4 父からの提案
「サラ、たまにはお父さんと一緒にクエストに行くか?」
危険もなく難しくもないクエストを受けたときは、こうしてお父さんは度々私に聞いてくるようになった。
前まではお父さんの問いかけにすぐ頷いて着いて行っていたけれど、今回の私は断った。
「ううん。今日はね、おじさんが冒険のことお話してくれるんだって!
だからお父さん一人で行ってきて!」
「そ、そうか……」
肩を落とすお父さんに手を振って、私はギルドに向かった。
そして途中でマルコ達に会い、私はニーナとマルコ、リクスと一緒にギルドに向かう。
辿り着くと私達だけじゃなくて、他の子供たちもいた。
今日はお勉強がない為、ここに集まっているのは純粋におじさんのお話を楽しみにしている子たちなのだ。
おじさんは話だけじゃなくて、魔法を使って実際に見てきた光景を映し出してもくれる。
だから冒険者という仕事に興味がない子でも、おじさんの話を聞きに来た子も結構いる。
ちなみに私のお気に入りの話は海。
マーオ町の近くに海はないらしいけど、海というのは湖よりも大きい水たまりらしくて、おじさんの魔法で映し出された海の映像はキラキラしてとても綺麗だった。
海には森と同じように魔物がたくさん住んでいるんだけど、それ以上に美味しいお魚がたくさんいるらしい。
海が近くにないマーオ町では干し魚くらいしか入ってこないけど、おじさんの話に出てきたお刺身っていう料理が印象的だった。
どんな味なんだろう。私も食べてみたい。と涎を垂らしそうになったことを覚えている。
そんな感じでおじさんは冒険者として旅をしていた話をたくさんしてくれたのだ。
綺麗な光景や、辿り着いた町での出会い、仲間との出会いや受けたクエストといわれる仕事の達成感等。
ちなみにおじさんはSランク冒険者で国にも認められた実力者らしい。
そんな凄い人でもあることが、私達子供の心に更に夢を与えた。
「はい!おじさん!」
「おじさんじゃなくてギルド長な。
で、どうした?」
「おじさんはなんで冒険者をやってたの?」
一人の男の子がおじさんに質問した。
確かにそれは気になると私は思った。
おじさんが冒険者をやっていたのは自然な事のように感じたけれど、でもそうじゃない。
冒険者をやりたいと思ったきっかけになるような出来事があったのかもしれないからだ。
そしておじさん、ううんギルド長はその質問に対し、ニヤリと笑うとこう告げた。
「知らない世界をみたいと思ったことがきっかけだったが、俺が実際に冒険者として踏み出す理由となったのは……」
■
「それでね!おじさんがこの時こう言ったんだって!」
今日もおじさんから聞いた話をお母さんとお父さんに話していると、お父さんが眉を下げている様子が視界に映る。
ちなみに今は晩御飯の時間だ。
私の前にはお父さんが座り、その隣にはお母さんが座っている。
「どうしたの?」
私は首を傾げながらお父さんを不思議そうに見上げた。
「サラ、…お前もしかして冒険者になりたい、とか考えてないよな?」
恐る恐るといった様子で私に尋ねたお父さんに、お母さんは驚いた顔をした後小さくため息をついていた。
一方私はまるで雷にでも打たれたような衝撃を受けた。
おじさんのように強くなりたい、色んな経験をしてみたいと漠然と思っていたけれど、子供の私はそれがよくわかっていなかった。
だけどお父さんの一言で、欠けていたピースがぴったりとハマった感覚を受けた。
そうだ。私はおじさんみたいに冒険者になって、沢山色んな経験をしたい。
そして強くなって、あの時私のお父さんを助けてくれたみたいに、私も困っている人を助けたい。
それにおじさんが冒険者として住んでいた町を出るきっかけとなった、聖女の楽園っていう場所にも行ってみたいと、そう思った。
「うん!わたし冒険者になりたい!なる!」
目をキラキラとさせて首を何度も縦に振る私と、お父さんの脇腹を小突くお母さん。
おじさんは長年冒険者として活動していたけれど、まだその聖女の楽園という場所を突き止められていないらしい。
というか今まで誰も見たこともない場所がまだこの世界になるだなんてと、私は胸を高鳴らせたのだ。
「さ、サラ……」
「ほら、だから言ったじゃない」
「だ、だってな…まさか自覚してなかったとは思わなかったんだ…」
そんなやり取りをしている二人を不思議に思いながらも、私は食い気味に身を乗り出した。
「ねえ!冒険者って子供の私にもなれるんでしょ!?
ギルドで、私よりちょっと大きい子供がクエストうけてるのみたことあるよ!ね!明日登録しにいこうよ!」
「あ、明日!?」
「だ、だめよ!」
「え…、だめ…なの?」
自分のなりたい夢をまさか否定されると思っていなかった私は悲し気な目で二人を見上げる。
「私、冒険者になっちゃいけない、の?」
「あ、…そうじゃなくてね…」
「サラ、冒険者は危険な仕事なんだ。お父さんとお母さんはまだ小さいサラを危険なことが多い冒険者にしたくないだけなんだ」
だから、否定しているわけじゃないよと告げるお父さんに、あふれ出てきた涙が止まる。
それでも溜まった涙が引っ込むことがない為、私は服の袖でゴシゴシと目を擦った。
「じゃあ私が大きくなったら冒険者に登録してもいいってことだよね!」
「へ!?」
「違うの?」
何故か頭を抱えて悩むお父さんに、「はぁ」とお母さんは息をついた。
「そ、そうだ!オーレ学園に合格して、無事卒業出来たらお父さんもお母さんも手放しで喜べるぞ!」
「オーレ学園?なにそれ?」
「国で一番凄い学園なんだぞ!そこに合格して無事に卒業出来たら、サラが冒険者になっても大丈夫、安心できるってお父さんは思える!」
笑顔のように見えたお父さんはなにやら顔が引きつっていたけれど、でも私はお父さんの言葉に目を輝かせた。
だってそこに通えばお父さんを安心させてあげられるってことなんだから。
「じゃあ私、そのオーレ学園に通えるようにがんばるよ!」
お父さんの提案に私の鼻息はきっととても荒くなっただろう。
ギルドでやっている勉強もたくさんたくさん頑張って、オーレ学園に入ってみせる!そんな意気込みを見せた私に、お父さんは目を瞬かせ、お母さんは苦笑しながらお父さんの肩を叩いていた。