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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
学園編~二学年~
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15 レルリラの話②





それから領地を軌道に乗せるまで整えたレルリラの父は数年後、やっと帰還した。

その時レルリラは父に頬を叩かれたらしい。

母を追い出したこと、そして母を連れ戻しに行かなかったことに対してではない。

お前は間違いなく母と父の子供だということを。

正真正銘血の繋がった実の息子だと。

今にも涙が流れるくらい潤んでいる父の顔を見て、自分が祖父に騙されたことをレルリラはやっとわかった。

息子の頬を叩いた後に震える父の手で抱き締められた時に、悟ることが出来たのだとレルリラは言っていた。


何故祖父の言葉を信じてしまったのだろうか。

洗脳でもされているかのようにあの時は疑うこともなく信じ、そして父に頬を打たれた後夢から覚めるように目が覚めたのだと言っていた。


属性魔法は親から子に受け継がれるという説もあるが、血筋に関係なく親と違う属性を持って生まれる者もいることから詳しいことは何もわかっていないのだ。

でも祖父はきっとそこをついたのだろう。

レルリラ一族が偶然なのか必然なのかわからないが、火属性の魔力を皆が持っていた事だけは事実だった。

そこをうまく利用した。


だが、レルリラが気付いたときはもう遅かった。

もう母は家を出て行ってしまったのだから。


祖父に怒りのままに詰め寄る父の姿をみて、自分がどんなに愚かだったのか。

簡単に騙される自分が、大切な母親がどんなに苦しい思いをしていたのか知ることもしなかった自分が。

愚かで、間抜けで、そんな自分にイラついて、ただただ悲しんで、そして歳を迎えてそのまま学園に入ったというのだ。


毎月父から送られる手紙を開けることもなく、いや、見る資格もないのだと思い込み、全ての原因の祖父と自分に抵抗意識の為だけに火の属性魔法を使うことをやめたのだと、レルリラは私に告げる。

変わりに祖父が醜いといっていた”風”の属性魔法を使ってやろうと決めたとも。




「あの日お前に言われて、…思い出せた」


レルリラは制服の内ポケットから、一通の手紙を取り出した。

取り出した手紙を広げると私に差し出す。


「お前の両親と同じように、俺の母上も”そう”だったんだ。

火も風も、どちらの属性にも手放しで喜んでくれていた。

初めて俺が属性魔法を使った時も、嬉しそうに喜んでくれていたんだ」


私の手を取り手紙を渡すレルリラは、整った綺麗な顔でふわりと微笑んだ。


私はこの時初めてレルリラの笑顔を見た。

綺麗で、美しくて、まるでお人形さんの様だと。

そしてきっとレルリラはお母さんに似たのかなと、レルリラの両親をみたこともないのに私はそう思った。

それほどレルリラは綺麗だったのだ。


「俺の力は俺のものであって、あのクソ爺は関係ないってことをお前に言われてやっとわかったと思う。…そして」


レルリラは言葉を区切って私に体を向けた。

影がレルリラを覆い、レルリラの赤い瞳が今は緑色に輝いた。


風属性の色である緑色の瞳が私を真っ直ぐ捕らえて離さない。


「俺も魔法が好きだ。だからここにいる」


以前私が尋ねた質問に、今レルリラが答えた。


(…覚えてくれてたんだ)


私はレルリラの答えに嬉しく思いながら渡された手紙に視線を落とすと、それはレルリラの父からの手紙で、母親が見つかったという内容が書かれていた。

祖父の一件で屋敷には戻ってこれていないが、祖父に追い出された使用人とともに地方で暮らしているらしく、学園を卒業したらでも構わないから母に会ってくれと綴られていた。


家に祖父がいるから戻れないのか、それとも祖父のことを思い出してしまうから戻れないのかわからないけど、レルリラのお父さんはレルリラと母の関係を改善させようという気持ちが手紙から伝わってくる。

レルリラもきっとそんなお父さんの気持ちが伝わったからこそ、私に手紙を見せてくれたのだろう。


「俺はこれから先、大切な人の為にどちらの力も使う」


「うん」


あの日はただ、私がレルリラの事情も知らず好き勝手に言いまくっただけだ。

後になって、なにも知らない人間に適当な事を言われたい人なんていないと考えて不安に思っていたが、こうしてレルリラのきっかけになることが出来てよかったと思いなおす。


「だからハール、俺はお前を鍛えさせる。もっと力をつけろ。今日はその為にこの場所の許可を取ったんだ」


「…はい?」


レルリラのその言葉に、感動して込み上げていた涙が一瞬で引っ込んだ。

そして私が戸惑っている様子を見て見ぬふりをしているのか、それともわかっていないのか、どんどん話を進める。

勿論レルリラ一人でだ。


「身体強化の魔法は使用禁止だ。魔法に頼るんじゃなくてもっと体作りをしろ」


「え?」


「とりあえずランニングからだな。お前はまだまだ持久力が足りない。勿論俺も走るから安心しろ」


「はい?」


「ダラダラ走っても意味がないからな。俺と離れないように紐でも結んでおくか。

ランニングが終わったら次は筋肉トレーニングだ」


「え?え?」


ほらさっさと走れと背中を押されて、無理やり走らされた私の頭は疑問符で埋め尽くされていた。










そして私が解放されたのは陽がどっぷりと落ちてからだった。


辺りが真っ暗になって、レルリラが設備を弄ると着いた照明が私を照らす。

まだまだと急に熱血指導をし始めるレルリラに最初は着いて行っていた私がもうダメだとヘロヘロになった頃には、太陽が沈み、二つの月が私に励ますように輝いていた。

お腹も激しく主張して、やっとレルリラが帰ろうといってくれたのだ。


「サラ!やっと帰ってきた!」


陽も暮れて数時間、お腹の悲鳴と共に寮の自室に戻ると二人がニコニコと部屋の前で待ち構えていた。


「で!で!どうだったのよ!レルリラ様の話!」


「急展開になった?!」


キャーと盛り上がる2人に私は思わず白目をむいた。


体作りの為の筋トレと有酸素運動の後_私も個人的にやってはいたが、レルリラのトレーニングはその倍、いや倍の倍の倍以上にハードだった_は、ひたすら属性魔法の特訓。

氷の魔法の発動はタイムラグがあった私に、アイツは連続使用且つ大規模魔法を要求した。


発動展開と魔法陣のイメージ、魔力の練り上げと放出をいかに操り、タイムラグなしに行うかが無詠唱のポイントで、それらは体に慣れさせるのが一番だというのだ。

要は慣れらしい。


ちなみに幼少期に鍛えられた火属性魔法であれば、レルリラは無詠唱でしかも離れた場所に発動できるらしい。

なんだアイツ。結局手加減してたんじゃないかと、訓練後に余裕が出来た私は思った。


私も強くなるためにここに入ったから、レルリラとのトレーニングには最初疑問ばかりを抱いていたが、途中から時間を忘れて没頭した。

だから二人が期待するような展開には限りなく遠いと思う。

いや思うじゃない。

”遠い”のだ。これははっきり言える。

特にそういう展開を期待していたわけでもないけど。


だけどレルリラの笑った顔を見たときは、少しだけなんとも言えない感覚になったのは二人には内緒にしたほうがよさそうだ。

しつこそうだし。


「はぁ…、お腹空いた…」


まだ食堂が開いているかなと、盛り上がる二人をみて私は考えていた。





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