3 閑話 助けた者の一生②
酷い食料不足だったのか、村へと連れてきた人の数は多くはなかった。
ユミらを人族と名付けるのならば、人族の半分も獣人はいない。
だがその見た目からよく思わない人族も少なくなかった。
『どういうつもりだ村長!』
声を荒げる者にテムズは憮然とした様子で答える。
『どういうつもりだと?みてわからないか?人助けだ』
『人助けだと!?俺たちを獣の餌にでもするつもりか!?』
その言葉はしっかりと獣人たちの耳に届いていた。
我々は化け物ではない。姿かたちに多少の違いはあるが、同じ人間なんだと言い返そうとしたその時だった。
『獣なんかじゃないわ!』
一人の女の子が叫ぶ声が獣人たちを止めた。
それは獣人だけではなく人族にも大きな影響を与えた。
『コニーはとても喜んでいたの!これでもう命を落とす者はいなくなるって!
仲間を思うことができる心は人だけが持つものっておじさんも言ってたよね?
今おじさんがこれから皆が嫌な思いをしないように、皆の為に行動していることとコニーたちはなんの違いもないわ!』
いつもニコニコと人懐っこい少女が声を荒げていることが村の人族に少なからずの衝撃を与えた。
『ユミちゃん……』
泣きそうに目に沢山の涙を浮かべるユミに思わず近づこうとした。
だけどそれは出来なかった。
ユミは振り返りコニーと口にしながら獣人へと抱き着いた。
ユミとテムズに助けられたあの獣人だ。
『ごめんなさい。ごめんなさい。貴方たちを傷つけようとしたわけじゃないのよ』
獣人は獣のような手でそっとユミをあやすように背中を撫でた。
大きな爪があるにも関わらず、ユミを傷つけることなく優しい手つきであやす獣人に批判していた人族は考えを改めていく。
『本当に、人間なのか?』
『本当だ』
『…俺たちを害さないか?』
『同じ人間を殺めることが何になるというんだ。
我らは生きる為の殺生しかしたことがない』
『……ならばここはテムズ村長の意思を尊重しよう』
そうして受け入れられた獣人に続き、次はドワーフ、エルフを仲間にしていった。
だが平和な日々はすぐに終わりを告げる。
動物ではない、未知の生物が姿を現し始めたのだ。
漆黒に染まったその眼は全ての人間を攻撃対象と認識した。
すぐに団結しあった獣人、ドワーフ、エルフ、そして人族は手を組んで未知の生物、魔物と戦う道を選ぶ。
獣人はその強靭な肉体を、ドワーフは様々な武器を、エルフは芳醇な魔力を、そして人族は被害を最小限にする為の作戦づくりを考えた。
人間たちがそれぞれの力を合わせたことで、全てが上手くいっていた。
『とう様、私も戦うわ』
少女ユミが7歳へとなった頃ユミは力に目覚めた。
どちらかといえばエルフに近い力だった。
『どういうことだ?』
『エルフのように私も魔法が使えたのよ。だから私も戦う』
『だめだ!』
テムズは咄嗟に拒否の言葉を口にした。
これが息子のジャングならば答えは違ったかもしれない。
それはジャングならいいというわけではなく、ある意味安心だったからだ。
父として子供を危険な目にさらすことは本意ではない。
それはジャングやユミにも当てはまる。
だがジャングは悪く言えば他人などどうでもいいと考える一面があったのだ。
父親と義理とはいえ幼いころから妹として関わっていたユミが人助けとして、惜しげもない援助を他人に施すたびに憤っていた。
『何故家族の俺じゃなく、あいつらにばかり贔屓するんだ』と。
だがよく言えば戦場で人を見殺しにする可能性は否めないが、それでも自分が生き残る道を最後まで探すだろうと、父親としての安心感をジャングから感じることができるのだ。
だがユミはそうではない。
心の底から人を助けようとする。
力を使えるからといって戦いの場に放り込んだら、絶対に他人の為に命を落とすだろうとテムズは思っていた。
だからこそ許されない。許可できない。
人族だけではなく、他の種族の人全てを大事にするユミは決して戦いの場に身を置いてはいけない人物だとテムズは思っていた。
だがユミは強行突破した。
獣人やエルフの力を借り、戦いの場に向かったのだ。
『本当に、いいの?』
『勿論!私に戦う力があるのなら、その力で皆を守りたい!』
心配するエルフに、ユミは獣人に背負われながらそう答えた。
まだ7歳と幼い為にユミは途中までの移動は獣人に手を借りることにしたのだ。
そしてユミは他種族と共に戦いに身を置くようになった。




