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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
学園編~二学年~
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23 レルリラからのプレゼント






休暇二日目になってそれは起きた。


休暇一日目は皆で王都に買い物にしに行き、二日目はいつも通り帰省しないレルリラと共にトレーニングを行った。

お昼前には実家に帰省するというエステルとレロサーナを見送り、朝から体を動かしていたために激しく主張するお腹を鎮めるために私は食堂に向かう。

勿論レルリラも一緒だ。


流石に長期の休暇ともなると食堂を利用する生徒は少なくなる。

その為長期休暇中の食堂は寮の食堂は閉鎖され、学園内の食堂だけが運営されるようになるのだ。


私はスッカスカでガラガラの食堂の中、レルリラと向かい合って席に座る。

スッカスカでガラガラなのは単に利用する生徒が殆どいない為もあるが、利用する時間がそれぞれバラバラだからだ。


ちなみにレルリラと一緒に食べること自体は初めてではない。

前にもいったかもしれないけど、レルリラが私と話すようになり、後ろをついて回る頃があったのだ。

その時エステルとレロサーナ、そしてレルリラと私の四人という何とも異色なメンバーで食べていたことがあった。


勿論レルリラに人気が出始めた頃、色々な人の様々な視線を浴びさせることが、流石にエステルとレロサーナが可哀そうになったという理由もあるが、なによりも私が耐えられなくなったのだ。

皆の視線にではない。

レルリラに纏わりつかれるのが、だ。

でもそういえば反発する者もいるだろう。

だが実際に四六時中纏わりつかれてみて欲しい。

トレーニングだけでなく、移動でも、トイレでも、食事中でも。

なんの用もないのにじっと観察するような眼差しを向けられ続けるのはさすがに耐えられなかった。

だから

【エステルとレロサーナとの時間を邪魔しないで】

と断ったというわけだ。


その為いつもはエステルとレロサーナと食べている私だが、レルリラと食事を共にするのは久しぶりで新鮮な気持ちになる。


ちなみに今日の昼食メニューはなにかというと、コックオヴァンという料理で、鶏によく似ている魔物のお肉を使った赤ワイン煮込みだ。

ちゃんと赤ワインは煮沸してアルコールを飛ばしている為、生徒の健康には問題ない。

更にいうと、本当のコックオヴァンという料理は鶏のお肉を使うみたいだが、流石に贅沢に寮で鶏のお肉は使うことが出来ない為、魔物の肉で代用しているというわけだ。


でも十分に美味しい。

私はソースも残さないように、パンに染み込ませて残さず食べる。


(これはもうレシピを聞くしかないわね!)


実は私、食堂の人たちとは親しい仲なのである。


休暇中に食堂を利用する人は、私のように事情があって帰省しない人か、または進級テストの結果が思わしくなくて寮に残っている人、あとは一分一秒も無駄にしたくないくらいの勉強好きだ。

