20 最後に互いの気持ちを②
ボロボロと大粒の涙がレルリラの目から零れ落ちる。
私はギョッとすると、これ以上見せたくないのか、それとも他になにかあるのかぎゅっと抱きしめられた。
「……夢みたいだ…」
震える声で呟くレルリラに、私は不思議と涙が込み上げてくる。
レルリラと同じように心からの喜びで、嬉しく思っているからだ。
「…夢、じゃないよな…?」
レルリラは抱きしめる腕にもっと力を入れると小さくそういった。
私はその言葉を聞いて「うん、嘘じゃないよ」といいながら頷く。
だけどレルリラは、心の中でまだきっと自問自答しているだろう。
その証拠になにも反応がない。
または私がレルリラのことを恋愛感情で好きだということが信じられてないのかもしれない。
だから本当はいうつもりなんてなかったことを私は話す。
「……怖くなっていたの、本当は」
「俺が、怖いのか」
「違う。レルリラが怖いんじゃない」
「ならなんだ…?」
レルリラの言葉に私はごくりと唾を飲み込んだ。
そして私はレルリラの言葉を聞きながら、レルリラの胸元に顔を埋める。
「………レルリラの傍に居続ける自信がなくなっていたの」
言葉を口にした瞬間レルリラの体が強張った。
だけど続きを促すようにレルリラは何も答えない。
「最初、レルリラが私を構うのは何でだろうと不思議に思ってた。ただ競い合う人が欲しかったのかなとか思ってて、それなら私は自分が強く成長できるのなら、レルリラの懇意を利用しようと受け入れてた。
それで強くなって成長して、これでも私レルリラには感謝してるから、だから今度はレルリラに恩返しをしようと思ってた。私はレルリラの友達だから、今まで受けてきた恩を絶対返すって」
私はここで一度口を閉じた。
レルリラも卒業してからずっと鍛錬を続けているのか、見た目以上にがっしりしている体に私はそっと腕を回した。
「でも王女様をエスコートしたレルリラをみて、胸が苦しいぐらい痛んだ。嫌だっておもったの。レルリラが自分以外の人と一緒にいることが。…それで私は初めて自分の気持ちに気付いた。
でも私は平民で、レルリラの友達だからこれ以上の関係になんてなれないって、だからレルリラのこと好きだってわかっても、言うつもりなんてなかった。
それにレルリラだって公爵家の息子だから、もう将来を約束した人もいるって考えた。だって周りが結婚間近だって言ってたんだから」
「俺は」
「うん。レルリラは婚約なんてしてなかったんだよね。
それでもあの時は私そう思ってた。レルリラに聞くのが怖かったから本当かどうかも確かめなかった。
それよりも私はレルリラと約束してるんだからって、手伝わないといけないって、側にいる為の理由づくりを勝手にしてた。
だけど考えてたんだ。友達として傍にいたいって思う反面、このままいちゃだめだって」
ドキドキとレルリラの心臓の音が聞こえて、私は目をつぶる。
もしかしたら私の音も混じっているかもしれないと少しだけ思いながら私は話を続けた。
「そんなときユミの記憶を見た。私の前世であるユミには血の繋がらない父親がいて、私はその人の生まれ変わりがレルリラなんだって直感でわかった」
レルリラにとっては初耳だろう、小さくだったが驚いた声が漏れる。
「レルリラが私を気にかけてくれたのは……前世が私の父親だったから。そう……考えたら凄く辻褄があった。
最初から私はレルリラとは一緒になれない運命だったんだって納得したの。
なら私はやっぱり、ちゃんと親離れをしないといけないなって……」
そこまで言うとレルリラは抱きしめ合っていた体勢を、見つめ合う形へと変える。
「俺はお前の親じゃない。前世がサラの言う養父だったとしても、今の俺は違う」
「うん、知ってるし今は思ってないよ。眞子さんの話をきいて、それは私の勝手な考えだって気付かされたから。レルリラの考えは別にあるんじゃないかって思えることができたの」
レルリラは私の言葉を聞くと安心するかのように力を抜いた。
そして私は離れた距離を近づける。
「でも聞けなかった。王女様と婚約してるって思っていたから、だから聞けば私の気持ちを告白することになるんじゃないかって思ってた。
だって告白したら、レルリラから離れるきっかけになるんじゃないかって思ったから」
「離れるわけがないだろう」
「…うん」
ぎゅっと背中に回している腕の力を強めたレルリラに、私はくすりと笑う。
「……ねぇ、レルリラは」
「例え、前世の感情が影響したのだとしても、それはきっかけにすぎないと思う」
「…え?」




