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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
冒険者編③
243/253

12 聖女の存在②







「サラ・ハール、まず初めに君が聖女かどうかは問題ではないことを伝えておこう」


アルヴァルト殿下はそう言った。

私は首を傾げて殿下をじっと眺めることしかできなかった。

それほどこの国は聖女を必要としている。

聖女であってもなくても、眞子さんが召喚された事実が、聖女を強く求めている証拠だ。

だからこそ、聖女かどうか問題ないとはどういうことかと、私はジッとアルヴァルト殿下を見つめてしまう。

だってもっと早くそういう考えに至ったのならば眞子さんは召喚されていないから。


「まず一つ、先程ヴェルナスが話した瘴気の浄化には聖女でなくてもよいという結論という推測が正しければ、歴代の聖女たち、そして眞子嬢には謝りきれぬが、それでもこれ以上国が脅威になるようなことにはないと考えている。勿論きちんとした検証後に判断するべきことだが、推測通りならば今後も聖女が必要になることはない」


だが聖女召喚については私の意見だけではどうにもできないが、とアルヴァルト殿下は言った。

確かにレルリラの話があっていれば、今後異世界の人が聖女様として呼び出されることはないだろう。

後は王様が許可してくれれば…と願いながら、それでももう聖女として召喚された眞子さんが苦しむことはないだろうと考える。

私はひとまず安堵しながらも、続けて話すアルヴァルト殿下に目を向ける。


「次に聖女召喚で呼ばれた者は君ではなく、山田眞子嬢だからだ」


アルヴァルト殿下は言った。

聖女召喚の魔法陣には、瘴気の魔物討伐の為に必要な力を保有している者を召喚しているのだと。

それがどんな召喚内容なのかは魔法陣を見たことがない私にはわからないけど、確かに召喚魔法で召喚されてなかった私が聖女なわけがないと思いなおす。

それでも疑惑は晴れないが。

でももし私が聖女だったのならば、眞子さんはどうなるのだろうと考えると、私が聖女であることなんて議題はそもそもなくしてしまったほうがいいとも思えてきた。


ちらりと眞子さんに目を向けると、眞子さんは私を真剣に見つめ、にこりと微笑んだ。

安心して、と告げているかのような眞子さんに私は口をつぐむ。


もしかして眞子さんは全部わかってて…?

そもそもこの部屋にいる人たちは真実をすでに知っていたのか。

いくら聖水を作れるからといっても、平民の一介の冒険者を調査メンバーに加えたりしないだろう。今更ながらだがそう思う。

私は私の隣に座るレルリラをみあげると、レルリラは目を逸らした。

そこで私はレルリラが嘘をついたのだと知る。

私が聖女ではないと、断言したあの時だ。

こいつ……とは思いながらも、あの時は聖女だったらどうしようと不安に思っていた。冒険者活動はどうなるのかって、そう思っていた。

だからこそ責められない。


「最後に”聖女は必要ではない”、と魔物が告げたその言葉を私は、この国の将来のための言葉として受け止めているんだ」








あれから私達は一時の休息を貰えた。

…わけではなく、とても目まぐるしい日々を過ごしていた。


まず検証の場が設けられた。

話し合った後、今後の方針について決めるためには、必要なこととしてレルリラの推測を確かめなければならないからだ。


すでに外はどっぷりと日が落ち暗くなってはいたが、それでも時間が足りないということで寝る間も惜しんで再び魔法研究所に向かったが、瘴気の魔物の数が足りず、私たちは墓地へと向かう。