しかも学園に通っているのは殆どが貴族で舌が肥えている。

そんな生徒達は食堂のご飯を“ただ腹を満たすだけの食事”として利用していた。

これは私の考えではなくて、食堂で働く人の意見だ。

けっして私の意見ではない。

そんな時、食堂で美味しそうに食べている私の姿が目に留まったらしい。

一人で目を輝かせて一口一口味わっている私の姿が珍しく、私のことを覚えていたのだ。


そして去年の長期休暇、一人で寮で過ごしていた私はなにを血迷ったのか食堂の人に「レシピを教えてください!」と乗り込んだのだ。

今思うと黒歴史である。


だけど私のことを覚えていたシェフの人達は快く受け入れてくれて、雑用係と引き換えにレシピを教えてくれたのだ。

しかもただレシピを教えてくれるだけでなく、私が作れるようになるまでつきっきりで教えてくれた。


シェフは私に「今後も教えて欲しい料理があったら書き溜めておいてくれ。時間がある時なら付き合うよ」といってくれたのだ。


そんなわけで、私は後でレシピと作り方を教えてもらう料理リストにこのコックオヴァンも追加しようと、内心しめしめと笑っているのである。


「…うまそうに食べるな」


ソースの一滴も残さず食べた私を見ての感想なのか、レルリラが呟いた。


「実際に美味しいからね」


「肉が好きなのか?」


「なんでも好きだけど、一番は鶏肉かな。まぁ本当の鶏肉は贅沢品だから食べたことはないけど」


一般的に市場に出回っているのは魔物の肉で、家畜として飼われている豚や牛、鳥などの肉は出回らないし、取り扱っていたとしても手が届かない金額である。

それでも魔物の肉でもこんなにも美味しいのなら、本当の鶏肉はどれほど美味しいのか。

自分で稼げるようになったら一度は食べてみたい。

これもまた私の夢の一つだよね。


「…甘いものは?」


「甘い物?好きだけど?」


「嫌いなものはないか?」


「食べ物って事よね?ないよ」


レルリラの質問に答えていくと、レルリラは急に鞄を漁り始める。

そういえばずっと気になっていたけど、なんでご飯食べに来るだけで鞄を持ってきているんだろう。


ごそごそとレルリラが鞄から取り出したのはラッピングされた小さな箱。


「やる」という一言を付けて手渡されたそれを、私は受け取り開ける。


すると中に入っていたのは赤い色の丸い塊。

箱を小さく揺らすと赤い塊はぷるんぷるん揺れて、まるでゼリーの様だった。


食後のデザートてきな?


「お前の為に家から送ってもらったんだ」


思わずレルリラに視線を向けると、そのように言われたので私は「ありがと」と答えて、コックオヴァンで使っていたフォークでゼリーのようなものを掬い上げて口に入れる。

周りに砂糖でもまぶしているのかじゃりじゃりという食感がするが、砂糖の甘さ以外の味はなかった。


「……なに?これ?味ないんだけど」


レルリラが頑張って作ったのなら、直接的過ぎる感想は可哀そうかなとは思ったけど、どうやら作ったものではないようなので、私は思うままに口にする。

すると返ってきた言葉はとんでもないものだった。


「魔物の心臓だ」


「ブゥゥウウウウ!!!」


は?


は???


最後の一口を口に入れているところだった私は、レルリラの言葉で口の中の物を吐き出す。


先程私は高級な食材として食べられている家畜の代わりに、魔物の肉を安価で食べているといったが、魔物には食べられないと言われている部位が存在する。

それが心臓だ。


人も鳥も馬も植物も、命が存在する生物には魔力が通っている。

勿論それは魔物にだって当てはまることだ。


今では食べてはいけないと広く伝わっているが、それまでは魔物の心臓も食べていた。

だが魔力の生成に問題が起こる症状が次々に現れ始めたのだ。

その人たちは次第に魔力が乱れ、そして魔法を使うことが出来なくなっていった。

生活の全てといってもいいほどに魔法が身近にあふれている私達の生活で、魔力障害が起きてしまった人の生活は酷いものだった。

そして、原因追究が国を挙げてなされた。

その結果、魔物の魔力回路は他の生物と異なることが魔法研究所で発見されたのだ。


つまり魔物の心臓は食べてはいけない。

いけないのに、こいつは“私の為に送ってもらっただと”!?

しかも私に魔物の心臓をあげた張本人も、平然な顔で同じものを食べているじゃない!


「馬鹿!ホント何考えてんのよ!!!」


もぐもぐと口を動かして私をみるレルリラの手から、魔物の心臓を取り上げる。

本当にこいつは何を考えているのかわからない。


「……問題ない」


「は?!」


ご丁寧に咀嚼してから飲み込んだレルリラは言った。


「魔物の心臓を食べてはならないと言われているのは、“そのまま食べてはいけない”というだけで、特別な加工を施したものなら食べてもいいんだ。

それに魔物の心臓には多くの魔力が存在している。魔力を上げたい者にはうってつけの食材なんだ」


「…そうなの?」


「ああ。それに危ないものをハールに食べさせるわけがないだろう」


こてっと首を傾げて告げるレルリラに私はいつの間にか立ち上がっていた腰を下ろす。


「……もう、びっくりさせないでよ……」


勝手に誤解してし、もったいないことに魔力を上げる効果があるという魔物の心臓を飛び散らせた残骸を私は眺めつつ、がっくりと肩を落としたのである。





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