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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
学園編~三学年~
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7 魔法の乱れ





アラさんの指導の下で行われる魔力付与の授業を何日か繰り返し、水属性の四人全員が属性魔力の付与が“それなりに”出来るようになると、アラさんは自分の仕事に戻っていった。

それなりに、というのは授業に使っていた剣だけではなく、自分の衣服にも魔力付与を行えるようになったぐらいで、ギルドマスターのあの剣に魔力を流すことは流石に時間が足りなさ過ぎて出来なかったからこその言葉だ。

でもアラさんが目標であるギルドマスターの剣への魔力付与が達成する前に妥協して授業を終わらせた理由は単純だ。

私達の水属性の授業が長引いていたからだ。

アラさんはもっと時間を貰いたかったそうだけど、このままだとクラス全員の足並みがそろわないことを危惧した先生がアラさんを説得したらしい。

最後にアラさんは「練習あるのみよ」と必死で言っていたから、これからも魔力付与の練習はしていこうと思う。


そしてアラさんが私にもたらしてくれたのは授業だけではなかった。

あれから頻繁に繰り返される嫌がらせを解決の糸口を示してくれたのだ。


アラさんの指導中私はアラさんに尋ねた。


『アラさん、魔物って普段なにを食べてるんですかね?』


『魔物?んー、魔物の食事風景は見たことあるけど一般的な動物と変わらないじゃないかしら?』


『一般的な?』


『野生にいる動物は弱肉強食で、同じ動物を襲って食べているのよ』


『…じゃあ虫は食べないんですね』


『虫?たぶん食べると思うわよ。虫は栄養があるからね。

でもどうしてそんなことを?…もしかして何かあった?』


私の質問からアラさんは私が嫌がらせされているのではないかと推測したのだ。

勿論その推測は当たっているから私は少しどもってしまった。

それで推測は的中したのだとアラさんが気付いてしまった。


私は洗いざらい話した。

そして担任としてどうなんだとアラさんは先生も交えて話をしたのだ。


自室の扉への嫌がらせから始まり、今は頻繁に虫の死骸が送られてくるようになっていた嫌がらせの数々を話すと、嫌がらせは寮ばかりで行われていること、一度も学園内で起きていなかったことから、犯人はクラスメイト以外の人物なのではないかと絞られた。

ちなみに先生を交えて話したことで、届けられた虫の死骸は魔物に食べさせていいというアドバイスを貰った。

消去魔法を使って消してもいいけど、なんとなくその魔法は使いたくなかった。

本当、なんとなくだけど。


そして先生が言った。


『もしかしてレルリラとの仲を誤解されてるんじゃないか?』


と。


私は目から鱗状態だった。

クラスの皆とはうまくやってきたと自分でも思っていたし、他のクラスとの関りがない時点で、私は一体誰に何をしたのかを全く見当もつかなかったから、本当に何故嫌がらせをされるのだろうと分からなかったのだ。

だけど先生の言葉で、レルリラが関係している可能性を嫌がらせをされている理由の一つとして考えることが出来た。


この時点で一歩前進だ。


そして次にアラさんの言葉。


『元凶がいるのならサラちゃんは自分だけで解決するんじゃなくて、元凶に解決させた方がいいわ。

全てを任せることに気がひけるのなら、せめて解決への手伝いだけでも関わらせた方がいい。そうじゃないと本当の解決にはならないもの。

それにサラちゃんを好きな人は周りに沢山いるわ。そしてその人たちはサラちゃんの手助けをしたいとも思っている。サラちゃんが一人で解決しようと頑張っている姿を、サラちゃんを好きな人たちは不安な気持ちを抱きながらみることになることを忘れないで。

助けを求める大切さを、覚えておいて』


アラさんの言葉に私は心が軽くなった。

そうか。一人で解決しようとしなくてもいいんだ。

助けを求めてもいいんだと、考えられるようになったのだ。

気付かれないように、もやもやした気持ちのまま普段通りに過ごそうとしていた自分自身を思い出す。


まぁ心が軽くなったといっても嫌がらせはなくなっていないけど。


それでも私はレロサーナとエステルに打ち明けて、誰か怪しい人物は見なかったかを尋ねることが出来た。



そして日常に戻る。


「それにしても最近暑くなってきたよね」


「そうね。もう緑の季節が近いのね」


「だからかしら、いつもより喉が渇くわ」


付与魔法の授業から再び剣術の授業へと戻った私達は流れ出てくる汗を拭いながら、ギラギラと光る太陽を見上げた。

ちなみに私は衣服への魔力付与ができてない状態。

いや、出来るには出来るけど長時間その状態でいられるかと聞かれれば難しかった。

繊維だから簡単かと思ったけれど、武器とは違い伝導率が悪いのだ。

鉱石を使ってないからかな?

でもアラさんが実際にやってみたように、服にも魔力付与できれば戦闘面でかなり優位になるから絶対に出来るようになりたい。

努力あるのみだね!


