1 三学年
私達は無事に三学年に進級した。
変わったことといえば二学年で使っていた教室を使わなくなったこと。
これからは一つ上の階に上がり、三学年の魔法科の教室を使うようになるのだ。
「あれ…?なんか足りなくない?」
なにか違和感を感じた私は、既に席へと用意されている教材の数を数えた。
確かクラスは私も含めて十六人いた筈だと、一、二、…と数えるとどう数えても十五人分しかないのだ。
そんな私の疑問に答えたのはレルリラの斜め前の席のサーだ。
「ラシュ・リュランディの分だよ。ないのは」
サーの言葉に私は一つ足りないパズルのピースがハマったかのように「ああ!」という。
彼とは属性も性別も身分も違うため、特別仲がいいわけでもなかったが、二年間一緒のクラスメイトだったということもありいなくなったことは少し寂しい感じがした。
「あいつ侯爵家の長男だろ?跡継ぎってこともあって、経営科を希望だしたんだよ」
「そうなんだ」
サーがリュランディの事情に詳しいのは、彼と一緒の雷属性ということで親しくなったのだと思う。
二学年属性ごとの授業で、私も水属性の三人とかなり親しくなれたから、サーたちも同じように仲が深まったのだろう。
それにしても経営科でも頑張ってほしいね。
同じクラスメイトだった縁もあって、応援する気持ちが強い
私がサーと話をしていると、マルコとキアがやってくる。
私は二人の顔を見てニヤリと笑った。
「それにしてもマルコはよかったね。私、エステルはサポート科を選ぶんじゃないかと思ってたから、本当に離れなくてよかったね」
「は!?」
顔を真っ赤に染めるマルコにキアとサーも確かにとニヤニヤ笑いながら頷く。
わかってないのはレルリラくらいだ。
そして、このタイミングで登校するのがエステルとレロサーナだ。
「おはよう」と挨拶をする二人に私は笑顔を浮かべると、「何を話していたの?」と尋ねられる。
その瞬間マルコの視線を感じたが私は気にせずに答えた。
「リュランディが経営科に移っちゃったけど、他は一緒でよかったねって話だよ」
「あら、リュランディ様は経営科に行ったのね」
「そうみたい。サーの話だと跡継ぎだったらしいよ」
まぁ。と口に手を開けて少しだけ驚いた様子を見せるエステルの後ろで、サーがマルコの背中を叩いた。
「おわっ」という声を上げるマルコに、エステルが振り返る。
「マルコさん?大丈夫ですか?」
首を傾げてマルコを伺えエステルだが、マルコは顔を真っ赤に染める。
本当にこいつは初心で仕方ない。
しかも私から言わせたら、マルコは平民でエステルは貴族だ。
未だに敬語が外れていないことから親しい仲とはいえない関係だってことがわかる。
(休暇中に皆で出かけたのに…)
そういえばマルコもキアも全然エステルとレロサーナと絡んでなかったなと思い出す。
だけどそれよりも私が知りたいのはエステルが魔法科を選択した理由だ。
本当は魔法科を選択したと聞いた時に教えてもらいたかったのだけど、エステルってば帰省する直前にいうんだもん。
迎えの馬車が来てしまって、聞くタイミングをずっと逃していたんだ。
まぁ離れ離れにならないことを前もって知れたということは嬉しいからいいんだけどね。
「…そういえばエステルはサポート科を選ばなかったんだね。勿論私としては嬉しいけど」
「ええ。私将来は実家の稼業を手伝うつもりだから行く行くは…と思っているのだけど、実家でも学べる環境は整えられているからね。
なら実家では学びにくいことを折角オーレ学園に通っているのだからたくさん学ぼうと思ったの」
「そうなんだ」
確かにエステルの家ではポーション事業を行っていると聞いていたけれど、学園でもそれに沿わなければいけないわけではない。
寧ろ家で学ぶことが出来るのならエステルの言ったように学園では別のことにチャレンジしてもいいのだ。
魔力量が増えればポーション製作にもつながるし、覚える魔法がメリットが増えてもデメリットがあるわけではない。それにもしかしたら、事業に役立てることができるかもしれない。
「私もエステルと一緒で嬉しいわ。これからも一緒に頑張っていきましょう」
「ええ」
私達が雑談をしていると予鈴がなり、先生がやってくる。
二人は「じゃあ後でね」とウィンクをして自分の席に戻っていった。
「今日から三年だな。一人別の科に移った者もいるが、自分の将来を見据えた決断と捉え、批判はしないように!」
そういった先生の言葉に「しませんよ!リュランディのことはちゃんと応援してます!」というような声があがる。
先生はそんな私達の反応を見て嬉しそうに笑った。
「じゃあ授業を始めるぞ!」
そう声高々に言い放つ先生はニコニコした表情で指を鳴らし、私達を転送させる。
先生の黄色い魔力が私達を包み込み、私は思わず目を瞑る。
何度も体験しているとはいえ、この感覚はなれない。
そして次に目を開けると、もう外だった。
ただ完全な外ではなく、学園の敷地内で木が至る所に生い茂っている森の中。
「先生、ここでなにするんですか?」
「今日やることはなー、ずばり探知魔法だ!」
そんな先生の発言に私含めて生徒達がわきだつ。
探知魔法はまだやったことなかったからだ。
ワクワクする。
だって教材に魔法陣は載っていなく、自身の魔力によって探知するとしか書かれていなかったからだ。
どういうこと?と訳がわからず、私は先生にご教授をお願いしたが、「授業でやるから」「それよりも魔力コントロールをもっと鍛えなさい」とあしらわれた。
私は先生の言葉を聞き洩らさないように集中して先生を見つめた。
「探知魔法は皆知っているかもしれないが魔法陣はないんだ。
自分の魔力を空気中に広めるイメージで行う。以前先生が皆に見せたことがあるだろう?」
先生が実際に魔力を広めたところを見せたことがあるとすれば、一年の頃だったと思う。
自身から離れた場所への魔法陣の発動の為にはどうするのか。
先生は魔力を可視化させて、自在にコントロールしてどのように魔力を離れた場所に移動させてみせてくれた。
「あの時はわかりやすいように見せたが、探知魔法では薄く広くをイメージさせることが重要だ。
それも自分の持つ属性の色がわからなくなるほどに薄く、が基本。
かなりの魔力コントロールが必要になってくるが、メリットも大きいぞ!これが出来るようになれば離れた場所への魔法の発動が簡単に出来るようになるからな!」
じゃあさっそくやってみろ。という先生の言葉に従い私達は自分の魔力を体の外側に向けて放出した。
薄く薄く…とイメージしながらやってみるがこれがかなり難しい。
(魔力コントロールは出来る方だと思ってたんだけど…)
レルリラとトレーニングするようになってから結構成長してきたと思っていたけど、こんなにも苦戦するとは思わなかった。
(こりゃあ先生が魔力コントロールを極めろっていって断った理由もわかるわ)
恐らくあの時教えてくれていたとしても、全然できなかっただろうことが容易に想像できる。
私はちらりと近くにいたレルリラを見た。
すると意外に意外。
いつもは新しい魔法にもすぐに発動できて成功しているレルリラも首を傾げていたのだ。
(こ、これは………!!!!本当に難しいんだ!!!)