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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
学園編~二学年~
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7 調理授業









「サラ、早くしないと先に行ってしまうわよ!」


「あ、待ってよ!」


授業が終わり、後で復習しようと付箋を貼っていた私を急かすように声をかけるレロサーナに待ったをかけると、続いてエステルが私を急かす。


「調理室遠いのよ!」


「今行くから!」


魔法科といっても、魔法だけを扱うわけではない。


薬草の知識からポーション作り、剣技、そして、かなりの割合で騎士団を目指している子が多いことから、調理実習も設けられている。

だが二年の私たち……というより貴族の子の為に本格的な調理から始めるのではなく、お菓子作りなど手軽且つ身近に感じられる内容が取り入れられていた。


また平民の為なのだろう、騎士団に入った際貴族社会でもやっていけるように礼儀作法も取り入れられている。

礼儀作法は正直面倒だな。と自然とため息をついてしまうのも仕方ない。

だって冒険者を目指している私に果たして必死で身に着ける予定の礼儀作法をお披露目する機会があるのか。

うん。………習うだけ無駄な気がしてくる。


と、話を調理実習に戻す。


学園生活二年目となると色づき始める年頃の……好きな男性に渡したい女子、好きな女子の手作りを欲する男子の図が出来上がっていたのだ。


だから………


「ちょっと!サラを返しなさいよ!」


「いーえ!今回は私達のところにきてもらいますわ!」


小さい頃からお母さんの手伝いとしてキッチンに立っていた私に、色めき立つ女子たちから指名がかかる。

実力をかってもらえるのはうれしいけど、自分で作らなきゃ意味ないでしょ。

という言葉はこの場でいうと火に油なので、口を閉ざしたまま両の手を抵抗することなく左右に引っ張られる。


ちなみに私の他の平民の男子達だってキッチンに立つことくらいあるだろう。

卵だって殻を混入させていなかったし。

だけどそこは、”男”というだけでこの時間だけは女子からの指名はない。

よかったね。

意識してもらえてるってことだよ。たぶん。きっと。恐らく。


こうなった原因……というのも言葉が悪いが、きっかけはあの鉢植え事件だと思う。

あの時の女の子はマリア・シティシスという子で、クラスの女子の中では一番爵位が上の侯爵家の娘だったらしい。

それにこの学園は基本的には、力を付けたい者たちが集まる場所だ。

魔法も、知識も、剣術も。

だからこそ「平民の癖に!」「生意気よ!」と思うよりも、平民だけど授業についてこれている私達に対してよく思う人は多いんだと思うし、そんな人たちがあの鉢植え事件をきっかけに歩み寄ってくれたのだと思っている。


