11 私の試合
その後何組かの試合が行われて、遂に私の番。
「次!サラとレルリラ!」
場内にいる先生に名を呼ばれ、私は立ちあがる。
既に試合を終えたレロサーナとエステルは「頑張ってね」と笑顔で手を振った。
スタスタと先を歩くレルリラの後ろを私は追うように続いていると、途中皆からも励ましの声がかかる。
私は普通に驚いた。
いくら仲がよくなったと思っているとはいえ、てっきりレルリラの応援をする人が多いと思っていたのだ。
いや、でもよく見ると皆の眼差しはなんだか同情のような、憐れみのような感情があるようにもみえる。
つまり皆は私が負けて、レルリラが勝つという未来が当然だとでも思っているから、せめて元気を出してもらえるように見送ろうと思っているってことだ。
なんだそれ、ちょっとむかつく。
でもそんなことを考えているうちはよかったが、実際に会場まで続く薄暗い通路を目にすると途端に緊張が高まってくる。
ずっと勝てなかった相手に、今日やっと顔を見合わせ、そして初めて実戦で戦うのだ。
一年間と期間がありながら、どうしようもなく埋まらなかった差。
私は勝てる、のだろうか……?
そんな不安な思いが広がる。
(いや、違う)
私はこの一ヶ月で強くなった。
シェイリンだけじゃない、アコやメシュジだって相性が悪い相手にも勝ってたじゃないか。
私は何のためにここにいる。
かっこよくて強い冒険者になるためじゃないのか?
(勝つんだ!コイツに!)
私の目標に一歩でも近づくために。
ぎゅっと拳を作り気合を入れると、ワッと湧き上がるクラスメイトの声が聞こえてきた。
「…すぐ終わる」
「え…?」
突然告げられた言葉に、私は前方を歩くレルリラへと視線を向ける。
会場までの薄暗い通路の中、外の明りを背にしたレルリラが私のほうを向いていたのだ。
そして気のせいかもしれないけれど、一瞬だけレルリラの瞳が別の色に見えた。
火属性の赤以外の色。
お母さんと同じ緑色の瞳。
だけどそれ以外に気になるのはレルリラの冷たい目。
怒っているとか、そういうんじゃない。
希望を抱いていない、なにも感じていないような、そんな悲しい目をしていたのだ。
レルリラはそのまま私に背を向けて会場に入っていく。
私はもやもやしたような、そんな感情を振り払うように通路の中を足早に抜けた。
そして会場に入った私達がそれぞれ定位置についたことを確認した先生が上げた手を振り下ろす。
「始め!」
その瞬間に、私は瞬時に自分自身に支援魔法をかけた。
レルリラがどんな魔法を使っても回避できるようにだ。
「<レンフォーセメント_強化>!!」
「<ベント・フォート_強風>」
「っ!」
殆どタイムラグなしでレルリラが使った魔法は”風”の魔法。
身動きができないくらいの強風に体が押されるが、私はこれ以上後退させられることがないように体を低くさせる。
(場外に落とすのが目的?)
その時察した。
【すぐ終わる】
その言葉の意味が分かった私は眉を顰めた。
(言葉通りになんてさせないんだから!)
絶対に場外負けなんてカッコ悪い負け方誰がするかと、私は対応するための魔法を発動させた。
「<ゲル_氷結>!!」
吹き飛ばされないよう自身の前に風を遮るための、そして後ろに吹き飛ばされないための氷を作る。
するとなんとなくだが、レルリラの目つきが鋭くなった気がした。
「<フォーテー・プリエ_豪雨>!」
レルリラが他の魔法を使う前に、私も強い雨を発生させる。
ただの雨では、アイツの風の魔法でかき消される可能性があったし、利用される可能性があったからだ。
相手の魔法を取り込むためにはコツがある。
それは魔力の量だ。
相手よりも多く魔力を込めると魔力量は食うが、相手の魔法を取り込むことができる。
逆をいうなら相手に私の魔法を取り込ませないことができるのだ。
レロサーナの雷をシェイリンの水が取り込んだのも、水の発動の魔法に魔力量を多めに注いでいたからだ。
だから思った通り、私の雨はアイツの風に乗せられることもなく、アイツを直撃する。
(でも、どうして?)
一か月前の属性魔法の学習の前、属性を調べる特殊な紙で皆それぞれ自分の属性を確認をした。
その時私ははっきりみたのだ。レルリラの持っていた紙が燃えていた事を。
外見もだけど、私はアイツの属性が火だとずっと思っていた。
水は火に弱い。
だからこそ火属性のアイツに負けないように、勝てるように必死で属性魔法を習得した。
だけど、違った。
いや、違うことなんてあり得ない。
(でも半分の紙は刻み込まれていた)
通常属性の色を私たち人間は生まれながらにして持って生まれる。
私も学園に入る前から水属性だって知っていたのは、自分が水属性の色を持っていたからだ。
だから先生が渡したあの特殊な紙がなくても、属性魔法を知ることが出来る。
(でも複数持っていたら?)
複数の属性魔法を持っていて、一種類の色しか持っていなかったら、どうやって属性がわかるというのだろう。
だからこそのあの紙だったんだ。
あの特殊な素材で出来ている紙は持っている属性を正確にわかる。
だからレルリラの紙は半分が燃えて、半分が切れていたのだ。
アイツに火属性だけじゃなく、風属性もあるのだと教えてくれていたのだ。
(身体能力強化魔法は、まだ大丈夫!)
「<グラセー・フロイド_寒冷氷>!!」
豪雨を降らせた上で周囲の温度を一気に冷やせばどうなるのか。
答えは言うまでもなかった。
ピキピキとあちこちから音が鳴る。
会場中の地面が凍っていっているのだ。
私は更に氷結の魔法で足元の地面を凍らせて、そして一気に”滑り”ギュッと力強く握った拳を振るう。
「<マー_壁>」
「ッ!」
だが私の拳はレルリラが生み出した壁へとぶつかった。
思いっきり殴ったから、ズキズキと拳が痛む。
この試合は”魔法の成長をみるため”の試合だ。
魔法の対決をする場で、私が拳を振るったのはどうしてもイライラしたからだ。
だって
「ちゃんと戦いなさいよ!!!」
___レルリラがちゃんと戦ってくれていなかったから。