なぜ森ではなく墓地なのかというと、眞子さんには亡くなった人の魂がみえるということがわかったためだ。

瘴気の黒いもやが魔物に取り込まれた魂の色だとしたら、瘴気の魔物を探さなくとも人の魂を探せばいいのではないかということになり、墓地へと向かったのである。


そこで私はなんとも居心地の悪い、肌にチクチクと刺さるような気持ち悪い空気を感じた。

目にはなにも見えないはずなのに、何かがあると感じていたのだ。

眞子さんはビクビクと怯えながらも、私たちを案内する。

彼女の目にはなにがみえているのか、レルリラのお兄さんの腕を掴む眞子さんの手はガタガタと震えていた。

それでも初めてきた場所とは思えないほど迷わず向かう彼女は立ち止まり指をさす。

良くない魂があると告げた眞子さん。

人は同じようなタイプの元に集まるというが、魂となってもそれは変わらないらしい。

眞子さんは複数体いると告げ、私はその場所に少量の聖水を生み出した。

するとキラキラと何かに反応した聖水は眩い輝きを見せる。

眞子さんは「消えた…」と呟いて、私は問題なく浄化できたことを知った。

その後はレルリラのお兄さん、アルヴァルト殿下と続き、皆が浄化できた事を確かめた。

勿論瘴気の魔物に効果があるかは分からないが、それでも魂を浄化できたことが知れたことで次の行動に移れることと判断する。


まず私は一冒険者として、聖水を生み出せるという力から瘴気の魔物討伐に参戦したことを明らかにすることを告げられた。

瘴気を浄化できる者が二人いることから、魔国の森では二手に分かれ行動した。

その結果国全体に張られた結界に気付き、結界の解除に努めたこと。その結界が私達の魔法に干渉していることも含め明らかにするが、洞窟の教会で出会った魔物の存在については伏せることを決めた。

