21 最後に互いの気持ちを③
私が言いかけた時レルリラが話した。
それはどういうことなんだと、私は言いかけた口を閉じてレルリラの話に集中する。
「初めてお前を見たとき、気になったことは事実だ。態度も言葉遣いもただの平民なはずなのに、何故かいつも気になった。なんで自分を嫌う人を気遣えるのか、なんでそこまで努力するのか、お前の、サラの考えがわからなかったから、やっぱりずっと見ていた」
「……」
え、なにそれ、と私は思った。
パチクリと開いた目でレルリラの表情を確認しようにも、ギュッと抱きしめられた状態では見ることもできない。
というか最初の頃一匹狼のようだったレルリラが、仲良くなかったときから私のことをずっと見ていたって言ってるの?
そういえば視線を感じて、でも見渡しても誰のものかわからなかった時があった。
もしかしてあの時から?
そう思ったらカァと顔が熱くなる。
「お前俺に言っただろう、魔法が楽しくないのに、なんでここにいるのか。って。ボロボロに泣いて、真剣に、まるで自分のことのように俺のことを考えてくれた。
前世の誰かじゃないし、そもそも俺はお前のことを親の目で見たこともない。
あの時の、今を生きるサラ自身の言葉に俺の心は動かされたんだ」
レルリラの言葉に、私は目を見開いた。
例え前世がきっかけであっても、レルリラが心を動かされたのは私自身なんだとわかったから。
「前世からの縁でお前と好き合うことが出来るのなら、俺はそれを嬉しく思う」
「っ!」
あぁ、そうか。
これがレルリラの考え方なんだ。
私は前世を知ったとき、レルリラが私を構うのは親だから、ううん、今は親じゃなくても前世が影響してるんだって考えてしまった。
だけどレルリラはそうじゃない。
前世からの縁が繋がっていても、それは私たちが関わるきっかけで、そこからの関係は今世での私達の行動の結果なんだと考えている。
私はどうしてレルリラのように考えられなかったのだろう。
私もレルリラのように考えることが出来ていれば、もっと気持ちを楽に出来たかもしれない。
(…そうだよ、レルリラは私の師匠でもあったじゃん)
わからないところがあれば聞いて、いや、聞かなくても耳にしたレルリラがすかさず答えてくれていた。
今回のことだって、もっと早くレルリラに話していれば自分の変な偏った考えだけじゃなくて、色んな面から見て考えることができたはずだ。
(…あ、そのときは私まだ平民だったよね)
そうは思ったが、それでも気持ちを伝えてなくても聞ける内容だ。
眞子さんにも人それぞれ違う考えを持っているって言われてたんだから、怖がらずに話せばよかった。
「……笑ってるのか?」
「うん、…変に考えないでもっと早くレルリラに話せばよかったって思うとバカらしく思えてきたの」
「ならこれからは直ぐに話してくれ。俺も言いたいことがあればすぐに言う」
レルリラは体を離すと私の頬を包み込むように手を添えた。
「好きだ、サラ。お前のことがずっとずっと好きだった。これからもサラのことだけを想っていく。
だから俺と結婚してくれ」
嬉しそうに口角を上げて、微笑みながら告白するレルリラの顔面に私の心臓は忙しなく動き出す。
ただでさえ両思いになれて嬉しいのに、これ以上どうしたいんだコイツは。
「な、なにを急にっ」
「急じゃない。ずっと言いたかったんだ。
それに父上が言っていた。夫婦円満の秘けつは愛を伝え合うことだって。
だから…」
「ふ、夫婦円満って…」
そこまで言ってレルリラの言葉を思い出す。
レルリラに結婚してほしいと言われたことを。
いや、聞き逃してたわけじゃないけどね。
ただ気持ちが通じ合ったばかりで付き合ってもないし、それなのに結婚って思うとなんだか早い気がするんだ。
だけどレルリラは早く返事が欲しいみたい。
私が本当にレルリラを好きなんだと、気持ちがわかってニコニコしていたはずのレルリラの眉が少しだけ下がっている。
「……レルリラは、私で、いいの?」
「サラがいいんだ。サラじゃないと俺は幸せになれないから」
「私、爵位を貰ったけど男爵だよ…?」
「どんな身分の家柄でもただの子息令嬢より、爵位を賜ったサラのほうが凄いだろ」
その言葉に私は首を傾げた。
「そういうものなの?」
「そういうもんだ」
被せ気味に答えるレリルラは普段と違う様子でなんだか面白く、私は自然と口角が上がる。
「レルリラ、私…」