流れる汗を拭きながらそんなことを考えていると、はぁと小さくため息をつく音が隣から聞こえる。


「水飲み場も埋まっているわね」


レロサーナの言葉に、水飲み場に目を向けると行列が出来ていた。

流石に水を生み出せる水属性の三人は並んではないようだけど。

というか寧ろ懇願されている側だ。

まだ喉を潤わせていない人から、水を…!と縋りつかれている。

本当に貴族なのに貴族らしくないというか……。

でも学園ではこうだけど、社交界というか、そういうところに出ると違うらしい。

二人にぼそっと呟いた私の言葉を拾われたとき、そのように言っていたから。

まぁ確かに。最初の頃の女性軍は皆ピシッとしてたというか、平民(私)に対して何かしら指摘してたというか。

今も言葉遣いは綺麗なんだけど(私に対しては除く)最初の頃のように扇は出さなくなったから、嫌味的なイメージはもう持たなくなった。


「二人が気にしないなら私が水を出すよ」


埋まっている水飲み場はすぐに飽きそうにもないし、私が提案すると二人は目を輝かせた。


流石にぷかぷか浮かぶ水の玉を大きく口を開いてあーんしている貴族なんていないし、しかもそれが女性なら尚更だから、私は氷で容器を作り出し、その中に水を作ると二人へと渡す。


氷の容器だから手は冷たくなるだろうけど、暑くなっているのなら少しくらい冷たいものに触れても問題ないだろう。

二人は私から受け取ると、こくこくと喉を潤わせた。

一度も口を離さなかった様子を見ると相当に喉が渇いていたみたいだ。


「はぁ、生き返ったわ。ありがとうサラ」


「サラも飲みなさいね。たくさん汗かいたでしょう?お兄様も水分不足は危険だってよく言っていたから」


「うん、わかったよ」


まるでお母さんのようなレロサーナに私は笑いながら魔法で水を生み出した。

二人にやった時のように容器は作らず、水の球体を作り、口を大きく開く。

飲み込もうとしたその時だった。


「お!水飲んでんのか!!」


「ッ」


「あ…」


「…さ、サラも魔法が乱れることがあるのね…」


口に含む手前で声をかけられるだけじゃなく、肩に肘を置かれたことで体が前方に傾き水に顔を突っ込んでしまった。

しかも驚いたことでそのまま魔法が乱れ、水も弾ける。

お陰で喉を潤すこともできないどころか、顔どころか服もびしょびしょに濡れてしまった私は恨めし気に犯人に目を向けた。


「サ~~~ア~~~?」


「わ、わりぃ……、悪気はなかったんだ」


両手を合わせて後ずさりながらも謝罪を口にするサーに私は息を吐き出した。

本当はもっと怒ってやりたいけどね。


「いいよ。悪気があったって思ってないし、ただの水だから服だって乾かせばいいだけ……ん?レルリラ?」


「え、レルリラ!?俺ちょっとあっち行くわ!」


ツカツカと凄いスピードで私の方に向かって歩いてくるレルリラの様子に、私は言葉をいいかけてやめる。

そんな私につられるように振り向いたサーと、レロサーナとエステルの三人は私から距離をとった。

しかもサーはこの場から逃げるように走り出す始末。なんだあいつ。


とりあえず離れる三人が気にはなったけれど、それよりも凄いスピードで近くまで来たレルリラがいきなり服を脱ぎだしたことの方が私には衝撃的だった。


「え、ちょ!あんた何して!ウブッ」


脱いだ服を私に被せて着させるレルリラ。

服の下には肌着を身に着けていなかったのか、肌を晒したレルリラに女子生徒達がざわめきだした。

勿論顔を赤らませているから、悪い意味ではない。

寧ろいいご褒美に違いない。

手で顔を覆っている子もいたけれど、その指の隙間から見ていることを私は知っている。


「風邪引くだろ」


「こんな暑いんだから風邪なんて引かないわよ」


被せられた服を脱いで返そうとするがそれをレルリラが許さなかった。

ギンッと睨まれ、私は服にかけていた手を思わず離す。


「返さなくてもいいから着ていろ」


「返すって_」


「着ろ」


「……わかった」


こんな暑い日に風邪なんて引くわけがないのに…。

第一私は水属性なのよ。水属性の魔法使いは水を自在に操れることができるのだから、水を取り除くことだって出来る。

だけど突き返すことが出来ないレルリラの気遣いを、私は結局受け取った。


「で?」


「なにが、で?」


なにかを促すレルリラに私は聞き返す。

あ、もしかして濡れた理由を聞いているのだろうかと当たりをつけるとそうだと肯定された。


「ほら。水飲み場が行列でしょ?だから魔法で水を生成して飲もうと思ったんだけど、失敗したの」


サーが話しかけなければ。が不足しているけどそれを言ったらレルリラが注意しそうだからやめておいた。

いつもならチクるけど、今日のレルリラの迫力には眼を見張るものがあるのだ。

これは言わないほうがいいと私の直感が訴えている。


「入れ物を作って飲めば零さないだろ?」


「それはそうだけど…」


「次からそうしろ」


まぁ、さっきのように魔法が失敗する可能性もゼロじゃないから、今度からそうすると私はレルリラに答えたのだった。




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