4 謎の人物からの脱出
「サラ…」
二人の言葉を考えている私に、レルリラが手を伸ばす。
頬に優しく触れてそこから魔力を感じた。
いつの間にか傷を負っていたのか、レルリラが治癒魔法で私の頬の傷を治してくれているのだと理解した。
(……っていうか、こういう態度は勘違いするからよくないってこと気づいてよね!)
心の中でレルリラに向けていた言葉が口から洩れてしまっていたのか、レルリラは不思議そうに首を傾げた。
「なんかいったか?」
「なんもいってない!…それより、二人が言っていた言葉の意味ってなんだろうね」
「言葉の意味、か」
レルリラは呟くと、腕を組んで考える。
私はそんなレルリラの様子を眺めながら涙が収まってきたフロンを抱きかかえながら洞窟型の教会を出た。
なんだか濃い一日を過ごしたような気分だけど、空をみるとまだ青い。
全然時間が経っていなかったんだなと考えていた。
「……まぁ、今はとりあえず戻ることが優せ……サラ!!!」
レルリラは考えることをやめたのか、外に出ていた私を追うように教会を後にする。
そして戻ろうと告げようとしたとき、何かに驚いた様子で私に駆け寄り抱き寄せた。
「え……?」
ぐさっと地面に突き刺さる一本の矢。
魔法攻撃ではなく、武器を使った原始的な攻撃にただの威嚇かと思った私は、そんな甘い考えを否定する。
地面がどす黒く変わり、矢の先に地面の色が変わるほどの猛毒が仕掛けられていることを察したのだ。
でも誰が。何故。
私はレルリラに抱えられた状態で上を見上げた。
そこには逆光でちゃんと見ることが出来なかったが、人間のような背格好をした人物がいることを確認できた。
そして次々と矢が放たれ、私とレルリラは強化魔法を体に付与し、その場から離れる為に来た道である穴があった洞窟へと向かった。
幸いにも洞窟に逃げ込んだ私達を追ってくる様子はなさそうで、私は安堵から息を吐き出した。
「な、なんだったの、あれ…?」
「わからない。だけど同じ人族のように思えた」
「同じ人族なのになんで攻撃するの!?」
「俺が知るわけないだろう…。それより兄上たちと合流して情報の共有をしたほうがいい」
「…そう、だね。そうだよね」
本来ならば魔物の大群を避けるために来た道ではない場所から戻ろうという話であったが、毒を塗った矢で攻撃してきた人間っぽい人物がいた為に来た道を戻るしかなかった。
私はレルリラに抱きかかえられようとしたところで拒否し、フロンに乗せてもらうようお願いする。
ボロボロと悲し気に泣いていたフロンは今は気持ちを切り替えてくれた様子で、私を背に乗せてくれた。
ちなみにレルリラも自分の霊獣を呼び寄せている。
巨大で深い穴を上りながら、私はフロンに尋ねた。
「そういえば何かに阻まれていたように見えたけど、大丈夫だったの?」
『うん。壁みたいなのがあったんだけど、突然消えたんだ。だからサラの所に駆け付けることが出来た』
私はフロンの言葉に、もしかして魔物が怒りで張った結界かもしれないと考える。
もう魔物はこの世から消えてしまったために答え合わせをすることが出来ないけれど、ユミが結界を解除したともいっていたことからきっと当たっているだろうと思っていた。
でもそっか。魔物の結界があったからフロンが通れなかったのね。
通れたのはユミの生まれ変わりである私と、ユミが心を許していたユミの父親の魂を持つレルリラだけ。
そう考えたら辻褄が合う。
だって魔物の魔力はユミの魔力を取り込んだものだから。
穴を上った私とレルリラは顔を見合わせた。
木よりも高い場所からみた魔国と呼ばれる森は先が見えないほどに続いている。
正直どこに向かえば戻れるのかが不明な私よりも、レルリラを先頭にした方が絶対に迷わない筈なので、先頭はレルリラに任せた私は後ろに着いた。
「絶対に離れるなよ」
「大丈夫。もう単独行動なんてしないから」
意気込みをみせた私のことを信用できないのか、少し眉間に皺を寄せて私をじっと見たレルリラはなにも話すことなく前を向く。
まぁ、信用できない行動をとってしまったばかりだけどさ、そんなあからさまにされたら少し傷つく。
そしてポーションを服用した後、もうスピードで駆け抜けるレルリラの後を私はフロンと共に追いかけた。
私に気付いた鳥系の魔物が後を追ってくる。
私はもう相手にすることなどなく、ただただレルリラの後を追いかけた。
森の上を飛んでいる途中、激しい勢いで燃える炎。
恐らく私が離れた場所だというところまで戻ってきたことを知る。
(なんで森の中を通っていたんだろう…)
今のように上空を飛んでいれば遮蔽物もなくもっと早く飛べていた筈なのに、と私はあの時の思考を不思議に思った。
思えば魔国の先を見たことがある人物がいないというのも不思議だったはずなのに、なにも疑問にも思わなかったのは、全て魔物が張った結界の所為なのかと考える。
それならなんて凄い結界だったのだろう。
そしてそれほどまでに人間を恨んだ魔物の心を、記憶でしか見ていなかった私は今更ながらに魔物の心を知った。




