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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
学園編~三学年~
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16 昇級試験




カッ!カッ!と鉄同士がぶつかり合う、鈍く、だけど高い音が室内に響き渡る。

通常の机上授業で使用している教室のおよそ三倍の広さの練習場Cは、申請すれば誰でも使用することが出来る場所だ。

その場所で私とレルリラが互いに剣を持ち、自由自在に振っていた。


「レルリラ!手、抜いてんじゃ、ないの!?」


日々のトレーニングの効果でやっと真剣を扱えるようになった私は遂に木剣から卒業した。


「ハールに合わせてるだけだが」


真顔で挑発的な言葉を口にするが、レルリラは決して挑発しているわけではない。

天然なのだ。

私の剣を軽々と受け止めたレルリラは、「まだ軽いな」とか言っている時点で天然なのだ。

もう本当に生徒なの?先生にしか見えないんだけど。

歳もサバ読んでいるんじゃないかと本気でそう思う。

身長もいつの間にか成長して、今では私より高いから余計にそう思わせられるのだ。


「私は!これでも!男子に!勝てるし!」


勿論全戦全勝とはいかなくても、いい勝負をするようになったという意味だ。

少し前の私は剣だけで言うと真ん中のちょい下くらいだったから。

勿論魔法科だけの話である。


「俺以外には、だろ?」


「アンタに!勝ったこと!あるし!」


「負けた記憶は料理しかないんだが…」


無駄に力が入ってしまっているのだろう汗だくの私に対して、レルリラは涼しい顔して汗一つかいていない。

くそぉ、まだまだ鍛えなきゃ。

せめてこいつに汗くらいはかいてもらわないと、ライバルとしての立場がない。


つか今コイツなんていった!?

天然にも程があるぞ!


そう思った時、ガラリと扉が開かれる。


「サラ!もうすぐ時間よ!」


私を呼びに来たエステルの掛け声に気を取られた私に、スッと身をかがめたレルリラは一気に私の懐に踏み込んだ。


「ヤ、バっ!」


咄嗟に剣を構えたが遅かった。

キー―ン という音とびりびりと痺れる私の手。

そして私の手から離れ遠くに飛ばされた剣が落ちる音が練習場に響いた。


鞘に納めたレルリラは、痺れる私の手を掴み回復魔法をかける。


「汗ふいてから来いよ」


「ちゃんと拭くわよ…、ありがとう…」


痺れの取れた手を握ったり開いたりを繰り返していると、レルリラが私の手首を食い入るように見てくる。


「大丈夫。痛みはないよ。

てかレルリラ、いつも治癒魔法かけてくれるよね。なんで?」


「なんでって、……お前不得意だろ」


不得意という言葉には語弊がある。

別に治癒魔法に効果がないわけではなく、寧ろ効果がありすぎるのだ。


治癒魔法を初めて習い、今後は人を相手にということで指先を軽く傷つけ、隣の人同士で魔法を掛け合った時のことだ。

私はレルリラの指先に手をかざして魔法をかけた。

通常であれば魔法がかけられた部分だけが光りを放ち完治するのだが、何故か思った以上の魔力量が減った感覚に疑問を抱いた。

だけどそんなものだろうと軽く考え、その時の私は放っておいたのだ。   

でも実際に魔法をかけられたレルリラに、「全身に魔法がかかっていた」といわれ、思った以上に減った魔力量の行き先がわかったのだ。

目で見える場所に傷があったということは、私自身もわかっているはずで、通常なら全身に魔法がかかるわけもないのに。

だけど原因はわからない。

何故なら魔法陣には必要な魔力量も刻み込むために、記入以上の魔力量が流れることがなんてないからだ。

必要だと思った魔力量を魔法陣に記し、その分だけの魔力量が消費される。

魔力量が少なすぎれば発動しないし、足りないと思った時は重ね掛けするか、魔法をやり直す。

だから私も先生も不思議だったのだ。

何故私がかける治癒魔法だけが、しかも人を相手にした時だけ魔力がより多く流れてしまうのか。

実際に描いた魔法陣を見てもらっても問題はないという。

だけど治癒魔法に関してだけは、記入以上の魔力が流れ出てしまうのだ。


(結果だけ見れば問題なさそうだけど…)


