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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
冒険者編③
248/253

17 恩賞式⑤ ※視点変更有





「やめて!」


叫ぶ高い声と、私の手を引く存在にその場に留まる。

第二王子と同じ場所に座っていた王女様は席を立ちあがり、今にでも泣き出しそうな表情を浮かべていた。

アルヴァルト殿下は苦笑し、第二王子は何がといった感じに驚いている。

そして王様も王妃様も王女の行動に驚いている様子は見せても、止める様子はなさそうだ。それどころかどこかホッとしているような様子を見せていることに私は首を傾げる。


「お兄様をこれ以上悪く言わないで!!」


そういって第二王子の前に立ち、両手を広げて守るような恰好をしたのは、レルリラの結婚相手といわれている第二王女であるフィオーナ・ロッテ・キュオーレ様だ。

私は思わずレルリラを見上げる。

レルリラは王女ではなく私をじっと見ていて、口には出してはいないが私が行く必要はないとでも思っていそうな表情を浮かべていた。

王女様の邪魔をするな、ということなのだろうか。

なんにしても今こそこそと話をすると変な誤解を招かれないので、私は踏み出そうとしていた足を戻し、寧ろ一歩下がって王女様達を眺めると、レルリラが手を放す。

私が駆け寄り、王女の邪魔をすることはないと判断したのだろう。


「いつもいつも勝手なことばかり!!!そりゃあアルお兄様は優秀よ!でも同じ位エルお兄様だって優秀なの!

学園の成績だって常にトップで!魔法も剣も凄くて!聖女召喚だってそうよ!

神殿がいつまでも召喚出来なかったからお兄様が手伝ったの!聖女召喚は不要だった!?そんなわけないじゃない!

アルお兄様が聖女の力を借りて結界の存在も、大昔の聖女の事も、聖水のことだってわかったっていっていたじゃない!

全てはエルお兄様が聖女を召喚出来たからわかったことなのよ!結果ばかりを評価して、根本を顧みないなんてどうかしているわ!!!」


フーフーと、まるで威嚇する時のフロンの様に息を荒げて唸るしぐさをとる王女様は、キッと鋭い眼差しのまま私を指さした。


「そこの貴方!さっき前に出ようとしていたけど、私の言っていることは違う!?」


突然の事に私は驚いたが、すぐにふるふると首を振る。


「いいえ。違いません。瘴気の原因も魂の行方も、聖女様の日記も……全てエルフォンス殿下が召喚した聖女眞子様がいなければ解決しませんでした。

聖女召喚の廃止は、問題なく国民が聖水を作り出すことを確認出来てから検討されることであり、エルフォンス殿下と聖女眞子様の功績を覆そうという意図はないと考えております」


頭を軽く下げながら発言すると、王女様は腕を組んで満足そうに頷いた。


「なら聖女様はどう思うの!?」


「…え!…私は……、知らない世界にいきなり召喚され、浄化というよくわからない力を出来るようになれと言われても正直困りました。

エルフォンス殿下にはあまりいい思い出はありませんが、それでも今思い返してみると殿下はいつもどこか焦っておりました。

私が浄化が出来ないと知った後は、いつも目の下に大きな隈を作っていたことは知っていました。当時は殿下の事をよく知らず、逃げたいとばかり思っていましたが、……あとになってアルヴァルト殿下より私が力を使えるようずっと調べていたと気付かされました。

人にも自分にも厳しい方であり、そして決して弱いところを見せない方だと、今では思っています」


「つまり!?」


「え!?つ、つまり!?、…え、…えっと……エルフォンス殿下のお陰で素敵なお友達が出来ました!!」


「ほらね!今代聖女様だってお兄様に感謝しているわ!エルお兄様のやったことは正しい事だったのよ!

