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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
学園編~二学年~
37/137

13 私の試合③ ※視点変更有


◆視点変更




俺の母は子爵家の令嬢だった。

本来であれば公爵家とはつり合いが取れないほどの身分差で、父上と母上は婚姻の承諾をとることは難しい筈だった。

だが母上に恋した父上は政略結婚ではなく恋愛結婚を希望し、後継者の立場と自身の才能を武器にし、母上との結婚を祖父に認めさせた。

父上しか直系の子供がいなかったことも祖父が認めた理由の一つだろうが、父上の才能は分家の人間を後継者にする選択肢をなくすくらいに惜しいものだったのだ。


そして母上が産んだ長男のオイゲン兄上、次男のラルク兄上、そして三男の俺はいずれも強力な火属性の魔力を身に宿して生まれた。

だがその中でも俺だけは違っていた。


『わぁ!すごいわ!ヴェル!火だけじゃなくて風の属性も得意なのね!』


火属性だけではなく、風属性の魔力も持っていたのだ。

だが母上も父上も、そして兄さんたちも風属性を持つ俺を卑しめることなく、とても喜んでくれた。


だが幸せは長くは続かなかったのだ。


レルリラ公爵家にある日事件が起きた。

家族がバラバラになり、俺が自分の属性を憎く思うようになった事件。


その原因となった祖父に反発する為に、俺は憎く思うようになったこの”火”の属性魔法を封印することに決めたのだ。

火の魔法を使うことは、あのクソな祖父と一緒の人間である事なのだと。

そう思うようになった。


そして


学校に入学して、俺を睨みつける女が視界に入った。

最初は気にすることはなかった。


俺に負けたことを悔しそうに、まるで今にも騒ぎ立てそうな女の姿。

女の体で、尋常じゃない汗を流しながら必死に男の体力についてこようと努力する女の姿。

習得するのが難しかったのか、できた時には本当にうれしそうに喜ぶ彼女の笑顔。

わからない問題は夜が更けても図書室に入り浸る彼女の努力する姿。

特段仲が良くもない人相手に寄り添う彼女の優しさ。

その所為で自身に怪我を負っても、相手を責めることは決してしない彼女の思いやり。


いつの間にか俺はどんな状況下でも決して諦めず努力を重ねる彼女を、次第に目で追うようになっていた。





『魔法が楽しくないなら、何故ここにいるの?』






いつも目で追うようになっていた彼女に言われた一言に、俺は唇を噛み締めた。


楽しくないわけがない。

親の喜ぶ言葉を、俺は今でも覚えている。


初めて火の魔法を使ったとき母上は『ヴェルはきっとお父さんのように偉大な男になるわ』といってくれた。

風の魔法を使ったとき、『いつか私を空の旅に連れて行ってくれるかしら』と楽しそうに笑って言ってくれた。

そんな母上の笑顔が、俺は今でも鮮明に思い出せる。


魔法が楽しくないわけがなかった。


だが


___涙を流す目の前の、平民の女の子。


___優しい心を持ち、努力をし続け、常に前を向いてる彼女が泣いていた。


貴族にとっては取るに足らない存在のはずなのに、彼女の言葉が胸に残った。


そして俺は叫ぶ。



「<フラム・エクスプローシブ_豪爆炎>!!!」





◆視点変更終わり










私の言葉に傷ついたような、思いつめた顔をしたレルリラに気を取られ、油断してしまったその一瞬。


「<フラム・エクスプローシブ_豪爆炎>!!!」


ずっと火属性の魔法を躊躇していたレルリラから発せられたとは思えないような、叫ぶような詠唱に現れたのは、龍の形をした火の塊。

レルリラを囲んでいた氷の刃はあっという間に融かされ、会場内は一気に熱気で包み込まれた。

龍は私をとらえると、まっすぐに襲い掛かる。


(デッ、カイッ!)


この距離で、避けれるか。

いや、無理!

だったら打ち消さないと!


油断。

焦り。

恐怖。


だけどこの規模の”火属性魔法”を使ったレルリラに対し、喜びの感情が確かに私の中にあった。


やっと認めてくれたのだと。

嬉しかった。


「<グラセー・フロイド_寒冷氷>!」


先程も使った周囲の気温を下げる魔法。

相殺できるか魔法を発動した張本人の私でもわからなかったが、火の龍は形を維持できなくなり、スゥと”あっけなく”消え去った。


(間一髪ッ…)


でもあっけなく消えたということは、そこまで魔力を込めていなかったのだろうか?

あのレルリラが?


