6 閑話 助けた者の一生⑤
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「っ……」
声が出ない。目があかない。
だが瞼越しに光を感じることもない事から、ユミは何か大きな布に撒かれていることを悟った。
ユミは幼い頃エルフと同じような膨大な魔力に目覚め、魔法を自由自在に使いこなせるように励んできた。
だから自分が今どんな状況でいるのか、魔力を放出させることで知りえることが出来たのだ。
だが同時に悟る。
自分の命があと幾ばくも無いことを。
(とう、さま…)
ユミは思い出す。
自分を拾い育ててくれたテムズの存在を。
そして好いてくれた村の人たちの存在を。
守りたかった。
皆を。
守りたかった。
父様が大事にしていた村を。
守りたかった。
日常を。
目を開けることが出来なかったユミは見ることが出来なかったが、いや、そもそも布に巻かれている時点で例え目が開けたとしても見ることが出来なかっただろう。
空から舞い落ちる雪がユミの体を覆っていた。
折角息を吹き返し、意識を取り戻すことが出来たというのに、ユミの体は自身の意思で動かすことが出来ない程に冷え込んでいたのだ。
それこそ死体と変わらない程に。
だがそのお陰で、ユミの体は魔物に食べられてない可能性もあった。
魔物は無条件で人間を襲う。
これは魔物という存在が現れてから常識ともいえる情報となっていた。
だが、人間の死体には魔物はどのように反応するのか。
それは誰も知らなかった。
死体を魔物にわざわざ提供することをしたことがないからだ。
だが、今ここで死体のように横になっているユミが襲われていない事から、魔物は生きている人間だけを襲うものなのではないかと考える。
でもそうとは限らないとすぐ考えを否定した。
魔物を討伐隊と一緒に討伐しに行く中、森の中で動物の死体に集る魔物の姿をみているからだ。
しかしそんなことは大して重要ではない。
ユミは死ぬ。
村の皆を最後まで守ることなく、ここで死んでしまうのだ。
(………ぁ…)
そんな時小さな存在をユミは感じた。
小動物のような、弱弱しくて小さな存在を。
ユミは咄嗟に“助けたい”と思った。
その小動物のような存在が、どのような存在なのかきちんと確認することもなく、ただただ助けたいとそれだけを願った。
動かない体。
発することが出来ない声。
これでどう助ければいいのかわからないユミは、意識が飛びそうになりながら、今の自分が出来ることを見つけ、その小さな命に自分の魔力を送った。
どうか、どうか、生きて。と、その願いを込めながら。
そしてユミは息を引き取った。
◆
そして長い年月が経った。
自分がなくなってしまった時からユミは意識がなかった。
当たり前だ。
既に死んでしまっているのだから。
それでもユミは何かをきっかけに、最後に助けた”子”に残っていた自分の魔力を通じて、その”子”が見てきた全てを見ることが出来た。
意外と想定していたよりも大きな体をしていることに驚きながら、それでもその”子”も私に会いたいと願っていたことをユミは知った。
嬉しかった。
その子が生きていてくれたこともそうだが、自分を求めてくれた存在がいたことが、ユミは嬉しかった。
だから会いたいとユミも願った。
一度だけでいいから、その子に会いたい。
そんな気持ちが生まれたのだ。
だからきっかけとなった自分の生まれ変わりに、もう一度、ユミの魔力をもった子と触れ合うことを願った。
最初で最後のお願い事を、ユミは自分の生まれ変わりに伝えたのだった
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