5 合流
◆
私とレルリラは魔国の森を抜けた。
それでも気を緩めることは出来ない。
スピードに自信のある魔物が森を抜けても私たちの後を追ってきているからだ。
この状態で王子たちとの合流なんで出来ないから、私とレルリラは森を出たところで魔物と戦うために振り返る。
魔国の森の時とは違い、レルリラは風属性の魔法で応戦していた。
まぁそれもそうか。一応離れているとはいえ町があるから、もし火事になって森から出てきた魔物たちが町へと向かったら大変だ。
それこそ大きな災害となって、王子だけではなく聖女様も避難されてしまうだろう。
例え原因が私達であったとしても、瘴気の魔物退治という名目で魔国の森へと向かったのだから、ここでなにかあれば王子と聖女様の所為にされてしまう。
「サラ」
「なに!?」
私の名を呼ぶレルリラに、私は魔物から目を逸らすことなく返事をする。
なにか策でもあるのかと魔物の攻撃を避けているとレルリラは言った。
「どれぐらい粘度がある水を出せる?」
「粘度…?」
私は思わず首を傾げたが、すぐに飛び交う魔物を見て閃いた。
粘度を含んだ水でうろちょろと動き回る魔物の動きを防ぐつもりなんだと思ったのだ。
粘度を含んだ水といっても、要は防御魔法との組み合わせに近い魔法だ。
そう難しいものじゃないから私は「くっついたら離れられなくなるくらい!」と答える。
するとレルリラはにやりと笑った。
「じゃあ俺に向けてやってくれ」
私はレルリラの言葉通り粘度を上げた大量の水をレルリラに向けて放出した。
レルリラは風魔法で私の水を広範囲にバラまき、尚且つ広範囲の竜巻を生み出した。
木だって根こそぎ抜けてしまいそうなほどの暴風に、私は思わずその場から離れようとしたが、広範囲だった竜巻はどんどん範囲を狭めていった。
そして穏やかな風になるにつれて縦にくっついた魔物だけが残される。
レルリラはくっついて身動きが取れなくなった魔物に火を放った。
勢いよく燃える魔物。
私達をおってきた魔物はあっという間に倒されたのだ。
「…ハハ」
なんだかおもしろくもないのに笑ってしまう。
こんなにもあっさりと倒した様子をみてしまったら、レルリラ達の安全を考えて離れた私の立場っていったい…。
まぁでも。私の魔法だって役に立ったのだからと、レルリラ一人の成果じゃないと気持ちを切り替えてレルリラに近寄った。
互いに契約霊獣に乗った状態だから距離はあるが、レルリラは口角を上げながら、掌を私に向けて手を伸ばす。
「おつかれ」
「ああ」
私は伸ばされたレルリラの手に自分の手を当てた。
パチンと小さく音がなる。
さて、これで追ってきた魔物も倒したことだしと王子たちと合流しようと辺りを見渡すと、先ほどのレルリラの魔法で場所を知ることが出来たのか近づく人影が見えた。
私とレルリラはその人影に向かって飛ぶ。
そしてやっと合流できたのだ。
「ハールさあん!!!」
互いの顔が見えるくらい近づいた私達は霊獣から降りて、駆け足状態で王子たちの元に向かうと、目を潤ませた聖女様が私に抱き着いた。
そして抱き着いたままわんわんと泣く聖女様に私はたじろぐ。
「…すまないね。君が囮になったと伝えたら泣き出してしまったんだ」
聖女様の状態を教えてくれたレルリラのお兄さんに私は驚きながらも謝罪する。
一人で勝手に行動したことは自分でも悪いと感じているからだ。
しかもこんなにも泣かれるなんて思ってもいなかったから余計に。
そんな私にアルヴァルト殿下が怖いほどに綺麗な笑みを浮かべながら近づく。
「これからは勝手な判断で単独行動をしないように。君は今私に雇われているんだからね」
「は、はい」
有無を言わせない迫力というのはこういうことをいうのかと思うくらいに、王子の笑みは怖かった。
怖すぎて聖女様の体をギュッと抱きしめてしまうのは仕方ないよね。
誰だって怖い時には身を護るために抱えてしまうものだから。
「それで、なにかあったのか」
アルヴァルト殿下が私とレルリラに対して尋ねると、レルリラが答える。
「はい。魔国の森の先に結界が張られていることがわかりました」
「結界?」
「許可されていない者以外を通さない為の結界、と考えられます。実際に彼女の霊獣は阻まれてしまい通ることが出来ませんでした。
ですが私と彼女は通ることが出来、その先で人間のような魔物と出会いました」
「……」
アルヴァルト殿下はなにやら考え込むように顎に手を当てる。
そしてちらりとどこかに視線を向けると、「場所を変えよう」と口にする。
私はアルヴァルト殿下の視線の先を確認すると、少し気まずそうな表情を浮かべた騎士の二人を確認した。
(どうやら殿下はあの二人には話を聞かせたくないようね)
私の考えが当たっているかは、報告の場をみてみないとなんともいえないけど、それでも騎士の二人を気にし、場所を変えようと告げるということはそういうことだと思う。
聖女を守る特務隊でしかも殿下の直属の部下っていってもいい立ち位置なのに可哀想な人だなぁと思って騎士の二人を見ていると、先ほどまで敵対心バリバリだった二人は顔を背けてしまった。
(あれ、なにかいってくるかと思ったのに)
大人の対応を覚えたのか、それとも私がいない間に考えを改めさせられる何かがあったのか。
まぁ口論になることは避けられたので私はよかったと思った。
「あの……」
「あ!ごめんなさい!」
聖女様が短く声をだしたことで、私は聖女様を抱きしめていたままだということを思い出す。
咄嗟に手を放して聖女様を解放すると、聖女様は私の手を握った。
なんだなんだと戸惑っていると、緊張気味にこう言った。
「私のお姉さんになってください!!!」




