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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
学園編~三学年~
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6 付与魔法③





それから何度も時間の許すまで魔力付与の練習を行った。

剣は魔力の伝導がいいというのはその通りだったが、それは一般的に普及されている鉄で出来ている物だけ。

木で出来ている木剣は鉄の剣に比べると少し落ち、素材が沢山使われている剣は更に魔力伝導は落ちるらしい。

その素材がたくさん使われている武器の代表例として、アラさんは一つの武器を取り出した。

その武器に私は「あ」と声を出す。

見覚えあるからだ。


「そ、そのおぞましい色の剣はなんですか?」


そういった通りアラさんの取り出した武器はドロドロとした雰囲気を醸し出す黒がかった紫色の剣。

そんな不気味な剣にアコとシェイリン、そしてメシュジは顔を青ざめ少しずつ後ずさりしていた。


「昔の冒険者仲間から借りてきたのよ。

皆さんには出来ろとまではいわないけれど、これに魔力付与ができることを目標にして頑張ってもらうわ」


アラさんの言葉に三人は眉を顰めた。

顔が完全に拒否しているが、あの剣は私のお父さんを助けてくれたギルド長が使っていた剣で、冒険者を辞めた後も天気がいいときにはメロディーを口ずさみながら上機嫌で手入りしている、ギルド長お気に入りの剣ということを知っているから複雑である。


「試してみてもいいですか?」


そう口にした私に驚愕めいた視線が突き刺さる。

もっと心境は複雑になった。

何で出来ているのか私はわからないけど、鉱石というものは基本的には宝石と同じ素材だから綺麗なものが大半だ。

カットしたり磨いたりすることで輝きが増すだけで元は同じなのだ。

だからこんなにもドロドロした雰囲気の黒に近い紫ということは、すっごい沢山の鉱石を混ぜているということ。

こんな不気味な剣に触れるということもそうだが、こんないくつ鉱石が使われてるのかわからない武器を試してみようとはというチャレンジ精神にも驚いたのだろう。

複雑だ。

でも目標はしっかりと把握したほうがいい。


そんな私と皆の温度差に気付いたアラさんが少し大袈裟に息を吐き出す。


「……はぁ。どうやら誤解しているようね。私が皆に伝えた言葉を覚えている?」


はい。そこのあなた。と一番近くにいたシェイリン指さして指名すると、シェイリンは一瞬驚きはしたもののすぐに答える。


「えっと…“様々な物に魔力付与を行ってもらう”です」


「では、何故授業で取り入れている剣だけではなく、防具や日常で着ている普通の洋服にも魔力付与を行ってもらうといったでしょう?」


「それは……」


言い淀むシェイリンにアラさんは少し待つとすぐに正解となる言葉を告げる。


「“死んでほしくないから”よ」


アラさんは一旦そこで言葉を区切ると私の方をみる。


「ではハールさん、私に切りかかってみて」


「え?」


戸惑う私に対して、アラさんは剣を鞘に納めた状態で片方の腕を横に伸ばし私に微笑む。

まるで、伸ばした腕を斬りつけろといっているようだ。


「あ、付与魔法はしながらでお願いね」


「え!?!」


剣だけでも危ないというのに、それに加えて魔力付与を指示するアラさんに私は困惑した。

でも、微笑むアラさんの表情を見る限り大事にはならないと言われているようだし、そもそもアラさんの言葉に反抗なんてできない私は木剣を握る手に力を込める。

ちなみに木剣だからっていっても、魔力付与を行ったらどんな物でも切断できるくらいまで強化されるので、めちゃくちゃ危険であることは間違い行為だ。いい子の皆はマネしない様に。


