2 夢って子供の時に感じたことが一番のきっかけ②
(あともう少しだ!)
収穫作業に終わりがみえたところで、あいつが見えた。
ウルフという魔物。
ウルフは見た目が狼に近いこともあって、群れで行動する。
現れたウルフも一匹ではなく、遠目からでも十匹はいるようにみえた。
何故動物ではなく魔物と判別できたか、それは魔物はいずれも瞳の色がなくまた人間の白目部分が黒い為に、子供の私でもすぐに魔物だと簡単にわかるのだ。
ちなみに、町の中では魔物は生まれない。
所説はあるが、魔物は森からでないと発生しないというのが一番濃厚だと言われている。
そんな森が町の近くにあるのだが、定期的にクエストを出し色々な冒険者たちが森で魔物を討伐し、更には魔法を研究している人たちのお陰で魔物除けといわれる魔法具がこの町を守ってくれているから、町に魔物が現れることなどなかったのだ。
だから私は初めてみる魔物に怖くなってその場に座り込んでしまった。
大切な野菜を落としてしまうほどに、びくびくと怯えていたのだ。
そんな私と近づいてくる魔物に気付いたお父さんは、瞬時に皆に危険を知らせるべく小さな雷を落とす。
「サラ!お前はロックベルさんたちと逃げろ!」
「…え、ぉ、おとうさんは!?」
「ロックベルさん!すみませんがサラをお願いします!」
私の問いに答えることもなくお父さんは私に駆け寄り、抱き上げた後そのままおじさんに引き渡した。
いつも明るい笑顔が絶えないお父さんは焦り、戸惑い、そして恐怖の色を浮かべていた。
いずれも負の感情が伝わってくる。
おじさんは私を抱え込むと、お父さんから離れるように走り出す。
あれだけ足に力が入らなかったのに、今ではやだやだと騒いで暴れる私を抱きしめるおじさんの力が強くなる。
でも小さい私の体は、いくら体を捩じってもおじさんの腕から抜け出せなかった。
お父さんの放つ雷の魔法をひらりとかわすウルフ達に、いつの間にかお父さんが囲まれてしまう様子が目に映る。
(なんで!!どうしておとうさんのカミナリがあたらないの!!!)
当たれ!当たれ!と祈っていてもウルフ達は軽い身のこなしで全く当たる様子もない。
私の目から涙がこぼれ落ちる。
子供なりに、お父さんとはサヨナラになるんだと悟ってしまったのだ。
抵抗を強くさせる私を、おじさんは必死で抱え込みながら走り続けるものだから、どんどんお父さんが小さくなるし、溢れ出す涙でお父さんの姿がよく見えなくなる。
お父さんお父さん!
状況からウルフのものではない赤いものが飛び散る光景に、私は声を荒げた。
「やだぁぁぁああぁああ!!!!!」
その時だった。
お父さんの周りを竜巻が沸き上がり、そしてウルフたちの体がなにか…とても鋭い鋭利な刃物で切られたかのようにバラバラと崩れ落ちる。
抵抗をやめた私と、ものすごい風の音に気づいたおじさんが足を止めた。
無残にもバラバラとなったウルフたちの死骸の中、立ち尽くすお父さんと、それに駆け寄る一人の男。
この男が数少ないSランクの冒険者であることを私は後で知った。
私は、お父さんの元に泣きながら駆け寄った。
バラバラになったウルフ達に怯えることもなく、ただただお父さんが心配で、そしてお父さんが生きていたことを肌で実感したくて懸命に走ったのだ。
お父さんは私を抱き上げてぎゅうと力強く抱き締める。
苦しかったけれど、でも凄く安心した。
お父さんが生きていることが感じられて、私はとても安心したのだ。
そして救世主かのように颯爽と現れ、私のお父さんを守ってくれたその人に何度も何度もお礼を告げた。
「ありがとう」と。
もしかしたら泣きながら言っていたことで、何を言っているのか伝わらなかったかもしれないが、そんな私に爽やかな笑みで安心感を与えてくれたその存在が、とてもキラキラと輝いて見えた。
そして思い出す。
【たった一人に頼らない】
お父さんとおじさんに守られるように連れていかれた私は、まさに”守られるだけの存在”だった。
お父さん自身も身の危険を覚えて恐怖の色を浮かべているのに、それでも私を、皆を助けるために一人で立ち向かった。
おじさんは動けないでいた私を守るために、懸命に走った。
私はそんな二人に”頼り切ってしまっていたんだ”。
子供だから当たり前だとか、しょうがないとかそんなことは関係ない。
私はこの時思ったのだ。。
強くなりたい。と。
この人みたいに強くなって、私の大切な人たちを守れるような、そんな人間になりたい。と。
これが私の夢のきっかけとなったと、思っている。