1.夢って子供の時に感じたことが一番のきっかけ
【むかーしむかし、人々は笑顔で暮らしていました。
ある人は歌を歌い、ある人は踊り、またある人は楽しそうに笑っていました。
ですが、突然とっても強い魔物が現れたのです。
勇気ある人たちは突然現れた魔物に立ち向かいました。
ですが神が人に与えた魔法を使っても、その魔物は倒れることがありませんでした。
人々はこのまま魔物に滅ぼされてしまうのではないかと恐怖しました。
ある人は悲しみ、泣け叫びます。
またある人は理不尽な未来に怒り出しました。
それでも様々な人たちの中で諦めなかった人たちがいました。
人々は沢山の研究を重ねて、遂に魔物に滅ぼされない未来を掴むため、召喚魔法といわれるものを作り出したのです。
召喚魔法によって美しい一人の女性が現れました。
黒い髪と真っ黒な瞳を持った美しい女性でした。
人々は女性に助けを求め、女性は皆の願いを受け入れました。
女性は魔物の前に立ち、両手を合わせて祈ります。
するとたちまち魔物が苦しみ始め、そして遂には倒れました。
その瞬間歓喜の声が響き渡りました。
興奮を隠し切れない人たちの様子に、女性は微笑み、そして人々に向けて言いました。
「これからは私が皆を守っていきます」
その女性に助けられた人たちは泣きながら喜びました。
後に女性は”聖女”と呼ばれるようになりました。
聖女は人々を纏め国を納める王様の息子であり、次代の王となる王子と結婚し、王宮で幸せに暮らしました】
「はい。おしまい」
緑色の髪をもつ女性はパタンと本を閉じ、腕の中にいる小さな子供にどうだった?と尋ねた。
尋ねられた子供は少し考えた後にこりと笑みを浮かべ、母親の顔を見上げて答える。
「おもしろかった!
でも、おかあさんとおとうさんもマホーつかえるでしょ?なんでマホーでパパーってやっつけないの?」
「それはね、お父さんやお母さんの魔法でも倒せないような魔物がいたからよ」
「え!そんなマモノいるの?」
「ええ、いるわよ」
一般的に少女や少女の両親のような平民という身分には魔力が高い人物が多くない。
その為魔法を行使して魔物討伐に名を上げる者は、平民よりも貴族の方が多かった。
だが、”そういう次元では倒せない魔物”が世の中にいて、子供に読み聞かせた絵本のように”聖女”と呼ばれる人間を異世界から呼び出しているのだが。
それはまた別の話で、子供にとっての上位は両親が存在している為、現実世界にも親が倒せない魔物がいると知ると驚く子供にふふっと子供の母親は微笑んだ。
「勿論!今の時代もこっわ~い魔物はいるから、サラは絶対に一人で森に入っちゃだめだからね?」
「うん!はいらないよ!」
コクコクと何度もうなずく子供_サラの様子に、母親は「よろしい」と頭を撫でる。
どうして森に入ってはいけないのか、そんなことを疑問に思うこともなく子供_サラは撫でられ気持ちよさそうに目を細めていた。
「……たった一人に頼らない、……私が言える立場ではないわね……」
ボソリと呟かれた母の言葉は膝の上にいるサラの耳にも届いていたが、意味が分からなかったサラは首を傾げただけだった。
それでも子供の純粋な眼差しに母親は「なんでもないわ」と笑い、サラを膝の上から退かし、晩飯の準備の為に袖をまくる。
サラは母親が読んだ絵本を棚に戻し、すぐに意識を別のものに移したのだった。
◆◆
私が将来なりたいもの、夢が決まったのは子供の時のある出来事がきっかけだった。
私のお父さんは冒険者として、お母さんは酒場の従業員として働いている。
私が今よりも小さかった頃、初めてお父さんと一緒に冒険者のお仕事についていった。
いつもは家でお母さんと過ごすか、お母さんも仕事で忙しい時は町にあるギルドという場所に預けられているのだが、この日は初めてお父さんに着いて行く許可を貰えたのだ。
冒険者の仕事は色々あって、ペット探しや薬草採取などといった私でも出来そうな事から、魔物の討伐依頼といった危険な仕事といった沢山の仕事に溢れている。
この日許可を貰えたのは危険がない仕事で、町のハズレにある大きな畑の収穫作業のお手伝いという内容だった。
キュオーレ王国にはいくつもの町が存在している。
その巨大な国の真ん中にある王都より、更に南に位置している田舎町のマーオ町が私の生まれ育った町だ。
人口はそんなに多くないが、農業を担う世帯が多くいることからそれなりに広いし、生活に必要なお店はそろっている。
そんなマーオ町ならではだと思うが、町にあるギルドには収穫補助の依頼がたくさん来ていた。
ギルドとは国や町、周辺の村からの依頼を、お父さんのような冒険者の人たちにクエストとして仕事を紹介する組織であるが、素材の買取や、金銭の取り扱い_銀行業務_等も行っている組織である。
またギルドにもよるが、共働きの家庭の子供を預かってもくれるのだ。
だから私は笑顔で見送ってくれたギルドの従業員に手を振って、お父さんと共に依頼場所に向かっていた。
「サラ、無理しなくていいからな?」
サラ、基い、サラ・ハール
どちらも名前みたいだけど、私の名前だ。
精密な魔力操作が不得意だったのか、お父さんは一つ一つ手作業で野菜を収穫し、私はお父さんが収穫した野菜たちを短くて小さい手足で必死に運んでいた。
ゆっくりでいい、疲れたら休みなさい。とお父さんは私を心配してくれた。
ちなみにお父さんだけではなく、このクエストを依頼したおじさんたちも魔法が使える。
なにも冒険者だけが特別な存在ではないのだ。
普通にいろんな人が魔法を使っているのである。
なら何故わざわざ仕事を依頼するのかというと、平民が所有する魔力量は多くないからだ。
魔力量が少ないと農業という大規模な土地に対して魔法を展開するとそれだけで寝込んでしまう。
だからこそ人手が必要と判断し、仕事として依頼するのだ。
そんなみんなが使う魔法だが、私は使えない。
この頃はまだ魔法の使い方を知らなかったからだ。
お父さんやお母さんが魔法を使う姿をずっと見てきて、唱えている呪文を真似してみても発動なんてしたことがなかった。
きっともっと大きくならないと魔法が使えないんだと思っていた。
「わたしだってこれくらいできるんだから、まかせてよ!」
それでも子供の私の体力は有り余ってたし、疲れてもなかったから、子供にとっては大きい野菜を、落とさないように一つずつ両手で抱え込んで運んでいた。
私が運ぶ分、お父さんの負担が少しでも減ると信じて足を動かした。
そうすると心配するお父さんも、依頼主であるおじさんたちも同じように笑って「頑張れよ」と「ありがとな」の言葉を口にするのだ。
純粋に楽しかったし、そしてなにより嬉しかった。
今まで野菜が育っていたふかふかな土の上を、私は転ばない様に慎重になって移動する。
いつの間にかお父さんから被されていた帽子が風によって脱げてしまったが、顎の下で紐を結んであったから飛んでいってしまう心配はなかった。
綺麗な青空の下で走っていたからか、少し汗ばんできた私は立ち止まって額の汗を拭う。