4 閑話 助けた者の一生③
◆
ユミ一人でも十分に戦いについていけるようになった頃、テムズは寝たきり状態になった。
ドワーフの制作意欲やその成果物を見るまで、人族の武器は疎かなものだった。
大きな石は先端を尖らせはするものの、重量面では女性に扱える武器等作れなかった。
だが、そんな重量がある武器を背負い振り回すことが出来ていたテムズは今では筋肉が衰え、まだまだ年齢的には若いはずなのに髪の色は白へと変わり、いつの間にか皺も多くなった。
その結果昔のように自由に体を動かせなくなっていた。
そしてユミが十分に戦えることを知った今でもテムズはユミが戦場に向かうのをいい顔はしない。
『お前のその力は負担をかけているのではないか?』
そう心配そうに口にしたテムズが最後に起き上がっていた姿だった。
そしてテムズが儚くなった後、ユミは静かに涙を流しながらテムズを埋葬した。
冷たくなった手にユミは触れ、『必ず村を守ってみせるからね』と誓う。
その日の夜、ユミは眠れなかった。
血の繋がりはなくとも実の子であるジャングと同様に愛してくれた、そして父として慕っていた親がなくなったのだ。
ユミは羽織を肩に乗せ、外へと出た。
月明かりがユミを明るく照らしてくれた。
といっても月は二つあり、一つの月が隠れようとももう一つの月が大地を照らす。
いつ見上げても月を見失う事なんてなかった。
ガサっと音がなった。
村の中は安全だ。
高い見晴らし台を四方に配置し、見張りをたてているのだ。
なにかあればすぐに鐘を鳴らし皆に危険を知らせる手はずとなっている。
だから草むらに隠れているのは魔物ではないことはわかっていた。
『…ジャング兄さま…?』
ユミは呟いた。
ユミとジャングの親はテムズの一人だけだった。
今となってはテムズも亡くなり、家族は二人だけとなってしまったが。
もしかして父様がなくなったことで、ジャング兄さまも眠れないでいるのだろうかと、そう思った時だった。
足払いをされ、地面に体を打ち付ける。
『カハッ』
衝撃で息が詰まり、呼吸も満足に出来なかった。
咳き込むユミに足払いをし、転ばせた人がユミの腹部に乗り上げる。
そしてそのまま首に手を掛けられた。
ユミは困惑していた。
何故、どうして、兄さまがこんなことを、何故私の首に手を掛けるの、苦しい、その瞳はなに、苦しい、何故そんなに憎らし気に私をみるの、どうして、どうして!
その瞬間ジャングの姿が被った。
人間であるジャングに、魔物の姿が被ったのだ。
(ジャング、兄さま……)
何故魔物の姿が被ったのか、ユミはわからないながらも察した。
近い将来ジャング兄さまの身に降りかかる何かを。
それを伝えたい。でも声は出なかった。
当たり前だ。首を絞められているのだから。
呼吸をとめられているからか、酸欠になり視界が暗くなってきた。意識も飛びそうだった。
(私は、このまま死ぬのだろうか…)
父様の村を残すことがなによりも気がかりだった。
魔物は数を増し、連日のように村を襲う。
『__________』
神様、父様の村をどうか、どうか見守ってください
最後に願ってユミは意識を手放した。