「はぁあああ!」


木剣を振り上げて私はアラさんに向かう。

アラさんはにこやかな笑みを崩すことなく片腕で私の剣を受け止めた。

まるで何かに阻まれているような、そんな感じが伝わってくる。


「……サラちゃんは付与魔法もうまいのね。まだ取得したばかりだというのに…」


私の耳元でボソリと呟いたアラさんを見上げると、私の視線に気づいたアラさんはニコリと笑った。

そして木剣を受け止めた腕の袖を捲り、打撲跡などない綺麗な肌の状態を皆にみせる。

私はそのアラさんの腕を見て、心底安堵した。


「このように服に魔力付与を行うことが出来ていれば、急に攻撃されても身を守ることが出来るの。

つまり、魔力付与をうまく活用できればしぶとく生きられる、その為に私は様々な身の回りの物に魔力付与が出来ることを望んでいるのよ」


そう告げたアラさんに三人は興奮した様子で騒ぎ出す。

なんだかこういう雰囲気をみると貴族っぽくなく平民と大差ないと感じたけど、私は私で気になったことをアラさんに尋ねた。


「アラ先生。魔力付与は人にはできないんですか?」


魔力で防御を高められるのならばわざわざ防御魔法を張る必要はない。

魔力付与で防御をカバーできるのなら、と考えたのだ。


「出来ないわ」


だけどバッサリと希望をかき消したアラさんの言葉に私はがっくりとうなだれる。

そっか、出来ないか。うまくいかないものね。


「ハールさんも知っている魔法の身体能力強化は言い方を変えると魔力付与を行っているようなものなの。

筋力を強化したりすることで一時的に能力が上がる魔法だけど、肌を石のように固くさせることは出来ないわよね?」


アラさんの言葉に私は頷く。


「それは人間が生きているから出来ないことだと言われているの。服や剣は職人にとったら生きているという人もいるかもしれないけども、一般的には無機物だわ。無機物だから性質変化も起こせる。でも人間はそうじゃない。

だからとても昔の話だけど、生粋の魔法使いは長いローブを目深に被っていたと記されているわ」


何処から攻撃されてもいいようにね。と答えたアラさんに私は思い出す。

デザインと動きやすさ重視で、最近じゃあ身軽な服装をしている人が多いなと。


「でも確かに昔の服装は動きにくいかもしれないけれど、私的には肌を出す服は避けてほしいと思っているわ。

だからこの先皆がどんな未来を過ごすのかはわからない。でも魔法を習う以上、魔法使いとして身を守るための選択を心掛けてもらいたいというのが私の願いよ。

その為の魔力付与の練習として、出来る人がなかなかいないあの人の剣への魔力付与を最終目標にしてもらいたいの」


アラさんはもう一度ギルド長の剣をかがけてそう告げた。

ドロドロした色の剣にいい表情を浮かべていないのは変わらずだが、それでも何故剣が授業にとりいりれているのか、魔力付与の有効さを知った皆はいい目をしていた。


「…ちなみにその剣の持ち主は、その剣に魔力付与を行っていたんですか?」


「勿論よ。この剣の持ち主はね、パーティーのリーダーだったの。その人は言っていたわ。“リーダーたるものメンバーの誰よりも強くなくてはならない”って。

だからパーティーのメンバーである剣士にも、魔法を使わなくても勝てるようにこんな業物を作り出したの」


楽しそうにクスクスと笑うアラさんに私はわくわくする。

子供の頃おじさん…ううん。ギルドマスターの話を楽しみにしていた時の気持ちを思い出したのもそうだけど、アラさんがこうして冒険者時代の話をするのを初めて聞いたからだ。

わぁ、もっと聞きたい!


「あの!魔法使いは魔法を使わなくても剣士に勝てるのでしょうか?」


張り切ったように高揚する気持ちを隠せないメシュジに、アラさんは頷いた。


「勿論。流石に私は無理だったけれど、リーダーは実際に勝っていたわ。

ちなみに魔法を使いこなすことができれば剣士に一方的に負けるということにはなりません」


そう話したアラさんは皆に付与魔法の練習に戻るように告げる。

アラさんの話に触発されたからか、すぐに練習する人が多かった中私はアラさんに尋ねた。


「……私も、アラさんみたいになれますか?」


「私みたいっていうのは?」


「アラさん、凄く凄くて……私もアラさんみたいにもっと強くなりたいから…」


頭痛が痛いみたいな言い方になってしまったがそれでもアラさんに私が言いたいことは伝わったと思う。

思わず目を伏せた私にアラさんはふふっと笑って、私の頭に手を置いた。


「大丈夫。その気持ちを常に持って努力しているサラちゃんは絶対に強くなるわ。勿論私よりもね」


子供をあやす様に頭を撫でるアラさんに、他の生徒もいるから恥ずかしさはあったけれど、それでも嬉しさの方が大きくて私は撫でられたままでいた。




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