20 買い物
学園には週に一日休みが設けられているが、その他にも進級テストが終わり、学年が変わるタイミングで一週間の休暇が与えられている。
休みを利用して帰省するのも良し、出掛けるのも良しとなっていた。
でも私は、霊獣で移動してもマーオ町まで一週間程かかってしまう距離がある為、実家に帰省したことはない。
第一まだ霊獣と契約していないから、その選択肢もないが。
去年のレロサーナとエステルは帰省したが、今年はすぐには帰らないと言った為、じゃあ皆で街へと出掛けようということで計画を立てていた。
目的は買い物だ。
「ん~、サラの予算は少ないのよね?」
「うん、出来れば安くすませたいんだよね」
なにがというと、衣服だ。
実家から持ってきていた服や下着は家を出た十歳の時_正しくはまだ誕生日を迎えていなかった為九歳だ_のもので、十二歳になろうとしている私の体には大分小さくなっていた。
それでも頻繁に着ていたトレーニング用として使っていた服は結構大きめのサイズだったから、今の体ではちょうどいいか少し小さく感じられるぐらいになっている。
だけど下着や外出用の私服、寝間着はこのタイミングで買っておきたいと思う程にサイズが合わなくなっていたのだ。
勿論両親に頼んで送ってもらうっていう手もあるが、学園に入学してから一度もあっていないため、正確な私の体格に合わせた服が届けられるかというと難しい。
だからこそ、自分で購入したいと考えた。
だがここで問題なのは値段だ。
少し大きめのサイズを新調して、身長が伸びてもしばらくは問題ないようにするつもりではあるが、王都は何かと値段が高い。
ちなみに体のサイズに合わせられる画期的な衣服は開発費も凄いのか、平民には手が出せないくらい高いのだ。
そして王都には貴族が多く滞在しているからなのか、品質も良い物を取り扱っているだけに安い品物があまりない。
「ん~、でも私達が知っているお店は比較的安いと思うのだけど…」
「それって前に一緒に行ったお店だよね?」
「そうよ。やっぱり難しいかしら?」
「うん……数買わないのなら大丈夫だけど、今回の買い物には適さない値段かも……」
「お?買い物か?」
時間を無駄にしたくなかった私達はそのまま教室内で計画を立てていたから気になったのだろう、新たな人物が話に加わる。
私達の担任の先生だ。
ちなみに帰省する前に王都に出かけようと予定を立てているのは私達だけではないようで、他にもちらほらと教室内に残っている生徒達がいた。
「はい、服を買おうかなって思ってるんですが、王都って高くて……」
「サラは平民だもんな。王都の物価はきついだろ」
「その通りですよ」
肩をすくめて先生に返すといい笑顔で返された。
笑い事じゃないんだけど。
「そんなサラにいいこと教えてやろう。対象店舗はあるがこの学園の生徒だと示せば割り引かれるんだ」
「え!本当ですか!?」
「ああ。凄いよな」
いいこと聞いたと思ったのは私だけではない。
先生の言葉に耳をすませていた、マルコ達とあまり金銭に余裕がないのか低位貴族出身の生徒が食いついた。
対象店舗ってどうやって見たら判別できるのか。どれぐらいの金額が割り引かれるのか。上限はあるのか。様々な質問を先生にしまくって、先生はその質問に対して笑いながら全てに答えていた。
「ということは、オーレ学園のマークのシールが貼られている店舗が対象って事ね!わかりやすい!」
「そうだな!」
「割引率は店舗によって様々らしいから、値段が低めの所に行けば問題ないだろう」
「だね!」
レロサーナとエステルと三人で話していたのに、いつのまにかマルコ達が加わっていることに今更気付く。
「あれ、アンタたちも行くの?」
「ああ、俺たちも必要なもん買いに行こうぜって話してたんだ。ちょうどいいから一緒に行こうぜ」
サーがそう言いながら、ちらりとマルコとキアに目線を送った。
(あ、レロサーナとエステル目当てってことね)
私から見ても好きなんだなーってわかりやすいのに、この二人はこの二年間恥ずかしがって全然積極的に動かなかったから、見かねたというか我慢できなくなったサーが動いたのだろう。
ちなみにマルコがエステルに、キアがレロサーナにホの字である。
まぁ二人も男爵とはいえ貴族の身分だけど、平民とはいえマルコとキアもオーレ学園に入学できるほどの人材なんだから大人になっても引き続き頑張れば二人の両親に認められるかもしれないと私は安易に考える。
たぶんだけど。だって貴族のそういう事情知らないし。
勿論レルリラの話から高位貴族は甘くないってことはわかったけどね。
でもその前に二人の気持ちが重要だけどね。
勿論二人とはレロサーナとエステルのことである。
「レロサーナ、エステル、こいつら一緒でも大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ」
「いいわよ」
突然のことでも快く受け入れてくれた二人に「ありがとう」と感謝を伝えて、次は日時だね!と決めていく。
「俺も行く」
そんな私達に更に加わってきたのはレルリラだった。
「え?レルリラも買い物あるの?」
「ない」
「じゃあ行く必要ないでしょ」
「それでも行く」
ふるふると首を振って意思を曲げないレルリラに私は困った。
買うものがないのに行こうとする意味がわからないからだ。
だけど私の左側の肩をレロサーナが、右側をエステルがポンと手を乗せる。
どうしたのだろうと見上げると、エステルが無言で笑みを浮かべ、レロサーナがレルリラへと言葉をかけていた。
「では一緒に行きましょう。レルリラ様」
「ああ」
そして私とレロサーナとエステルの女子三人と、マルコ、キア、サーの平民男達、それに加えてレルリラという高位貴族のちょっとバランス悪いメンバーで町に行くことが決定したのだった。