実際に魔力を流しすぎて悪影響を与えたことはない。

だけどそれだと駄目なのだ。

もし今後誰かに治癒魔法をかけることがあったとき、今みたいに魔力操作が効かずに症状を悪化をさせてしまったら…。

だからいつまでも魔力操作が出来ない私は、治癒魔法に苦手意識を持っていて、先生にも解決できない問題だからと、レルリラは私に治癒魔法を使わせないようにしている。


悩む私にレルリラは気にすることもなく踵を返す。


「遅れないようにな」


じゃあ先行くからと後ろ手に振って練習場を後にするレルリラに、私も練習場にある時計を見て弾き飛ばされた剣を拾い、壁側に置いていた鞄に駆け寄った。


「ごめん!着替えたらすぐ行くから、エステルは教室いってて!」


「わかったわ!歩いてるから、早く来てね!」


そう返したエステルに私は はーい と返事をしつつ鞄から制服を取り出し、着替えを進める。

汗が染み込んだシャツはもう脱いだ方がいいかな。

魔法で汗の水分を抜けばいいけるかもしれないけれど、汗臭かったら匂いは洗うまでどうしようもないし。

ババッと着替えて、歩いているエステルを追った。





「それにしてもよかったわね」


というのはレロサーナで、うんうんと頷きながら同意するのはエステルだ。


「え?なにが?」


話の流れ的にレルリラのことに関してだと思うが、正直何が全く分からない。


「一時期レルリラ様ってばサラから距離を置こうとしたじゃない?」


「あー、確かに。今でも意味わからないけど」


私はレロサーナの言葉に同意した。

確かに一時期レルリラが私を避けようとした時期があった。

あれは確か……、レルリラが告白の為に呼び出されたときだ。


告白の時にレルリラと女子との間で私の話があったのかまではわからないけど、レルリラは私を避け始めた。

私はそれが気にくわず、そしてトレーニングまでも中断しようとしたレルリラに言ってやったのだ。「アンタなんなんだ」と。

自分でやり始めたことなんだから、中途半端に終わるな。と。

今終わったらこっちが困る。と。

自己中心的な訴えではあるけど、急に避けられ始めた私は悪くないと思う。


レルリラも自分が悪いという自覚はあったのか、それからは態度を改めてくれた。

そしていつも通りに戻ったのである。


「レルリラ様が元に戻ってくれてよかったわね」


「元に戻るも何も、最初に始めたのはレルリラなんだから、最後まで付き合ってもらわないと!」


私はそういったが、レロサーナとエステルの言葉は私の気持ちを表していた。

レルリラが元に戻って本当によかったと思ったのだ。

そして、私がレルリラに距離を置こうといった言葉を、実際に体験することで、自分がレルリラにどれだけ酷い言葉を伝えたのかと実感した。


「…でもさぁ」


「なに?」


「どうしたの?」


不思議そうに首を傾げる二人に私は口端を上げる。


「そういうこというってことは二人も、レルリラの特訓に参加したいってことだよね?

大丈夫!いつでも参加可能だよ!」


それにレルリラだって拒否することもないと思う。と告げるとエステルは顔を青ざめレロサーナは勢いよく首を横に振った。


「馬鹿なこと言わないで。エステルから聞いたわ。以前マルコさんが貴方たちのトレーニングに参加したと。その時の異常な疲労っぷりは女の私には到底厳しいものなの!」


「私も女なんだけど」


「いい!?貴女とレルリラ様ならトレーニングメニューも大したことないだろうけど、貴方たち二人と私たちの差がどれほど開いているか……!」


「そんなに差はないんじゃ_」


「馬鹿な事いわないで!!」


「_……はい」


「いい?私達も魔法精度は上がって威力の大きい魔法も打てるようにはなったわ。

でも持っている魔力量が全く違うのよ。天と地の差といってもいいくらい差があるわ。

そんな化け物じみた人たちと同じトレーニングとか………、体がいくつあっても足りないじゃない!」


凄い剣幕で捲し立てられるけれど、隣でうんうんと頷くエステルを見て言葉を飲み込んだ。

なんか人じゃないようにいわれて悲しいという気持ちが大きい。

それに魔力量が多いといってもそれは基準が学生の中で考えているだけで、一般的に見たら私はまだまだ平均中の平均だと思っている。


「でもサラ、なにもこんな日にまでトレーニングしなくてもいいんじゃないの?」


心配と共に疑問を問いかけられた私はそれを否定した。

エステルが言う今日なにがあるかというと、四学年への昇級試験があるのだ。

試験内容が明かされていない為、他の生徒は前日から魔力を温存して備えているだろうから、私とレルリラのように当日、試験が始まる前から疲労がたまることをするのをよく思っていないようだ。

まぁ、汗をガッツリかいて疲労を溜めたのは私だけの様だけど。


「大丈夫よ。それにいつものルーティーンがなくなるほうが調子が狂うし。

試験には絶対に合格してみせるから、一緒に昇級しよう!」


私の返事に安堵するエステルに対し、レロサーナが少し悪い笑みを浮かべる。


「疲れているサラに勝つなら今みたいね」


「あ、言ったわねーレロサーナ!

絶対に負けないから!」


「ふふふ」





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