18 恩賞式⑥
「エルフォンス・ニック・キュオーレ。聖女召喚を成功させたその実績は国を救ったものと判断し、恩賞を与える!
そなたには今後この国が更に発展できるよう外務大臣の任を与え、更に一つ要望を叶えよう!」
王様の言葉に周りでは戸惑いの声が溢れていた。
“外務大臣”という役職がどういうものなのかを知らなかったのだろうか、私は周りの声に耳を澄ませる。
あの王子に務まるのか?
もう何百年も亜人族との関係は冷戦状態だ。無理だろ。
わかっていないな。適当な役職に就かせて大人しくしてろってことだろう。
そんなことを口々に囁くように話す周りの声に、私は苛つきながらもどうやら他国の存在は明らかにしていないことをしった。
そもそもアルヴァルト殿下がつけた真実は話し合い通り王様以外初耳だったのだろう。なら無理もない。この世界ではキュオーレ王国がただ一つの国だと思われていたからだ。
そして亜人族である多種族とも長い間関係を断っていることから、貴族たちには外務大臣というのがただのお飾りの役職に見えているのだろう。
だけど私達は知っている。
結界がなくなり、他国との関りが今後必要となることを。
(まぁ、ガイムダイジンという言葉自体、私は初めて知ったんだけどね)
第二王子は他国の存在を知らないはずなのに、それでも動揺をみせることはせず、堂々とした態度で王様と向き合っていた。
「畏まりました。与えられた任を必ず全ういたします」
第二王子の答えに王様は満足げに頷いた。
「期待している。それでなにか叶えたい要望はあるか?」
王様の問いに第二王子は少しの沈黙をつくり
「聖女の自由を、望みます」
と答えた。
王様は第二王子の願いを聞いたあと、眉を顰める。
「自由、とはなんだ」
王様は第二王子に意味を問い、第二王子はそれに答えた。
「聖女としても役目は既に果たしております。今後は客人として扱って頂きたいと考えました」
「ほぉ…」
王様は楽し気に声を漏らす。
私は「エルフォンス殿下…」と呟く眞子さんの声を聞きながら、(やっぱり我儘王子じゃなかったんだ)と思っていた。
悪人だと思っていた人の事情を知ってしまうと、途端に悪く思えなくなる。
勿論中にはどうしようもない悪人もいるだろう。
だけど第二王子は前者の例だ。
長年優秀な兄と比べられ、正当な評価もしてもらえなかったからこそ、一人で努力するしかなく、他人への接し方もわからなくなった。悪い人だと誤解されてしまったのだ。
夢のせいもあるかもしれないが、私も第二王子のことを眞子さんを虐げる人物だと勝手に誤解してしまっていた。
声を荒げたことはあったかもしれない。
だけどそれには理由があった。
どうしようもなかった現状をなんとかしようと焦る気持ちは私にもわかる。
(後で謝ろう)
勝手に誤解してしまったこと、そして八つ当たり気味にパーティの時に浄化の力を使ったこと。
(……やっぱりやめておこうかな)
相手は王子だ。
もう私は平民ではなくなったといっても一代限りの貴族だ。立場だって低いままだと思う。
それに第二王子に向かって直接悪態をついたわけではないから、謝る必要はないよねと考えていると、王様が答えた。
「聖女の自由を思うそなたの願いは拒否する」
「な、何故ですか…」
第二王子は信じられないといったような表情で王様を見上げた。
私達もまさか拒否するだなんてと王様を見ていると、王様は咳ばらいをした後に訳を話す。
「…聖女の自由、それはエルフォンスの為のものではないだろう。私はお前の為の願いを聞きたいのだ」
「私の…為…?」
第二王子はまるでそんなことを言われる等考えてもいなかったかのように呆然と呟く。
「ああ、そうだ。……今までお前には辛い思いをさせて来た。
兄であるアルヴァルトを支え、共に国を率いてほしいという思いから、自身の力でアルヴァルトを越えて欲しいと、アルヴァルトと同じくらい認められるようにと放置してきたが、フィオーナの言葉を聞いてそれではだめだと気付かされた。
エルフォンス、お前は私の自慢の息子だ。そんなお前の為に出来る限りのことを叶えてやりたい。だから他人の為にではなく、自分自身の事の為に願って欲しいのだ」
王様は第二王子に手を伸ばし頭を撫でる。
よしよしと、大人が子供にするような優しい仕草で王様は第二王子を撫でていた。
その様子を見た周りの貴族たちはもうこそこそと話すことはない。
出来ないといったほうがいいだろう。
今迄なにをいっても大丈夫だと考えていただろうが、目の前で王様に可愛がられている第二王子を見れば、もう悪くいえる度胸はなくなるっていうものだ。
ボロボロと涙を流す第二王子に、王様は大きな体で第二王子を抱きしめた。
頭を撫でていた手はポンポンとあやす様に背中を叩く。
「…いつでもいい。お前の望みを待っているぞ」
王様はちらりと後ろに視線を送ると、気付いた司会進行役で側近の男性は式典の終わりを告げた。
それでも誰一人出ていこうとはしない中で、王妃様が立ち上がり壇上から降りると第二王子のそばに立つ。
「…私達の教育方針が間違っていたわ」
「本当よ!なんでもかんでもアルお兄様はっていって、エルお兄様を褒めようとはしなかったのが悪いと、わざわざ教えないと気付かないんだから!
お父様や王妃様がそんな態度だったから他の貴族たちもエルお兄様を見下すのよ!聖女様を召喚したときだってそう!口では褒め称えても、裏では本当に聖女か?髪を染めただけではないかって疑ってばかり!こうなったのは全部エルお兄様を蔑ろにしてきたお父様たちのせいなのよ!」
「本当にお前の言う通りだ」
「わるかったと思うわ…」
王女様は反省の色を見せる二人に鼻を鳴らすと、第二王子を王様から奪い取る。
「お兄様!これからは私が傍にいるからね!」
第二王子ににこやかな笑みを浮かべる王女様をみて、私はレルリラに耳打ちした。
「……あんたも大変ね」
「なにがだ」
「お兄ちゃん大好きな女性と結婚することがよ」
レルリラは「は?」といって眉間に皺を寄せた。
意味が分かっていないのか、求めるようにじっと見つめるレルリラに私が溜息をついたところで、第二王子が近付いていることに気付く。