つまり…」


王女様は言葉を区切ると体全身を王様たちが座っている真後ろに振り向いた。


「恩賞はアルお兄様だけではなくて、エルお兄様にも行われるべきよ!!」


そして声高々に告げると、王様は声を上げて笑い出す。

謁見室に響く大きな笑い声に自信満々だった王女様もきょとんとした表情を浮かべていた。


「確かにそうだ。余としたことが最初に功績を上げた人物に褒美をあげわすれていたとは……感謝するぞ」


王様はそう言うと階段を降り歩を進める。

パチパチと目を瞬かせる第二王子の前まで来るとニッと口角を上げて口を開いた。


■視点変更■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


どうして自分はこうなのだろう。


第二王子であり、アルヴァルトの弟として生まれたエルフォンスは今絶望に近い気持ちを抱いた。


エルフォンスが好意を寄せていた女性が、兄アルヴァルトの婚約者候補であることを知ったエルフォンスは、どうにかして邪魔をしようと聖女召喚に携わる許可を貰った。

無事聖女を召喚し、聖女の役目を果たさせ、そして王位に就くアルフォンスの婚約者として育てれば、アデラインは自分の元に来るとエルフォンスは考えていたのだ。


だが想定よりも早い段階でそれは崩れた。

聖女なのにも関わらず、聖女ができる唯一ともいえる浄化の力すら使えない役立たず。

何故力を使えないのか、使う為にはどうすればいいのか、エルフォンスは必死で調べた。

だが調べても調べても成果はなく、それどころか賞賛していた筈の貴族たちはエルフォンスを責めるようになっていた。


エルフォンスは次第に疲れ始めた。

いつものことだと受け入れるようになっていたのだ。

結局アデラインだってアルヴァルトがいいのだろうと、だから婚約者候補の立場であったとしても受け入れている。

つまりアデラインも他の女性と何ら変わらなかったのだ。


唯一自分をみてくれたと思っていたが、それも幻想だったのだと気付いたエルフォンスは、捲っていた本を静かに閉じた。


もうやめよう……。

意味のないことをするのは。


疲れ果てたエルフォンスは、アデラインとアルヴァルトの仲を裂こうとしていた心はいつの間にかなくなっていた。

そんなことよりも自分に向けられる非難の眼差しを、どうにかしなければと考える方に思考を切り替えていた。

そんな時役立たずの聖女を手放せ、そして非難の眼差しを別の存在に向けられる機会が訪れた。

なんでもできる兄。

将来有望な王太子であるアルヴァルトに、全てを押し付ければいいと、聖女を手放した。


あの聖女が役に立つことはない。

なにか出来たとしても、アルヴァルトは自分の名を広めないと約束した。


アルヴァルトが名を広めないのなら、これ以上自分が惨めな気持ちにならないと考えた。


だが現実はどうだ。


何もできないと思っていた聖女はしっかりと役目を果たしたという。

そして堂々と盛大なパレードを行い、恩賞を貰うというではないか。


エルフォンスは憤慨する。

何故約束を守らない、と。

授与式前にみせられたアルヴァルトの報告内容も、とってつけたかのような報告内容に苛立ちが募った。

こんなもので功績が認められるのか、と、頑張ってきた自分は認めず、アルヴァルトならどんな報告内容でも褒美が与えられるのかと、エルフォンスは思った。


だからこそ式の邪魔をした。

真実を話すように求めた。


だが、話された内容は信じられないものだった。


自分の為に行った聖女召喚は、次第に国を救いたいという気持ちへと変わったが、それでも結局エルフォンスは逃げ出した。

昔召喚された聖女たちが虐げられていた事実を裏付けるように提出された聖女の日記。

決して虐げようと思ったわけではない。

だが人権を無視するように召喚し、浄化の力を強要、そして兄との結婚を企てようとした。

本人は兄との結婚を望まず、自由を求めていたというのに。


アルヴァルトの話を聞いて、自分も、聖女を虐げていた過去を繰り返していたのではないかと気付いたのだ。


どうして、自分はこうなのだろうか。

兄とは比べ物にならない劣等ぶりに心が痛んだ。

情けない自分に痛んだ心が張り裂けそうになっていた。

それでも枯れた目からはもう涙は出ない。

子供の頃、十分に泣いたからだ。


あぁ、まただ。


また自分の出来なさぶりを実感してしまう。

なにをしても兄より劣る自分が嫌になった。


だがもうどうすることもできない。

恩賞式を邪魔するように乱入した自分を、どう庇っても逃げ出すことができないからだ。


そんな時だ。


まるで自分を守るかのように小さな存在が両手を広げながらエルフォンスの前に立った。

途中声が裏返りながらも、それでも張り上げる声にエルフォンスは夢中になって聞いていた。


自分を見ていたという声。

自分を認めてくれた声。

自分を求めている声。


枯れていた筈の目からはいつの間にか涙が溢れる。


小さな存在は自分の妹であるフィオーナだった。


フィオーナは功績を上げたことで表彰された二人を指さした。

決して言わされているとか、そういうものではないとはっきりわかる態度と言葉に、エルフォンスは心動かされる。


アデライン・ライズだけじゃないじゃないか。

自分をちゃんと見てくれる存在はちゃんといて、しかも他にもいたのだと、エルフォンスは初めて知る。


そして振り返った妹は小さく呟く。


(大丈夫ですわ。これからは大人になった私がお兄様の凄さを皆に広めてあげますから)


自信溢れた眼差しで微笑んだフィオーナ。

エルフォンスはそんな妹の言葉を聞くと、唇をキュッと結んだ。


嬉しくてちゃんと口角を上げて笑いたいのに、油断すると涙が溢れてどうしようもなかったのだ。

それでもフィオーナはそんなエルフォンスの心もわかっているように歯を見せて笑みを浮かべる。


(しっかりしろエルフォンス!)


とっくに大人になった自分が、最近大人になった子供に守られていいのかと、そうではないだろうと自分を叱咤した。


そして振り向く。

大きな口を開けて笑い声をあげている自分の父親であり、この国の頂点に立つ存在を。


エルフォンスは光が宿った眼差しで見つめた。



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