3 剣術の授業といじめ?
レルリラの人気が上がったという話は前にもお伝えしたかもしれない。
キャーキャーと貴族とは思えない声を出しながら、レルリラに好意の目を向け、逆に近くにいる私には悪意が籠った視線を送る。
まぁそこに関しては問題ない。
一年、二年と過ごしてきて他のクラスどころか他の学年とも関りがなかったのだから、視線さえスルーしておけばいい。
そう思っていたんだ。
「……げぇ…、なによこれ…」
今私の目の前には何の液体かわからないけど、ぬめぬめでなんだか異臭が放たれている液体で汚されている、寮の自室を開閉できる唯一の扉の取っ手とその取っ手を触ってしまった私の手。
注意不足な私の自業自得だけど、部屋の扉の取っ手を汚される筋合いなんて私にはなかった。
ちなみになんで注意不足だったのかというと、正直こんな嫌がらせをする人がこの学園にいるとか思っていなかったのもそうだけど、普通にトレーニング帰りでへとへとの私が気を付けるかと言ったらしない。
自分でも納得する理由だ。皆もきっと「しょうがないよ」といってくれる筈。
「ちゃんと確認しないと」とかいう鬼のような言葉を口にする人なんていないだろう。
「<ネトイエージ_清掃>」
支援魔法の一つ、清掃の魔法を展開させて私は汚れた自分の手と扉の取っ手を綺麗にして部屋へと入る。
ちなみに清掃の魔法だけでは、取っ手と私の手に着いた汚れを取り除くだけだから、取り除いた正体不明の液体を消去魔法を使って消すことも忘れない。
オーレ学園は内部のセキュリティもしっかりしていて、自分以外の人が部屋に入ることが出来ない仕組みだ。
だけど緊急時の為に自分だけしか入れないとなると、それはそれで不便な面もあるため、部屋の開閉が出来る数人を登録することが出来る。
貴族の子なら自分を世話してくれる使用人を登録する、とかだね。
平民なら仲のいい友達を登録しているケースが多い。
実際に私はエステルとレロサーナを登録しているから、二人には私の自室の扉は開けられるということだ。
勿論こんな嫌がらせを二人がしたとも思っていない私は、絶対に部屋の中には侵入されていないし、汚されていないことは自信を持って言える。
だけどこんなことがあっては気が沈んでしまう。
「…はぁああぁ…」
部屋の扉を閉めて私は大きく息を吐き出した。
もやもやした沈んだ気持ちを吐き出すように。
そしてなんでだろうと考えた。
誰かになにかしてしまったか。
でも全く記憶がない。
そんなもやもやしたままの気持ちで、日課である復習のために教材に目を通すもなかなか進まなかった。
最近では魔法の実技授業ばかりがメインの為知識として、机上の勉強はほとんどないことが助かった。
「……寝るか」
私はヘトヘトの体を休めるために布団へとダイブした。
□
三学年へと進級した私達は体も成長し、ある程度体も作られ始めていた。
一学年の頃から体力作りのための運動を始めとし、軽い竹で作られた竹刀を使用し剣の授業ととして取り入れられてはいたが、三学年となった今では女子生徒もある程度の腕力が着いただろうと判断したのだろう。
手渡された真剣に私達は大いに戸惑いを見せた。
何故ならば竹刀に比べ、見た目もそうだが迫力も、重量もなにもかも違うからだ。
「さすがサラ!他の女子とは違うな!」
先生から渡された真剣を何度か振りあげていた私は、「重い…」と呟いた。
それでも他の女子と比べて剣を扱う私を見たマルコが感心した様子で言う。
「アンタたちはよく片手で振り回せるね。重くないの?」
「まぁ今まで使っていたのに比べたら重いとは思うけど、それほどじゃないかな」
そんなことをいいながら「そんなに重く感じるか?」というマルコに私は微妙な気持ちになる。
確かに大体二キロくらいの重量なのだろう剣は、片手で持てるには持てるが、それを振り回し続ける自信はなかった。
両手でしっかりと持って扱わなければ、手から飛んで行ってしまいそうになる。
そしてそんな私の様子をじっとみていた男が一人いた。
「片手で扱えないところをみると、……もう少しメニュー増やすか?」
真剣に悩み始めるのは勝手だが、こいつは私の専属コーチかなにかだろうか。
