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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
学園編~三学年~
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11 呼び出し





次の日の朝、私はいつも通り目を覚ました。

いつも通りといってもレルリラとの特訓は夜だけじゃなくて朝にもあるから、早起きにはなれている。

私は服を着替えてから顔を洗い、ついでに口を濯いでから水を飲む。

この部屋にはキッチンスペースはないが水道はちゃんと用意されている。

まぁ用意されてなくても私は水属性の魔法使いだからなんとかなるんだけどね。


食堂に着くとまだ開いていない食堂のシャッターの前で金髪縦ロールの女性が、ドレスをばっちりと着こなして立っていた。

顔は知らない人だ。でもこの寮にいるということは私と同学年ということだろう。

別のクラスの子なら私が顔を知らなくても当然だ。関りがないのだから。

そしてこういっては悪口になってしまうから口には出さないが、少し近づきたくないと思ってしまう雰囲気の持ち主だった。

主に髪型が。


たぶんあの子が私に手紙を渡した子なんだろうと思う。

ツンツンしていそうな雰囲気をもつ彼女を見たら、あの手紙の内容はなんとも納得してしまうからだ。

そして同時にどうも陰険そうな嫌がらせをしてきたイメージと彼女はかけ離れていることが不思議だ。

もしかして複数人いるのだろうか。


私は出来れば近づきたくない気持ちと、早く問題を一つでも解決してしまいたいと思う気持ちで金髪縦ロール女性に近づいた。


「……あの、昨夜私に手紙を送った方ですか?」


「ええ。そうですわ」


扉に挟んであったあの手紙を見せて問うと、ギッと鋭い視線を向けられる。

睨むという表現が一番近い。

それくらい目尻を険しく吊り上げて、私を睨みつけているのだ。


私は思わず尻込みして、一歩後ずさりしてしまう。

そんな私の様子にふと金髪縦ロールが表情を和らげた。

そしてどこからともなく取り出した扇で口元を隠す仕草は貴族のイメージそのもの。

でもクラスの皆も最初こんな感じだったね。

こんな眼力すごくなかったけど。

そう思ったら気持ちが楽になった気がした。


「こんなお早い時間に本当に来られるとは思いませんでしたわ」


鼻で笑うように告げられて、私は少しむっとしながらもグッと堪える。


「…手紙を頂きましたので当然です」


「ふふ。そうですわね。

いくらこの学園に通っていても、貴女の立場は変わりませんもの」


「……そう、ですね?」


ん?よく意味がわからない。

これは話がかみ合っているのかどうか私は疑問に思った。

あれかな?人を見下すような目をしているから、平民は平民として大人しくしていろってことを言いたいのかな?


金髪縦ロール女性は鼻で笑うと天井を見上げた。


「それにしても朝はこんなにも空気が澄んでいるのですね。

私初めて知りましたわ」


「……??」


その言葉をいうなら早朝という時間は合っているけど、場所は外で言う言葉ではないか?

今は寮の食堂前で決して外ではない。

生徒が快適に過ごせるよう気温が保たれているとはいえ、この場で空気が澄んでいるという表現は少しおかしい気がした。


この女性の真意が読めず私は思わず眉をひそめてしまう。

そして、手紙で呼び出した用件は結局なんなのか、と思っているところだった。


「…これほど言っても伝わらないだなんて…。やはり下賤な者には高貴なる私の言葉が伝わらないのですね」


ボソリと呟かれた目の前の女性の言葉に対し、私は貴族の中でも高位貴族は遠回しに伝える隠喩話法が活用されていると先生に聞いたことを思い出す。

ちなみにいつ聞いたかというと、カーテシーの最中だ。

私の覚えが悪いから時間を有効活用するために、言葉で伝えられるものは伝えられた。

その中に隠喩話法というのがあったのだ。

隠喩話法とは、隠喩を使い話の中に含まれている言葉を包み隠す表現、つまり多くを語る話法である。

例えば「あの人の考えは風変わりで斬新だ」という言葉に対して、「あの人の非常に富裕な思考は高位な貴族層にも通用する」という意味になることもあれば、「あの人の一風変わった思考は、受け入れられるものではない」という意味にも捕らえられると先生が例として挙げていた。

つまり逃げ道がある話し方だということと私は覚えている。


(じゃあ、そう考えると今までの彼女の言葉はもしかして…)


私は目の前の女性が発した言葉を、悪い意味が含まれている隠喩話法だと考えながら思い返す。


『早い時間に本当に来られるとは思わなかった』については、早い時間にもかかわらず、いつでも都合を付けられる人間ってこと?

『立場は変わらない』という言葉は、レルリラみたいな高位貴族と関わっても、私自身平民という立場は変わらないってことであってる?

『朝はこんなにも空気が澄んでいる』というのは、最初の言葉に加え、高貴な自分はしらなかったという意味?


あー、難しい。面倒くさいし回りくどい。

というか、高貴な自分の言葉が通じないって、どんだけ自分のことが上だと思っているのか。

いや、私は平民だから立場上では上だけどさ。

でも学園では対等に、でしょ?


もしかしたらもっと違う意味が込められているのかもしれないけれど、下賤な者って言った時点でいい意味が一切含まれていないことだけは確実だ。


私が隠喩話法に気付くことが出来、その言葉の裏に察することができたのも授業を担当してくれた先生のお陰だ。

というか、先生が例題であげた言葉の一部がそのまま使われていたところがあったからこそ、私は気付くことが出来た。


”マナーを心得ている人は、中庸や調和の法則を知っており、決して調和を乱しません。”


決して曲がることがない姿勢に、強い意志を宿した瞳をする先生の姿が脳内に思い浮かんだ。


(先生は言っていたわ。”学園内において、全ての生徒は等しく、社会的身分や性別に関わらず差別を行わない”って)


その言葉は先生たちが指導するうえで心掛けているように聞こえる言葉だけど、それを私達に告げたということは生徒達にもそう思ってほしいということだと私は思っているし、私のクラスの雰囲気がいいのも先生の言葉を皆が”そう”とらえているからだと私は思っている。


ああ、私のクラスの人たちってなんて素晴らしい人達なんだ。

私みんなと一緒で本当に良かった。


私はそっと目を開け、目の前の女性に目線を向ける。

さきほどまで明らかな敵意を見せていた金髪縦ロール女性は、まるでなかったように私に対して微笑んでいた。

”もしかして言葉通りの意味じゃない?”と感じてしまうの豹変ぶりだった。


私は無意識に入ってしまっていた肩の力をふっと抜いた。


背筋を伸ばし


胸を張り


少し顎を引く。


(…視線は相手をまっすぐにみすえて、だったよね…)


そして常に口端を上げ、笑顔を忘れない。

絶対に嘆いたり打ちひしがれた様子は見せない。

見せてたまるかってもんよ!


「話があると伺いましたが、伝えたい事はもうお済でしょうか?」


そう口にすると、金髪縦ロールの女性の目が大きく見開いた。


「…出たわね。貴女の本性が!!」





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