「ちょ、ちょっと待って!私エステルたちと組むから一緒には組めないよ!」


「サラ・ハールはいつもそうよ。たまには別の人と組むのも大切だと思うわ」


言葉はもっともらしいが、私に必死な形相をして迫るのは前にホットケーキを焦がしたことがある女の子だ。

ちなみにいうと、アコ・クルオーディという伯爵家の女の子。

あとフルネーム呼びはやめて欲しい。


反対から私の腕を引っ張るのはレロサーナで、器用かと思ってたけれど意外に意外、卵がうまく割れずに殻を大量投入していた。

ザルに越して卵は無駄になることはなかったが、その経験があるからこんなに必死なんだろう。

うん。わかる。不安なんだね。

でも弱火でじっくりゆっくりやれば、焦がさないよ。安心して。

そして腕痛い。


「じゃぁさ、不安なとき声かけてよ、ね?そしたら様子見に行くから」


そういうと渋々だったが、「サラ・ハール!絶対ですわよ!」「すぐきてくださいね!」といって持ち場に戻っていく女子達。

いつの間に懐かれたのかはわからないけれど、フルネームで呼ぶのは本当にやめて欲しいな。

これ大事だから二回言うけど。

出来たらサラって名前で呼んで欲しい。


「なんでも出来るのは美点だけれど、面倒もあるわね」


「………。ハハ、…だね」


レロサーナの言葉に、乾いた笑いを漏らす。

だけども求められるのは嬉しいし、一緒に作って一緒に喜んでくれるみんなを見ていると良かったって思うから手伝わない選択肢はないけど。


それでも、不器用なレロサーナを思い出すと苦笑してしまうのは無理もなかった。


「今日は何を作るんだっけ?」


「チョコレートケーキがお題らしいわ」


魔力の文字でどこからでもわかるように大きく書かれた文字をエステルが読む。


チョコレートケーキかぁ…、いいよね。

最初に比べたらちょっと難易度があがってきてはいるけれど、美味しそうなお題に涎が出てくる。


調理台に置かれた材料は、チョコレートケーキに必要な材料が既に揃っていた。

前と違うのは、袋のまま置かれていて分量ごとに用意されていないことである。


「なにをやればいいかな?」


「エステルは粉を計って振るっておいてくれる?

レロサーナは卵を……、あ、やっぱりチョコを湯煎してくれるかな?」


卵の殻を大量投入していた前回の事件を思い出して、私はレロサーナに比較的簡単なチョコレートを溶かす作業をお願いする。

二人は快く引き受けてくれて、私は別の準備をと思って二人から目を離した。


「それにしてもチョコレートケーキのチョコは薄味にするのね」


「へ?」


どういうことなのかと振り返ると、ボチャボチャとなにかを沈ませる音が聞こえる。

鍋に火をかけお湯で沸かすところまではいいが、その中に直接チョコレートをぶちこむレロサーナの姿に驚愕し、私は慌てて駆け寄った。


「ちょ!ちょっと待って!!薄味にしなくていいから!

チョコレートケーキのチョコはちゃんとチョコの味するでしょ!?だからお湯にいれなくていいの!」


「え?でも湯煎って…」


「鍋にはったお湯の温度を利用して、間接的に熱することを湯煎っていうの!」


「あ、そうだったのね…。私てっきり…」


苦笑するレロサーナに私は今度こそ湯煎をお願いする。

そしてそのままエステルへと視線を向けると、計り終えた粉を何故か別の袋に入れ直していた。


私は思わず尋ねていた。


ポーション作りだって、ある意味調理だ。

実家がポーション作りを生業にしているのなら、エステルだって…、それにポーション作りの授業ではエステルは先生に褒められるくらい優秀だ。

そのエステルが測り終えたものを袋に入れ直すのなら何か意図があるのだろう。きっと。


「あ、あの…エステル?なんで袋に入れてるの?」


「…?振るうんでしょ?」


当然とでもいうように堂々としているエステルに、私は一気に駆け寄る。

今にでも腕を振り回しそうだからだ。

勿論袋の口はちゃんと閉じているようだから、悲惨な状況になることはない。

だけど、だけど!


「“振る”の意味違うよ!ザルとボールでこうやってふるいにかけるの!」


こう!と粉はいれないが実際にやってみせると、エステルの頬が赤く染まる。

誤解していたことにやっと気付いたみたいだ。


「ご、ごめんなさい…ポーション制作には粉は使わないから…」


羞恥が凄いのか、真っ赤に顔を染めるエステルは私からザルとボウルを受け取ると袋に詰めていた粉を今度こそ振るってくれた。


恥ずかしそうにしているエステルも勿論可愛いけど…。


「………」


貴族の令嬢が料理をする姿なんて想像できないが、レロサーナとエステルでこうなのだ。

ちらりと周りに目を向けると同じようなミスをしている生徒も多く、手遅れになるまえに先生の魔法で生徒の動きを止めている。


(魔法もそうだけど、基礎知識って本当に大事だよね…)


二人から目を離さないように気を付けつつ、私は二人にわかりやすく指示を出しながら、チョコレートケーキを完成させるべく励んだのであった。



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