14 優しいクラスメイト②
「でもそれあの時いたのって男爵家ばかりだったよね?他の子たちはどうして?」
私は首を傾げる。
あの時私達に声を掛けたのはレロサーナとエステルだけじゃなく、セファルドやベジェリノ達男爵家の子息令息だったからだ。
「それも貴方がきっかけよ」
「私?」
レロサーナは頷いた。
「まずマリア様。レルリラ様を覗けばクラスで一番高い侯爵家の令嬢だわ。
貴方はマリア様が困っている時無条件で助けてあげたでしょう?」
鉢植え事件のことを言っているのか、レロサーナの言葉に私はあの一件から確かに他の子たちからの態度が柔らかくなったことを思い出す。
「そして一番のきっかけはサラとレルリラ様がぶつかりあった二年の時。
正直見ている側してもとても盛り上がる試合だったわ。まだ二年になったばかりの状態であれだけの魔法を繰り広げるんだから。
だからね、平民だからという理由で蔑むんではなく、同じ魔法使いとして対等の立場を築き、そして高め合った方がいいと、きっと皆そう判断したのだと思うの」
「サラは平民で、貴族のように教育を受けていたわけではなかったはずなのに、メキメキと実力をつけた。それに……」
エステルが言葉をやめ、一度私の隣に座っているレルリラに視線を向ける。
レルリラはエステルの視線に気づいていないのか、そのまま本を読み続けた。
「それに?」
私が尋ねるとエステルは苦笑して私の耳に近づくように屈む。
レルリラの前では言いづらい事なのだろうか。
『一度他の人たちがサラ達のことを悪く言っていた時があったの。その時レルリラ様が咎めたの。
“努力もしない奴たちが何故人を非難できるんだ”って』
エステルはそういうと屈んでいた姿勢を戻した。
そして私に笑う。
「それからレルリラ様もサラに関わるようになって、サラも必死で応えて実力を高めていっている。
それにサラだけじゃなくて、マルコさん達もクラスの上位の成績を残しているわ。
平民だから、と思うこと自体不自然に感じ始めたからこそ、他の人たちも貴方たちに歩み寄り、今の関係が出来たのだと思うの」
レロサーナとエステルにそう言われ、私は目を瞬いた。
二年のあの試合があったから、そこが仲良くなったきっかけだと思っていたが、まさかレルリラがそれより前に私を認識しているとは思ってもいなかった。
私は少しだけ自分の頬が熱を帯びるのを感じた。
「わ、…私は普通のことを普通にやって、それで自分のために今までやってきてたけど、でも、そういうこといわれると……照れるね」
「ふふ、そういうところも好感が持てるわ」
エステルがくすくす笑ってそう告げるも、私の顔の熱は引かない。
魔法を使って氷を顔に当てていると、メシュジがレルリラを呼ぶ声が聞こえ、レルリラが席を立つ。
「どこいくんだろ…?次移動授業じゃないのに……」
「たぶん告白よ」
「告白!?」
私はレロサーナの言葉に驚いた。
貴族は見合いで婚約者を決めているもんだと思っていたからだ。
そんなことをいうとレロサーナとエステルは呆れるような表情で私を見る。
え、ちがうの?
「いつの時代の話をしているのよ」
「そりゃあ昔は家同士に利益があるよう親が子供の婚約者を決めていたけど、今はそうじゃないわ」
「政略結婚も完全にはなくなっていないけれど、そういう事情で婚姻相手を決める風習はなくなってきているのよ」
「え、そうなんだ?」
私は尋ねるも思い出す。
確かにレルリラの両親も恋愛結婚だっていっていた。
昔の風習が抜けていないレルリラのおじいちゃんは認めてはいないようだけど。
「政略結婚しても両者にどんな形であれ情が生まれない家庭は、それはもう悲惨な運命を歩むことになったのよ」
「ひ、悲惨な?」
「ええ、口には出せない恐ろしい事よ」
口には出せないことってなんだろうと私は聞きたいような、聞きたくないような不思議な気持ちになる。
「だからね、今では学生時代に相手を見つけろと、親が子供に行って学園生活を送らせるのよ。
レルリラ様が呼び出されたのも告白をされるためだと私は思うわ」
「ええ。レルリラ様の最近の人気上昇に加え、先程サラから聞いた話を考えたらね」
「私の話って今朝の縦ロール女性のことだよね?それがどうして告白に繋がるの?」
嫌がらせが減る話につながるならともかく、何故告白に繋がるのかがわからなくて私は首を傾げた。
「本人に直接話をしっかりつけないと痛い目を見るって気付いたからよ」
「実際犠牲にあったその人物を見た人は話を広めたはずよ。下手に人を介入させるとレルリラ様のトレーニングに参加させられることになって痛い目をみるって」
「これからもっと呼び出しが多くなると思うわ」
「それと比例してサラへの嫌がらせもなくなるといいのだけどね」
レロサーナとエステルが話している間、私は思わずレルリラが出ていった扉を見つめてしまった。
なんで見つめたのか聞かれても、意識していない無意識のことだから答えられないけれど、それでも扉を見つめる時、いい気持ちではないことだけは確かだった。




