……そうね」
クラスメイトがどうしているか確認しようと思っただけだけど、確かにレルリラの言う通り今探索をしてしまったら、開始前に答えを知るということだもの。
そしてそれから少し時間をおいてから二組目に入った生徒がもちらほらと戻ってくる。
四組目として呼ばれたのはレロサーナとサー、そしてキアとマルコ。
実力順だと先生は言ってたけれど、マルコ達はクラスの上位だったんだと私は驚いた。
そういえばレロサーナとエステルに聞いた気もしなくもないけど、とりあえず驚いた。
「ん?…あれ、私とレルリラは最後ですか?」
「当然だろ」
なにを当たり前のことをとため息をつきながら言われたが、私をレルリラと一緒にしないでもらいたい。
私はレルリラに一度も勝ったことがないのだから。
「ちなみに協力は厳禁だからな。
これは探索魔法のテストとともに、自分の魔力をいかに自在に操り広げられるかをテストしているんだから」
「わかりました」
そして残り時間二時間になってやっと私とレルリラが練習場Gに足を踏み入れることが出来た。