強くなりたい私の気持ちと、何故か私を強くさせたいレルリラの考えがマッチしているから受け入れているが、そろそろツッコミを入れた方がいいのだろうか。
「おいおい。今は女性用の軽めの剣も売ってんだから無理にこういう重い剣を扱えなくてもいいんじゃないか?しかも俺たちは魔法使いだぞ?」
そんなことを言ってるが片手で剣を持ちながら登場したのは同じ平民仲間のサー・サユスクだ。
ニヤニヤと笑っているが最初の頃は貴族相手に慣れない敬語を使っていた姿が懐かしい。
ちなみにたどたどしすぎるその口調に周りの貴族もタメ口を許可するようになって、今ではレルリラ相手でもフレンドリーに接していた。
勿論サーだけじゃなくて、マルコやキア、私もクラスメイト達_貴族_に対して敬語は使っていない。
「しっかしサラも女だったんだなぁ~!」
くぷぷとニヤニヤ笑うサー。
魔法も勉強も私に勝ったことないから……本っ当に生き生きとしている。
よくみたら周囲にいる男子達もニヤニヤしてるじゃないか。
「軽い剣は折れやすいのも多いだろう。それにいくら魔法使いだからといっても、騎士団では剣を配布するし使用する剣はこれと対して変わりない。ハールにはこれぐらいの剣は扱えるようになってもらわないと…」
だからこいつは本当になんなんだ。
「でもこれは本当に重いですから…、まずは木剣で剣技をマスターすることも重要かと」
「ええ。真剣に慣れるのは後からでも問題ないかと思いますわ」
そういってフォローしてくれたのはエステルとレロサーナだ。
貴族同士だからか平民の私達がタメ口で話しているのは知ってても、この二人も他の貴族の子たちもレルリラには敬語を崩さない。
……レルリラにというより、自分より身分が上の者には大抵敬語を使っている。
「……じゃあハールは先生の元に行って剣を取り換えてもらうといい」
「私達も取り換えてもらおうと思ってたの。一緒にいきましょ」
エステルとレロサーナと共に先生たちの元に向かったが、一瞬視線の端にマルコとキアがなんだか赤い顔してぼんやりしているのが見えた。
あいつら全然アプローチしてないのに、見つめることはするのね。
「それにしても仲いいわね」
「ん?」
「サラとレルリラ様よ。でもどうしてサラに対して”だけ”対応が違うのかしら?」
「あ、それ私も気になっていたわ。なにか聞いてないの?」
異様に目がキラキラと輝くエステルとレロサーナに問われるが、それは私も知りたい。
あと“だけ”ってところを強調しなくてもいいから。
「二年の属性魔法の試合の後さ、なんでか急に一緒にトレーニングすることになったのは二人も知ってるでしょ?
その時「もっと強くなれ」って言われたけど、なんで私を強くさせたいのかは知らないんだよね」
「そうなのね」
「もしかしたら張り合える人が欲しいのかもしれないね」
私の成績はレルリラの次だから張り合える人材って考えたら適任だと思う。
あれ、そう考えたら凄く納得する。
意外と私も自分自身で気付かないところで悩んでいたのか、おそらく限りなく近いだろう答えにたどり着いた私はすっきりとした気持ちになった、
そして真剣から木剣に変えてもらい、竹刀よりも若干重い木剣で授業を受ける。
自分たちの体に合った剣を選び終えた私達を確認した先生は、等間隔に間を取らせ並べてから授業を開始した。
振り上げた剣を真っ直ぐに振り落とす。
そんな基本的な型を何度も繰り返し、授業時間が終わりに近づいた頃先生が手をたたいて皆の注目を集める。
「はい、ちゅうもーく!今日は基礎的なことをやってもらったが、明日から以前に属性魔法を教えてくれた先生たちが来てくれるぞ!」
そんな先生の言葉に、私達は浮足立った気持ちになる。
「剣の授業はこれで終わりってことですかー?」
「そんなわけないだろ。だが明日からは属性魔法を利用した剣の使い方を教わってもらう。
まぁ詳しいことは明日各自担当の先生に聞けー」
魔法使いに剣術なんてと思っていたけど、属性魔法を利用した剣の使い方をこれから習うということにワクワクした。
授業はこれで終わりだから皆教室に戻れーという先生と、久しぶりに会う各属性の先生_私にとってはアラさん_達に興奮する生徒たちで場は賑わったのだった。




