7 お友達
◆
で、なんで私は聖女様と二人っきりなのか。
いや、別にレルリラと二人がいいとかそういうことは思っていない。
でも一番付き合いが長い人と一緒ではなく、一番顔を会わせたことがない人と一緒だということが不思議なだけだ。
(しかもなんかお姉さんになってとか、よくわからないこといわれたし…)
いや、親しみを感じてもらっていることは嬉しいんだけどね。
私は窓の外をみた。
そういえば報告の際に結界には私とレルリラだけが通ることができたと伝えていたが、何故と不思議に思わなかったのかと疑問に思う。
記憶を見た私はユミの生まれ変わりで、ユミの父親の生まれ変わりであるレルリラだからこそ通ることができたと知っているが殿下たちはそうではない。
(聞き忘れてたとか?)
そんなことを考えていると、聖女様は「さっきはごめんなさい」と口にする。
「あ、いえ、…気にしないでください」
私がそう返すと聖女様は口を閉ざし、もじもじと何か言いたそうな様子で私を見た。
私はなんだろうと首を傾げながら、「どうかされたのですか?」と尋ねると、聖女様はこういった。
「私、自分と似ている人を見るの初めてで…、双子ってこういう感じなのかなと思ったらハールさんと仲良くなりたいなと思ったの…。
それで何か話しかけたいって思っていたら、あんな突拍子もない事を…」
恥ずかしそうに顔を赤らませて俯く聖女様を見て、不思議と似ている筈なのに可愛い人だなと思ってしまった。
あ、勿論可愛いと思ったのは私じゃなくて聖女様のことだからね。
「…私も、自分と似ている人初めて見ました。
でも、似ているのに自分じゃないって感じるの、なんだか不思議な感じですよね」
「うん!そうだよね!私もそう思う!」
聖女様はパッと顔を輝かせてニコニコと笑う。
あ、なんだか和やかな雰囲気…。
本当に友達と話しているような、そんな気持ちになった私は自然と口角を上げていた。
そしてこんなことを口にしていたのだ。
「あの、聖女様…、もしよろしければ私とお友達になっていただけませんか?」
私の言葉を聞いた聖女様は驚いたような表情を浮かべた後、嬉しそうに笑った。
「うん!」とこっちが嬉しくなりそうな笑顔で受け入れてくれた聖女様は、向かい側に座る私の隣に移動する。
そして少しの沈黙の後、なにかを決心したように顔を上げた。
「……あ、あのね、出来ればお互いに名前で、呼び合いたいの。敬称も敬語もなくて、フランクに…」
「え…」
思わず何を言われたのか理解できなかった私は固まった。
いや、理解は出来ている。
でも…、私が聖女様を呼び捨て?しかも敬語もなく?大丈夫なの?と思ってしまうのが普通でしょう。
私がまだレルリラみたいに高位貴族なら「じゃあ公じゃない場所なら」とか簡単に言えるけど、私は平民だ。
気軽にそんなことも言えない身分。というか聖女様にそんな態度とっていけないってことぐらい知っている。
だからこそなんて答えたらいいのかわからなくなったのだ。
「じゃ、じゃあ二人っきりの時はダメかな!?」
「えっと…」
「勿論もし誰か来たら敬称だってつけていい!寧ろ私が命令したっていうわ!だからお願い!!」
「……っ」
私は聖女様の強い願いにたじろいだ。
ここまで言われて断れる人がいるのだろうか。それも聖女様に。
そう思ったらもう断る言葉なんて出てこない。
「……二人の時なら、……いいよ」
思わず最後の方は声が小さくなってしまったけど、聖女様、いえ眞子…さんにはちゃんと聞こえたようで満面の笑みを浮かべて「ありがとう、サラちゃん!」といった。
サラ”ちゃん”。
今まで名前で呼ばれたことは多いけど、”ちゃん”付けで呼ぶ人はいなかったから、なんだかムズムズする。
「私のことは眞子って呼んでね!」
「……ちなみに何歳なの?」
「私?私は十八だよ!」
十八!同じくらいだとは思っていたけど、私の一つ上だったことに驚きながらもほっとした。
「じゃあ眞子さんだね」
「呼び捨てがいい!」
「だめ。眞子さん私より年上だもん。敬語はとってるんだから呼び方くらいはいいでしょ?様付けじゃないし、さん付けは年上には普通だよ」
「むぅ…。まぁいっか」
眞子さんは私の言葉に一度は納得がいかないような表情を浮かべていたが、すぐに考えを変えたのか笑みを浮かべた。
よかった。流石に年上だってこともわかったのに呼び捨てなんて出来ないもの。
私は馬車の窓から外を眺めた。
思った以上に速いスピードで駆ける馬車に、もしかしたら一日もかからずに王都に到着するのではないかと期待する。
しかも王城に行くわけなくて魔法研究所に向かうからね。
広大な土地を持つ魔法研究所で王都の端の方に建てられていることから、想像よりも早く着くだろう。
(まぁ、行きは転移魔法陣も使ったから一瞬だったけどね)
そういえば帰りは転移魔法陣を使わないのかなと考えていると、向かいの席からなんだかキラキラした視線を送られていることに気付く。
「……どうしたの?」
私は首を傾げて尋ねた。
まぁ一緒の馬車に乗っていて、これから友達にってなったら何かお話をしたいって思っても不思議ではない。
寧ろそれが普通だ。
放置してごめんねっていう気持ちになりながら、それでもなんでそんなにキラキラした目を向けているんだろうと思いながら尋ねると、眞子さんは本当に唐突な言葉を口にした。
「あのね!唐突なんだけどサラちゃんってヴェルナス様のことが好きなの!?」