不思議に思ったその瞬間だった。


「<ベント・フォート_強風>!」


油断していた私は対策もとれないままレルリラの魔法を受けた。

作っていた筈の背後の氷も”火の龍”に融かされていたことを頭から抜けてしまっていた私の体は、風魔法に吹き飛ばされ、会場の壁に打ち付ける。

そして私の意識は闇に落ちた。















「先生…?」


暖かく心地よい感覚に目を覚ますと、先生が微笑んでいるのが目に入った。


「よく頑張ったな」


その一言に、私は悟る。

試合は私の負けだと。

もっと戦えたんじゃないかと、唇を噛み締めた。


(折角レルリラが火属性の魔法を使って戦ってくれたのに…!)


レルリラの火魔法で私の氷があっけなく融かされ、風魔法であっけなく吹き飛ばされた自分。

悔しい思いを抱きつつ、それでもやっぱりレルリラが火属性の魔法を使ったことがうれしいと、そう思う気持ちもあったのも事実。


私は試合後の握手をしようと体を起こす。

だがどこにもアイツの姿は見えなかった。


「あれ?…レルリラは?」


「観覧席に戻ったぞ」


「はぁ?」


「戻れって言ったのは俺だからあいつを悪く思うなよ。お前の回復に時間がかかってしまっただけなんだから」


すまんな、と謝る先生だったが、私は首を振って問題ないことを告げる。

先生に回復してもらった私は、トボトボと観客席に戻るため歩を進めた。

レルリラの家の事情は全然分からない。


(でも……)


レルリラが”火”の属性魔法を使ってくれた。

レルリラが声を荒げるほどに使わないと言っていた火属性魔法を、レルリラは使ってくれたんだ。

少なくとも、いい方向で変わってくれていたらそれでいい。


ノロノロとレロサーナとエステルのもとに戻ると、二人とも労りの言葉をかけてくれる。

勿論二人の元に辿り着くまでの間、「お疲れ様」「凄かったぞ」とクラスの皆からも声が掛かる。


「サラとレルリラ様の試合凄かったわ」


「ええ、本当。あれ程に白熱した試合はサラとレルリラ様だけだわ」


白熱…していたのか私にはわからなかったけど、それでも“一方的に”やられていたようには見えていなかったらしい。


「…最後の最後で油断してしまったから、今度はもっと油断しない様に気を引き締めないと」


そういうとレロサーナは「私と一緒ね」と答える。

わたしは(そっか、レロサーナもこんな気持ちだったのか)と思った。


油断して負けて、消化不良みたいな、そんな感じの感情をレロサーナも抱いていることを私は知る。


「サラ、私達はここで終わりじゃないわ。次勝てるように頑張りましょう」


そういって微笑むレロサーナに私は頷いた。


「うん…、そうだよね!次に向けてもっと頑張ろう!」


ここで下を向いてしまったらそこで終わりか、時間を無駄にするだけだもの。

次の試合では勝てるように、もっともっと頑張ろうと気を引き締めているとエステルがぽそりと呟いた。


「…でも、サラの努力は知っててもあのレルリラ様に敵う想像がつかないわ」


「え?」


「それは私も思うわ…。だってあのレルリラ公爵のご子息だもの」


「”あの”?」


さっきまでお互いに頑張ろうと励まし合っていた筈のレロサーナまでそう言い始めることに私は戸惑いながらも、どうしてそのように思うのかを尋ねる。

すると、


「あら、聞いたことない?レルリラ公爵家の一族は皆素晴らしい火属性で才能に恵まれているのよ」


「…へー」


「騎士だけではなく宰相を務める方もいらっしゃるのよ、すごいわよね」


「……へー」


なんだ。つまりエリート一家ってことか。

平民の私とはスタートラインが遥かに違う存在。

学ぶ環境も、そして生まれ持っている潜在能力も。


____でもね


「だから…」


「だからもなんでも努力に勝るものはないでしょ。公爵家がエリートだろうが、平民だってやるんだってところ見せてやるわ!」


「……ふふ。そうよね。サラはそういう人よね」


「怪我しないように頑張ってね」


「うん!」


苦笑いを浮かべる二人が次の試合の為会場に視線を戻すのを見て、私も次の試合に注目する。

…ふりをして、一人でいるレルリラを横目で盗み見た。


入学してからレルリラは常に一人でいた。

それがアイツなのだと思っていたし、レルリラも一人が好きなんだと思っていた。

だけど違うのかもしれないと、私は思った。


試合を通して、レルリラは意識的に人を寄せ付けないようにしていたのではないかと。

自分の力の筈なのに、その力をクソだって言い放つレルリラ。

何も話してくれないからまったく事情は知ることも出来なかったが、レロサーナとエステルの話だとレルリラの家は代々火属性の家系だという。

もしレルリラが自分の属性について何か言われたくなくて、だから人と距離を置いていたのではないか。と私はそう思った。





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