今まで魔物が張った結界に気付かなかったことが明らかになれば、国の頂点に立つ王様の尊厳にかかわるからだ。

ではその結界は何のものだったのかという説明が求められるだろう。

事実と異なることになるが、初代聖女様が民を守るものとして張った結界だということ、死の間際だった為に詳細が伏せられていたことにすると決めた。


次に聖女である眞子さんのことだ。

浄化の力は使えるが、その力は不安定なものだと決めた。

はっきり使えないと言ってしまえば、パーティーの際に見せた浄化は誰のものかと疑われ、顔が似ている私に飛び火するからだ。

平民の私が王族、そして貴族たちを騙したこと。

また浄化の条件が本当に“努力する心”であるのなら、国を救うために召喚された眞子さんに使えないはずがないと反感が生まれないようにするためだ。

勝手に呼んでおいて、しかも魔法の力もない人に何を言っているのかと思うが、言いたいことを適当に口にする人たちにはそんな常識は伝わらない。

だから浄化の力の条件も伏せることで、眞子さんに力はあるがそれを確かめる場を与えられても言い訳ができるように決めたのだ。

だが眞子さんには瘴気の元になる源が見えるということを発表することに決めた。

これも結界の影響で以前はあまり見えていなかったが、結界がなくなったことで見えるようになったこと。

そして聖女の子孫だけではなく、普通の人にも対応が可能ということが判明したのだと、眞子さんの力によってわかったことと決める。


『……いいのですか?手柄を横取りして』


眞子さんがレルリラに話しかけた。


『構いませんよ。貴方には聖女としてい続けて貰うつもりですから』


でしょう?とレルリラがアルヴァルト殿下に尋ねると、殿下は『そうだな』と告げる。

聖女じゃなくても瘴気を浄化できるというのに何故?と首を傾げるとレルリラが答えた。


『平民の魔力コントロールが弱いからだ。例え能力があるとしても属性魔法と治癒魔法、両方を同時に発動しなければ浄化はできない』


『……あぁ、教育水準を上げる必要があるってことね』


私は納得した。

確かに平民の魔力値は低い。それを補うために物理攻撃の術を持っているけど、魔力値を上げようとする人は少ないんじゃないかと思うほどだ。

浄化できる条件に当てはまったとしても、環境を整えなければ結局聖女が必要だという声が上がってしまう。

だから眞子さんにはまだまだ聖女として居続けてもらうために功績を積んでもらわなければいけない。

それも浄化とは違う功績を。





視点変更



■視点変更


ひとまずの検証が済んだところで時間を確認すると、既に日付を跨いで三時間が経っていた。

もう暫くすると朝日が拝めるという時間帯ということもあり、流石に疲れが見え始めているサラと眞子に先に帰宅を促すと、二人は安堵した様子で退出する。

その二人の後姿、というよりも一人の女性を名残惜しそうに見つめるヴェルナスに気付いたラルクはくすりと笑った。


「お前も帰っていいんだぞ?」


揶揄うように告げるラルクにヴェルナスは首を振り「いいえ」と答える。


検証したのは瘴気の浄化と瘴気になりうる魂の浄化だけだ。

とはいえ始めるのが遅かった。

魔国の森から帰ったその足で魔法研究所に向かい、実際にサラ以外の人物でも瘴気を浄化できたことを確認したのだ。

そして場所を変え、亡くなった者の魂を見ることが出来るという眞子の力を借りて、瘴気と化していない魂も浄化できるのかを確認した。

結果その場にいた者限定とはなるがそれでも浄化、いや眞子の言葉で言うと成仏させてやることが出来たことを確認した。

だがこの世に未練が強い霊には何度か試さないと成仏させてやることが出来ない事もわかったが。


それでも問題なく浄化できるということがわかった今、聖女の必要性もなくなるといえた。

魂の存在が目に見えなくとも、死者を弔う際聖水を用いることで恒久対策にもなるだろう。

聖水の作り方を公開することによって神殿からの批判が上がりそうだが、それに関しては神殿と話を詰めればいい。


浄化することが出来ない眞子を魔物が多く潜む魔国の森へ連れていくことも、本当の聖女と考えられているサラを公表しなければならなくなる可能性もなくなるだろう。


だがそれだけでは不十分だとヴェルナスは考えていた。

自分が聖女だったのではないかと確信を持ち始めるサラに、余計な気持ちを抱かせない為にも、様々な事にも目を向けていかなくてはならない。


”元々聖女はいなかった”と告げた言葉の意味を、ヴェルナスはずっと考えていた。


瘴気を浄化できるとされる聖水を作れるのは聖女か、もしくは聖女の子孫だけ。

ヴェルナスはサラには誤魔化したが、聖女の子孫は厳重に調べられるために漏れることなどあり得ないということを知っていた。

王家の陰が何代にも渡って聖女の血を引く人物を監視していたからだ。

その為サラは聖女の子孫ではないことは確実だった。

だからこそ、もう一つの可能性である聖女の可能性を考えながら、口ではずっと誤魔化し続けていた。

お前は聖女ではないと、サラに思い込ませるために。

そんな時に言われたあの言葉をヴェルナスはずっと考えていた。


(聖女は、いなかった)


ヴェルナスは考える。

ヴェルナスもラルクも浄化が出来るようになったとはいえ、サラの様にキラキラと輝く聖水は作ることは出来なかった。

これが同じように作れたのであったのならば、魔物との関わりのある女性の生まれ変わりとして、結界の効果が十分ではなかったからこそ聖水を作ることが出来たという理由さえあればよかったのだが、そういうわけにもいかなかった。

