8 関係→友達(?)
レロサーナとエステルに寮の私の部屋をお願いして数週間が経った。
といっても常に見張ってもらうわけにはいかないので、たまに様子をみるだけ。
それでも私の部屋の扉に嫌がらせをするような人を目撃できなかったので、嫌がらせ事件への解決はまだまだかかりそうだ。
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「お前さ、レルリラと仲いいだろ」
「うん、少なくとも私はそう思ってるけど……、それがどうしたの?」
いつものようにレロサーナとエステルと一緒に行動していた私を呼び出し、意味ありげに告げるマルコに私は首を傾げた。
マルコと一緒にいるキアとサーも同じように、なんだか難しそうな顔をしているから余計に不安に思う。
「…なにかあった?」
「いや、……あったって聞かれたらないが…、飯食べている時変な話が聞こえてよ…」
「変な話?どんな?」
話の内容を問うと、マルコ達は話し始めた。
話を聞いていくうちに頭が痛くなるような、そんな感覚がしてくるほど幼稚な内容だった為、私は顔を思いっきり引き攣らせる。
そして、嫌がらせの原因もこれではっきりしたようなものだ。
「…つまり、他のクラスの人たちが私を気にくわないと好き勝手言ってるって事ね」
レルリラという高位貴族にこびている平民女。
平民でズルでもしないとあんな成績を残せるわけがない。
先生にも何か手をまわしている。もしかしたら脅されているんじゃないか。
顔も良くないくせに、言い寄られているレルリラ様が可哀そう。
そんな感じの話を食堂で昼ご飯を食べようとしたときに、マルコ達の耳に入ったようだ。
そしてそんな話をするグループにある女だけのグループが近寄ってきて、なにかを耳打ちする。
すると楽しそうな笑い声が聞こえてきたらしい。
その様子を見て、もしかしたら私がなにかされているんじゃないかと、三人は友達として心配してくれたようだ。
(学園の食堂は学年ごとじゃなくて、全学年の生徒が利用するものだからね……)
同じクラスの人たちは色をつけることなく判断をしてくれるが、他のクラスの人達は違うということか。
確かに先生の言葉で嫌がらせをしてきた理由の一つとして、レルリラ関係かなと思う気持ちもあったけど、流石にそうじゃないだろうと私は考えていたんだ。
そこまで考えて、ふと疑問に思った。
「ちなみにアンタらはどう思う?私とレルリラを見て」
「どうって、なぁ?」
言葉を濁して互いに頷きあうマルコ達。
私は意味がわからずに質問を変えて再度問いかける。
「つまり、普通の友達関係に見えるってことであってる?」
「普通……、いや、ううーん、どうだろう…」
「違うの?」
「いや、うーん、……俺たちにはもう当たり前の光景だけどさ」
「うん」
「見慣れない人が見たら、ちょっとレルリラのお前への態度が…」
「態度が?」
「なんていえばいいんだろう…、サーお前わかるか?」
「あー、あれだ…過保護って感じだな」
「過保護?」
復唱する私に、どう伝えればいいのかと三人が考え込む様子を見せる。
「ほら、直近だと剣術授業の時だ。お前水飲もうとして服濡らしただろ?
離れた場所にいたレルリラが駆けつけて服貸してたじゃねーか。
ああいうのは同じクラスで見慣れた俺たちには、まぁ………普通の光景に見えてたが、他の人には恋人…みたいな関係なんじゃないかって思うんじゃねーか?」
「恋人!?」
「お、おい、声でけーよ」
「ご、ごめん」
サーが気にしたのは、近くに誰が耳を立てているのかわからないからだ。
レロサーナとエステルには私が直接話したので聞かれてもいいが、もし別のクラスの人たちが私達の会話を聞いていたときトラブルになるだろうと考えているのだろう。
何気にレルリラが人気になってから教室の近くには他のクラスの人なのか、他の学年かはわからないけど知らない人を見かけるようになったから。
でもこれで私への嫌がらせの原因はかなりの可能性で絞ることが出来た。
「…でもまさか、レルリラとそういう関係に見られているってことは意外だったわ…」
「へ、…お前マジか」
「え?どういうこと?」
「いや、なんでもない。ただ…なぁ?」
「ああ、アイツが可哀そうだなって…、いや、俺たちも気持ち知ってるわけじゃねーけど」
「?どうでもいいけど、レルリラも私とそういう関係だって思われてることをよく思わないと思うし、私から改めるように言うから変なことは言わないでね?」
三人に対してお願いすると返ってきたのは呆れた表情だけだった。
◇
というわけで、早速レルリラを見つけ出した私は捕まえて話を切り出した。
「……何故だ?」
レルリラには私達の関係が誤解されていることは告げず、ただ少し距離を取って、そして態度を改めて欲しいと話をしてみた。
ちなみに具体的な例として、マルコ達にも言われた服を貸す行為。
私も後でよく考えたけど、怪我をしたり体温が急激に下がっていたのならまだしも、ただ水に濡れただけで自分の服を脱いでまで貸すことは普通の友達の関係ならしないだろうと思いなおしたからだ。
それにまだレルリラが原因というのが百パーセントではない。
レルリラと少しでも離れた時、嫌がらせがどのように変わるのか反応をみたかったという理由もある。
それはまだ言わないけど。
「なんでって、…友達の距離感じゃないから?」
「友達…」
考え込むレルリラの顔を覗き込むと、なにやら難しそうな顔をしている。
「私、レルリラの事友達って思ってたんだけど、……もしかして違った?」
そうだったらかなり恥ずかしいし、それにショックだ。
まぁ、友達ではなかったらきっと師匠と弟子みたいな関係だろうけど、でも同級生なんだからそれはどうなのだろうとも思う。
だけどその後のレルリラの反応は、私が思っているものとは全く違う反応だった。
「いや、友達がいたことがなかったから……、そうか、これが友達が出来るってことか」
胸に手を当て、若干頬を赤らませるレルリラの様子に私は何ともいえない感情を覚える。
というか、そんなことを言われたら距離をとろうとも、態度を見直してくれとも強く言いづらいじゃないか。
しかもレルリラにつられるように、何故か私の顔も熱を帯びた様に熱く感じる。
「レルリラ、ごめん」
「なにがだ?」
「せっかく友達って思ってくれたのに、周りを気にして距離をとってだなんて失礼だと思ったの…。
だからさっきの発言も取り下げる。これからもよろしくね」
手を差しだして握手を求めると、レルリラはとても嬉しそうに微笑んで私の手を握り返してくれた。
嫌がらせについては別の形で確認してみよう。




