5 付与魔法②
「あの、何故剣を利用しているんですか?」
シェイリンが質問すると“そもそも石や木の枝でも出来るなら、剣を使って授業しなくてもいいのではないか”という疑問も聞こえ始める。
剣の授業は今回が初めてではないのに今になってそのような質問を口にするということは、皆にとってアラさんが親しみやすい存在なのではないかと思えた。
親しみやすくないと素朴な疑問はなかなか口には出来ないからだ。
まぁ確かにね。
アラさんは美人さんだもの。
美人なお姉さんはお近づきになりたい存在というのは平民も貴族も、そして男も女も関係ないということね。
私がうんうんと思っているとき、アラさんはにこりと微笑むと手を叩いて注目を集めた。
「シェイリン君の質問だけど、これはきっと知っている人が少ないと思うから皆も聞いて欲しいの」
私達は手を止めてアラさんの傍による。
「私達のような魔法使いにとって剣は不要ではないか。と疑問に持ったこともあるでしょう。
そんな時、魔法は万能だけど魔力が尽きてしまえばそれまで。だからこそ、剣も使えていた方がいい。と言われたことがあるでしょう。
でもその為だけに剣を覚えているわけではないことを言っておきます。
何故なら剣士でもない私のような魔法使いには、やっぱり剣は慣れないもので、使い慣れない武器は怪我を負うこともあるし味方を傷つけることもあるから。
事実、私も魔法が有効打として使えるのであれば、剣での交戦は行ったことがなかったわ」
アラさんは一旦話を区切り、持っていた剣を掲げた。
「ならば何故剣を扱う授業が取り入れられているのか。接近戦も可能にするためではないのか。
付与魔法を練習させているのは何故か。ただ魔法使いだからという理由ではないか。
……私は武器を使うなら剣より弓。
魔法陣など関係なく遠くへ飛ばすことができる武器である弓に、さらに付与魔法を掛ければ見えない程遠い場所への攻撃も可能になるからね。
なら、何故皆は剣を習わされているのか」
アラさんはそこまでいうと、掲げていた剣に魔力を流した。
アラさんの魔力を纏った剣が、太陽の明りも加わりキラリと輝く。
「ハールさん。前へ」
「え?…は、はい!」
突然指名された私は戸惑いながらも前に出て、アラさんの隣に並んだ。
「早速だけど、氷属性で付与させてくれないかしら?」
「は、はい。わかりました」
持っていた木剣に先ほど出来るようになったばかりの魔力付与を行った私は、アラさんを見上げようとした。
そう、”した”だけだ。
ひゅんっと風を切る音が聞こえた私は咄嗟に剣を握る手に力が入る。
「ッ」
____ガキンッ
振り落とされたアラさんの剣を持っていた剣で止めた私、というよりアラさんが私が持っていた剣に向かって振り落とした為、私は目を丸くさせながらアラさんを見上げる。
アラさんは嬉しそうに目を細めて笑っていた。
「剣を扱うことで接近戦が出来るようになる。という考えは決して的外れではないの。
今のハールさんのように、咄嗟に魔法で防御出来なくても攻撃を防ぐことができるからよ。
だけどそれは武器で戦うことができるようになれと言っているわけではないわ。
魔法使いに剣を習わせる一番の理由は、属性魔力で付与魔法をすることで強力な防御を身に着けることができるから」
「強力な防御…?」
ボソリと呟いた私の言葉に、アラさんは剣を降ろして微笑みを深くした。
そしてそのまま腰に差していた鞘に剣をしまう。
「授業で剣を取り入れているのは、一般的に剣を扱う人が多いから。
そして一般的に武器として認知度が高い剣はどの武器屋さんでも取り扱いがあり、また様々な素材から出来ている……つまり種類が豊富にあるの。
属性や個人の魔力にも特徴がそれぞれあり、自分の魔力伝導がいい素材は微妙に違ってくる。
そして、私達は皆さんには死んでほしくありません。身を守るための手段を、戦うための方法を多く伝えたい。
だから欲を言えば弓も槍も皆さんには習得してもらいたいと私は思っているわ」
アラさんはニコリと笑い、そして思い出したかのように話を続けた。
「あ、そうそう。皆に剣の扱いを学んでもらっている理由は皆さんが武器にも魔力付与にも不慣れだから、が理由よ。
先程も言ったけれど、剣は一般的にも広く使われている武器で、その武器を皆さんは使い慣れていない。
使い慣れていない武器は自分だけではなく、味方も、傷つける恐れがあるし、剣は魔力付与を習得するのに適した素材。
先程にも言ったように私は皆に死んでほしくはありません。その為剣への魔力付与が出来るようになるまで、が私の授業だとは思わないで欲しいわ」
「「「「……え?」」」」
「さて、皆もうすうす私が言いたいことを察しているかもしれないけど、私が言いたいのは一つだけ」
「それは、なんですか?」
初めての時のアラさんから受ける授業を思い出したのか、皆が緊張の面持ちでアラさんを見つめる。
アラさんはなんでもないように言葉を続けた。
「武器だけではない様々なものに対して付与を行っていただくわ。
最初は今のように武器で一番伝導率の高い剣から、それから様々な素材が使われている武器に防具、最後は皆さんの着ている制服に」
「え、でもローブには危険から守る魔法が施されていると先生から…」
「施されている魔法を掻き消さないように魔力を付与するのよ。
大丈夫。魔法陣を埋め込めだなんていっていないのだから。ただ魔力を付与するだけ。
でも心配ならかき消された魔法陣は私が書き直してあげるわ。こう見えて私はAランク冒険者だったからね」