15 恩賞式③
第二王子はアルヴァルト殿下の言葉に一度王様を振り向き、そして再びアルヴァルト殿下に視線を戻した。
「先に告げておこう。我が国に張られていた結果は聖女によるものではなかった」
「…ッ!やはり_」
「この国に張られていた結界は、一人の人間を愛した魔物によるものだったのだ」
第二王子の言葉を遮る形で告げられたアルヴァルト殿下の言葉に戸惑いの声が上がる。
魔物の結界だって!?
いったいいつから張られていたのだ…!?
だから我々人間の魔法に干渉していたのか!
それよりも人間を愛する魔物とはどういうことだ
それが事実ならば結界を何故張ったのか…さっぱりだ
小さく呟かれる声は次第に大きくなり、謁見室にざわざわと話し声が響く。
流石にうるさいと思った時、王様がパチンと指を鳴らした。
魔法でも使ったのか、皆の声をかき消す程の大きな音に、騒めく貴族たちはハッとした様子で口を閉ざす。
アルヴァルト殿下は静まるのを待っていたかのように話を続けた。
「結界は遥か昔、まだ国として機能していない時代に張られたものだ。
当時、魔物と一人の人間の女性は愛し合っていた。だがそれを危険視した人間の手によって女性は殺された。
愛する女性を殺された魔物は、女性を殺した人間たちを恨み、そして当時も危険視していた瘴気の魔物から人間が逃げられることがないように結界をはったのだ」
どうやらアルヴァルト殿下は事実をそのまま話すことはしなかった。
とはいえまるっきり嘘ではない。
時間の差はあっても幸せそうな眼差しで互いを見つめ合っていた二人の姿を私は知っているからだ。
「だが我々の先祖たちはその結果に気付くことが出来ないながらも、瘴気の魔物を倒す術を見つけた。
それが聖女の存在だ。そして聖女を召喚し、絶滅を免れてきた」
アルヴァルト殿下は一度口を閉ざすと大きく息を吸った。
「ここで瘴気の魔物に関する正しい情報を私たちは知ることが出来た。
人間も動物も魔物も、この世界における魂を持つすべての生物は命の灯火が消えた後、神の元へと送られ、次の生を与えられると言われていることを誰も知っているだろう。
だが、今回の調査によってそれが覆されたことが分かったのだ」
ごくりと息を飲む音が聞こえた。
それが第二王子のものなのか、それとも近くにいる騎士か、はたまた周りにいる貴族の者かはわからない。
だけど、アルヴァルト殿下の話を邪魔することは誰もしなかった。
何を言うのかと誰もがアルヴァルト殿下の言葉を待っていた。
「悪しき者の魂。それを魔物が取り込み、力を付ける原因だったのだ」
「ふざけないでください!!!」
アルヴァルト殿下の言葉に第二王子が声を荒げる。
だがアルヴァルト殿下は予想していたのかたじろぐこともなく、冷静さを保ったまま話を続けた。
「ふざけてないいていないさ」
「ふざけていないのなら馬鹿にしているんですか!?いくら私が兄上より劣っていても、常識くらい知っていますよ!」
「その常識が違っていたのなら、正すもの王族の役目だろう。
考えてみてくれ、何故元々浄化できる我が国の人間が、わざわざ異界の地から聖女として人間を召喚しているんだ」
「…それは……先ほど兄上がいっていたではありませんか。魔物の結界により浄化の力を塞がれたから、浄化が出来る人間を呼んだのでしょう?」
アルヴァルト殿下の言葉を完全に受け入れていないにしても、問われた言葉に第二王子はアルヴァルト殿下の話したセリフを答える。
アルヴァルトは少しだけ第二王子から距離を取った。
「それははたして真実なのかを判断するために私は聖女召喚の魔法陣をみさせてもらった。
一部を伏せた状態でとなるが、実際に用いられている聖女召喚の魔方陣を見てもらおう」
アルヴァルト殿下は陛下の傍にいた側近に目を配ると、聖女召喚の魔方陣を王子たちの間に、それも誰もが見れるように大きく空間に描いた。
描かれた魔方陣は特定の特徴を持つ人物を召喚する為の条件が描かれていた。
条件には、神がもつ同様の能力を持っている人物と書かれていた。
勿論私には神の持つ力というのはどのようなことを差しているのかわからない。
だけど、その条件に当てはまる存在として眞子さんが召喚された事実だけは確かだ。
私はここで心から自分が聖女ではないのだと確信することが出来た。
今までずっと疑っていた為に、初めて聖女召喚の魔方陣をみて安堵する。
「“神がもつ同様の力”という表現は曖昧だ。これだけではどんな能力を指しているのかが判断できない為、昔の文献に書かれていた魔方陣を見て貰おう」
そして次に写し出された魔方陣は意図的に隠されてはいなかったが、ところどころ穴があるのような魔方陣だった。
古いからか、歯抜けのようになっていた。
だけど条件の部分はかろうじて見える箇所がある。
そこには“見えざるものを見る力”と書かれていた。




