8 恋バナ
私は全身の血が集まったのではないかというくらい、顔が熱くなるのを感じた。
わたわたと挙動不審気味になる私に、眞子さんは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「やっぱり!!」
やっぱり?やっぱりってなに!?
そもそも眞子さんと初めて会ったのって、私が殿下の依頼を受けた時でしょ!?
あの時はレルリラのこと好きじゃなかったというか、意識してなかったというか、とにかく恋愛感情としてレルリラをみていなかったのになんで!?
その後って言ったら魔国の森に向かうために話し合った時と、魔国の森に向かう時だけ。
どのタイミングで私がレルリラに恋心を持っているのがわかったっていうの!?
そんな私の心を知ってか知らずか、眞子さんはうんうんと頷いた後に、「告白はしないの?」と尋ねる。
その言葉を聞いた瞬間、あれ程熱かった顔が、いや全身が一気に冷えていくのを感じた。
「告白なんて、しないよ」
そう。絶対に私はレルリラに気持ちを伝えることはない。
それだけは自信持って言える。
「…眞子さんの世界でも一緒かわからないけど、初恋って実らないものなんだよ」
「…え?」
私の言葉に眞子さんは戸惑うような、そんな表情を浮かべるから、初恋が実らないと言われているのは私達の世界だけのことなんだろうと知る。
いいなぁと思いながらも、同じ人を好きになった場合はどうなるんだろうとも考えながら私は眞子さんに話す。
「…私とレルリラってね、最初は仲が良くなかったの。でもある授業をきっかけに仲良くなって、毎日のように一緒にトレーニングするようになった」
そう、あの頃は本当にわからなかった。
なんでレルリラが私を鍛えようとするのか、なんで私に構うのか。
最初は競い合えるライバルが欲しいのかなとか、初めての友達だからとか思っていたけど、そうじゃないことがわかったのだ。
「……レルリラにとって、私は娘のような存在だって気付いたの」
「え?え?どういうこと?」
眞子さんは首を傾げる。
そりゃあそうだ。眞子さんは私とレルリラの学生時代のことを知らないのだから、私が何をいっているのかわかるわけがない。
私は眞子さんに話した。
流石にレルリラの家庭事情は言えないから、それ以外で伝えられることを全て話す。
私は見たという魔物の記憶、そして殿下には伝えてなかったユミという少女の記憶のことも全てを話し終えるとふぅと息を吐き出した。
「サラちゃん、それは違うよ」
隣に座る眞子さんが私の手に重ねるように手を置いた。
白くて細くて、そして温かい手。
「サラちゃんはヴェルナス様にヴェルナス様の気持ちを聞いていないよね?前世がサラちゃんのお父さんだからといって、サラちゃんのことを娘の様に思う事なんてないよ」
「でも、私は_」
「勿論これは私の考え。サラちゃんの考えは違うよね。さっき話してくれたように、ヴェルナス様はサラちゃんを娘のように思っているからこそ、とても気に掛けてくれていると、そう考えている。
だけどさ、それはあくまでもサラちゃんの考えなんだよ。私の考えとサラちゃんの考えが違うように、ヴェルナス様にもヴェルナス様の考えがある。
だからね、サラちゃんはヴェルナス様とちゃんと話をした方がいいと思うんだ」
そういって眞子さんは柔らかく笑みを浮かべた。
沈んだ気持ちが浮上するような、荒れた心が浄化するかのような、そんな眞子さんの笑みに私は少しだけ泣きそうになってこくりと頷く。
いつ、どんな風に話せばいいのかも、今はまだわからない。
だって本人を目の前にして、そんな話をすることを想像しただけで、余計なことまで口に出してしまいそうだからだ。
だから話す時は私の気持ちが整理つく時。
それがいつになるかなんてわからないけど、眞子さんの言う通り話せる時がくればいいなと、そう思った。




