5 友達との時間
「あ”~、まだ味が口の中に残ってる気がする~~~」
ぐで~と横になる私がいるのは寮の自室だ。
貴族平民と分け隔てなく扱ってくれるこの学園の寮は、生徒一人ずつに部屋が与えられる。
一人部屋が与えられているのは貴族が多い為なのだろう、生徒のプライバシー保護を重視しているという話だ。
だけど平民も同じように一人部屋が与えられているところを見ると、プライバシーよりも一人部屋なんだからちゃんと勉強に励め。環境はちゃんと整えているだろと、有無を言わせない圧力を感じている。
そして、ベッドに横になる私は目を瞑る。
入学してから予習復習をかかしていないが、今日ばかりはそんな気力もわかない。
あれから味付けもしていないゲロマズなポーションを飲まされ、吐き気がこみあげながらもその後の授業を受けた。
長期間の保管の為にも砂糖を使うことは必須だということで、砂糖だけではどう味が変わるのかで、あのゲロマズポーションに砂糖を混ぜただけのポーションを飲んだ。
かなり飲みやすくはなったがそれでも混ぜたのは砂糖だけ。
まだまだ不味い。
そこからはミルクを入れたらどう変わるか。
フルーツを入れたらどう変わるか。
フルーツがない場合は?調味料だけでは飲みやすくはならないのか?
また色々なものを味付けで足していくと流石にポーションの効果も落ちる。
なら効果が鳴るべく落ちない味付けは?
と様々な味付けを研究した。
いや、させられたといってもいいと思う。
結果的にはフルーツを入れたポーションが一番飲みやすく、効果も保つことがわかったが、あれだけ不味いポーションを立て続けに飲み、しかも魔力不足ということもあって、気持ち悪さは最大だった。
というより、草とはいえただの薬草がなんであんなに不味いものに変わるのかが本当にわからない。
加えているのは魔力だけ。
もしかしたら魔力を加えることで、薬草が持っている味に変化が生まれているのだろうか。
そんなこんなで制服のままだらけていると、トントンと扉が叩かれる音が耳に届く。
誰だろうと思いながら起き上がり扉を開けると、レロサーナとエステルが立っていた。
「遊びにきたわよ!」
「入ってもいいかな?」
レロサーナ、そしてエステルの順に話され、私は快く二人を部屋に通した。
元気だなぁ、二人…。
元からあった設備のみのままで部屋にソファやテーブルを設置していなかった私は、二人にさっきまで横になっていたベッドに促すと、二人は並んでベッドに腰を下ろした。
「サラにもあげるわ」
ベッドに腰掛けたエステルが鞄から取り出したものは、瓶に入った飴玉だ。
ピンクや黄色、水色など様々な色の飴玉が入っており、ガラスの瓶も細かい細工が施されて可愛いという印象を受ける。
「ありがとう」
でもなんで急に飴玉?と疑問に思いながらも一つ口に放り込む。
うん、美味しい。
しかも心なしか元気も出てくる。
「それね、私の実家で作っているのよ」
「エステルの実家って飴作ってるんだ?」
そういうとクスクスとエステルが笑う。
「ううん。ポーションを生業としているわ。でも飴玉も視野に入れようってことで、作ってみた飴がそれなの」
ポーションと飴玉の関りがよくピンとこなかったが、甘い飴玉を舐めていくうちに疲れが吹っ飛ぶような気がした。
本当甘い食べ物って不思議だ。
「美味しいし、なんか元気がでてきたよ。ありがとうね」
「私も貰ったのだけれど、本当不思議よね」
「?」
レロサーナも共感してくれたけど、なにが不思議なのかと首を傾げた私にエステルが言う。
「実はそれポーションを飴玉にしたものなのよ」
「え!?そうなの!?」
「まだ開発段階だから売り物にはならないのだけどね」
「これで売り物にならないの?」
飴を舐めている時はただの飴玉という印象しかなくてなにも思わなかったが、これがポーションであるということを聞いた今では印象がガラリと変わった。
飴玉を舐めて疲れが吹っ飛ぶような気がしたのはポーションの効果だったのだ。
だからポーションとしてもちゃんと効果を発揮している飴玉の形のポーションが売り物にならないと聞いて私は驚く。
「形はできてるんだけど効果面のテスト段階中なのよ。流石に性能が低いものを販売はできないわ」
テスト段階中ときいて、こんなにも効果があるのにと驚く私にエステルが嬉しそうに微笑んだ。
「ふふ。サラはいいお客さんになりそうね」
エステルの言葉に私は頷いた。
だってこんな摂取しやすくて持ち運びもしやすいポーション、購入しないなんて勿体ないもの。
勿論販売価格で買える個数は変わってくるから、いいお客になれるかはわからないけど。
でも今販売されているポーションは瓶に液状で入っているのが主流の為、持ち運びも数も増やすことが出来る新しい形のポーションは絶対に売れるだろう。大ヒット間違いなしだ。
「それはそうと今日はどうしたの?」
飴玉を口に含ませながら問うと、二人は顔を見合わせてから私を見た。
「どうしたの?じゃないわ」
「ええ、そうよ」
急に真顔になった二人は本気で怒ってはいないとわかっていても、態度の変化に私はたじろぐ。
「サラってばいつも勉強ばかり。少しは友情を深めようとは思わないの?」
「そうそう。週末誘ってもいつも断るんですもの、私達も悲しくなるわ」
「え…、ご、ごめんね…。でもさ、学園に通っているんだから勉強は大切で…」
「たまの息抜きも大事よ!」
「は、はい!」
言葉を遮るほどのレロサーナとエステルの勢いに押されてしまう私は、自分がどんどん小さくなる気分になる。
「ということで、明日の休日は一緒にお出かけしましょうね」
コクコクと頷くと気をよくした二人はニコリと笑う。
いつもほんわかしていて優しい印象が強いエステルにもそういわれてしまえば、頷く以外の選択肢は残されていない。
そこからはクローゼットを問答無用で開けられ、黒や茶色のワンピースしかかけられていない中身を見ては、レロサーナとエステルの部屋にこれまた問答無用で連れていかれ、貸してあげるからと服をこれまた問答無用で着せ替えられた。
ついでに髪をいじられ、似合う髪型を見つけるまで!といっていたが、楽しそうな二人の様子をみるに、ただ楽しんでいるだけなのかもしれない。
それでも楽しそうな二人に私は大人しく二人のお人形さんになった。




