最終話 最後に互いの気持ちを④
私がレルリラに返事をしようとした瞬間、ボフンと音がした。
『サラ!』
白い煙を上げながら私の契約霊獣であるフロンが現れる。
大きな体を瞬時に小さくさせて、私に飛びつくフロンは何故かレルリラを足で蹴ったように見えた気がした。
気の所為かな?
「フロン!」
『もう式典は終わった?僕待ちくたびれたよ!』
頬を寄せるフロンに応えるよう私も頬を差し出そうとすると、大きな手ではばかれた。
その手の持ち主は「駄目だ」というと、私の肩に手をまわして引き寄せる。
ぎゅうと抱き締められた私は、顔を真っ赤に染めた。
『……サラは僕の契約者だよ』
「俺はサラの恋人で夫だ。例えお前が契約霊獣であったとしても俺以外にサラの唇を許すわけがないだろう」
『は!?なにそれ!?僕の目が黒いうちはサラを渡さないんだから!!』
「お前が何をいっても無駄だ。そもそもお前の意見なんて関係ない。一番はサラの気持ちなんだからな」
『僕にはサラを守るという使命があるんだ!!!』
あれ?フロンの契約者って私だよね?
そう思うくらいに会話が成立しているフロンとレルリラに、私はレルリラの胸元からレルリラを見上げた。
「…おかしいこといったか?」
しゅんっと眉尻を下げて不安げな表情をするレルリラに私はグッと込み上げる何かを感じる。
「う、ううん。おかしくはないけど……なんでフロンと会話が_」
”出来ているの?”と尋ねようとした時だった。
レルリラが扉に目線を向けると「はぁ」と息を吐き出した。
そして私を抱き締めたまま、互いの額を合わせる。
「サラ、返事はあまり遅くなってほしくない」
「え…?」
「今までずっと我慢してきたんだ。同じ気持ちだって知ってるのに、俺がこれ以上我慢できるわけがないだろ」
そういってレルリラは私から離れると扉に向かう。
私はドキドキしながらレルリラの後姿を見つめていた。
レルリラの言葉が、本気だとわかったからだ。
まるで宝石のように綺麗なレルリラの瞳が優しい眼差しで私を見つめていて、でもプロポーズに対しての返事をしていない不安からか、ゆらゆらと揺れ動く。
それでもレルリラの瞳の中には”男”を感じさせるような、強い意志と欲望を秘めているような炎も灯しているように見えた。
私の気持ちを知るなりボロボロと泣いていたレルリラは、今はこんな自信に満ち溢れている。
___なんだか、ずるい。
私ばかり動揺しているみたいで、なんだか悔しかった。
『サラ?』
フロンは私の名前を呼びながら、私を見上げた。
私は扉に手を伸ばすレルリラに駆け寄り、”言い逃げして部屋を出ようとする”レルリラの腕を掴んで体ごと引き寄せる。
女性よりも整っているんじゃないかと思われるほどに綺麗なレルリラの顔に、私は唇をくっつけてこう言った。
「私もレルリラが好き!だから結婚しよう!」
色気も何も感じさせない私の返事に、レルリラはきょとんと目を瞬かせるとすぐに嬉しそうに微笑んだ。
そして私のことを抱き締めるものだから、レルリラの背後、つまり開けられた扉の先にいたレルリラ家の人たちの姿を見て私は顔を青ざめる。
あらぁと微笑まし気に私とレルリラを見るレルリラのお兄さん達の存在を絶対知っている筈なのに、レルリラは私から離れることもなくこう囁いた。
「この先もずっと愛し続けると誓う」
柔らかいその声色に、放してという言葉は口から出ることなく、私はただじっと顔を真っ赤に染め上げてレルリラに抱き締められたまま、微動だにしなかった。いや、出来なかった。
■
国外への自由を許されたサラ・ハールはあれから一度も国境を超えることはなかった。
冒険者として自由に活動するよりも、まず先に優先することがあったからだ。
明らかになった他国の存在に奮闘する第一王子と第二王子、そして聖女の代わりに、瘴気を浄化する術を各領地へと伝えていく。
皆が脅かされず、そして平和に過ごすために、サラは冒険者としての自由よりも、聖水を作れる者の責務として手を上げたのだ。
そして時間が経ち、ギルドが決めたルールの撤回がされたのにもかかわらず、サラの隣にはレルリラの姿があったという。
END