どれもこれもサラが特別であると告げているように、他とは少しずつ違ってくる。

聖女が今後必要となる未来は低いにもかかわらず、ヴェルナスはもっと確実にサラが聖女ではないという事実が欲しかった。


そもそも聖女というのはなんなのか。

聖女と呼ばれる人物は一体いつの時代から存在していたのか。


ヴェルナスは前提を無くして考えた。


元々サラが聖女だと考えていた為に、サラの前世であり、そして魔物から愛されたあの女性を聖女の初代として考えていたが女性はヴェルナスに告げる。

”聖女なんて元々いなかった”と。

ならば、そもそもあの女性は聖女ではなかったのではないだろうか。

生まれ変わりが必ずしも聖女である可能性はないが、それでも生まれ変わりだという理由でサラが聖女だということはないだろう。


ではあの女性はなんなんだ。

何者だったというのか。


魔物に愛された人間の女性。

サラは人族を代表して、他の亜人族と共に魔物と戦っていたといっていた。

敵対していた筈の人間と魔物が恋に落ちる事なんてあるのかと思う一方で、当時人族には魔物との戦いが出来ていなかったのではないかと考える。

ヴェルナスは苦し紛れに話した”人類皆平等説”は意外にも当たっていたのではないかと考えた。

授けた力の種類は違っていたとしても、種族関係なく手を取り合い助け合わなければ生きていけない時代を考えると、人族から異端ともいえる存在が生れたことだって人類皆平等説は意外と信憑性があった。


皆を守りたいと本気で心から願っていたからこそ、人族の中からでも魔物と戦える力を持った少女が生れたのではないか。

それが事実なのだとしたら、サラは聖女ではない。

幼い頃助けてもらった冒険者に憧れて、自分もそんな冒険者になりたいと、他人に優しく寄り添う心を持ったただの一般人。

だから平民でも魔力が多かった。他人の為に力を欲したから。


だがそれでもサラだけが放つキラキラとした輝きには説明がつかなかった。


あれはいったい何なのかと考えながら、そもそも聖女とは何だと、振出しに戻った。

聖女という存在の意味がわかれば、例えサラだけがみせた魔法の残滓の意味だって聖女ではないものとして見えてくるのではないだろうか。

聖女を召喚するという魔方陣を見ることができれば…と、ヴェルナスはアルヴァルトに視線を向けた。


「殿下、聖女召喚の魔方陣を見せてください」


ヴェルナスの直球すぎる言葉にラルクは目を見開き、そしてアルヴァルトは笑った。

何が面白いのかとヴェルナスは首を傾げるが、それがまたアルヴァルトには面白かった。

神殿からアルヴァルトの名前を出しながら半ば脅すようにして聖水の作り方を聞きだしたとラルクから聞いていたアルヴァルトは、今度は魔方陣まで見せてもらおうとするのかと笑ってしまったのだ。


アルヴァルトは思った。

そこまで守りたいと、誰にも渡したくないと行動できるヴェルナスが羨ましいと。


アルヴァルトと婚約者候補であるアデライン●は政略結婚だ。

そもそも国を導く立場である者が愛だのなんだのということは優先されない。

時代錯誤な考えだろうが、それが権力を持ったものの務めだとアルヴァルトは考えていた。


そしてアデライン●もそれはわかっている様子だった。

懸命に王妃教育を学ぶ姿を見て、アルヴァルトに対する愛情は感じなくとも、立場に対する責任感は感じられた。

だからよかった。この者なら王妃でも側妃でも安心して任せられると。

顔を会わせても互いの話す内容が事務的であろうが、それでよかったとアルヴァルトは思っていた。


だが一人の女性の心を守ろうとし、そしてその女性を手に入れようとするヴェルナスのことをアルヴァルトは羨ましくなった。


(恋、か…)


アルヴァルトは口角を上げてヴェルナスを見る。


「いいだろう!だが見る以上徹底的に調べるぞ!」


魔法陣を見ることで何がどのように解決するのかなんてわからない。

もしかしたらなにもわからないまま終わるかもしれない。


だが今ここにいるメンバーには今迄の常識的な考えを覆すような、逆転の発想を持つことができるようになっただろう。

あり得ないと思われていた魔物と人間が心を交わすという事実、唯一のだった他国の存在、神の元へと向かうと信じられていた魂の考え方。

常識だったことが次々と覆された今、信じていた常識に捕らわれず、ありとあらゆる考え方を持つことで、本当の真実を見つけ出す力がきっと備わっている筈だ。


そして陽が昇り全ての確認が済んだ三人の表情は昇った太陽よりも明るく穏やかだった。


■視点変更終わり






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