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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
冒険者編②
223/253

22 見えない壁の先






急に静かになった背後を振り向くことなく、私とフロンは先を急ぐ。

どこに向かっているかなんて今は関係ないほどに、追ってくる魔物たちから逃げる事だけを第一として考えていたのだ。

だから気付かなかった。

いや、私だけが見えなかったといえばいいのだろうか、『壁!』と叫ぶフロンが急に止まり、私はフロンの背中から投げ出される。

宙に放り出され全てがゆっくりに見えながらも、何かに阻まれたのか、強い衝撃を受けたと思われるフロンが鼻から血を流した状態で地面に倒れていく。


そんな光景を眺めていると、急に落下特有の強い重力を感じた。

私は思わず落ちている場所の先を見る。

暗くてどこまで続いているのかわからない大きな穴。

フロンに乗っていた時はこんな大きな穴なんてなかったはずなのに、私はそんなどこからともなく表れた穴に真っ逆さまの状態で落っこちていたのだ。


「ひっ、…ヤアアアアアアアアアァアアァアアアアァァァアァアアアア!!!!!」


魔法球!早く魔法球!と首にかけていたネックレス状の魔法球を服の中から取り出す私は、落下時に生じる風で思うように魔法球を掴むことが出来なかった。


誰よ!ネックレス状にしたの!

___私だ!!!


魔法球は肌に接触している状態で使用するのだが、自分の属性魔法を使用する際、肌に魔法球が接していると使用寿命に関わると購入する際に説明をされたのだ。

寿命が減るのは嫌だ。少しでも長く使いたいと、そんな貧乏性が出てしまった私はネックレス状に加工して、肌に直接触れさせないようにしてもらっていた。

……でも。


こうなることが予想できたなら指輪でもなんでもしてもらえばよかった!!!!

加工の仕方によっては指輪だって肌に直接触れないもの!!


そんな今更ながらの後悔を思い浮かべているからか、落下の所為かわからない涙を目尻に溜めながらぎゅっと目を瞑る。


お父さんお母さん!なにも言わずにいなくなってごめんなさい!


このまま落下したらきっと助からない。

そんな事を感じた私は思わず手を組んでお父さんとお母さんに謝罪する。

そして次に思い浮かんだのは、いつかのパーティーで鼻の下を伸ばしながら王女様をエスコートしていたレルリラの姿だ。


死ぬ前にこんなことを思い出したくなんてない。

もっと楽しいことを思い出したかった。

だからか、自然と口が開く。


「…レルリラの、バカあああああああああああ!!!!!」


お腹から力いっぱい叫んだ瞬間、優しく抱きしめられる感覚と同時に、「誰がバカだ」という呆れたような、少し疲れたような声が耳元で聞こえた。

そんなバカなと、幻聴かと思う前にふわりと浮かびあがる体に私は目を瞬いた。


「…なに一人で行動してんだ」


レルリラは余程急いで追いかけてくれたのか、普段は降ろされている前髪が後ろに流れていることで汗をかいているのがわかった。

少し伸びたサラサラな髪の毛が首筋にへばりついていて、無駄にエロい。

……いや、エロいってなんだ私!?


「わぁああ!!!!」


「こら、暴れるな!落ちるだろう!」


思わず手を突き出した私をレルリラが咎めながら、ぎゅっと抱きしめる力を強くする。

私は自然とレルリラの胸に顔を押しつけるような形となり、ドキドキと意外に早いレルリラの心臓の鼓動を聞いていた。


レルリラは上に登ることなく、ゆっくりと穴の中を下りていく。

下りていくにつれて光が届かなくなり、レルリラのエロさに目がやられない事に安堵?しながら私は小さく「ありがとう」と呟いた。


「…それだけじゃないだろう」


「え?」


レルリラにじっと見られている気がしながらも、私は首を傾げた。

もしかして一人で勝手に行動したことを咎められているのだろうかと思う程に、視線が痛い。

見えないのに、チクチク痛いのだ。


「…ごめんなさい?」


首を傾げながら言葉を告げると、レルリラははぁと大きく息をついた。


「これからはちゃんと言え。勝手にいなくなるな。…俺は、お前のパーティーメンバーだろう」


その言葉に私はハッとした。

レルリラは冒険者の私とパーティーを組み、正式に活動を許可されている仲間だということを、訴えているように感じる。

仲間に何も言わずに行動するなと、責めているようにも感じたけれど、それよりももっと、なんというか悲しんでいるように感じて、私は俯いた。


「……ごめん、もう二度としない」


「ああ、頼む」


レルリラの表情を確認したいが、こんな暗闇の中では無理だろうと、私はどこまで続いているのだろうかと下を見た。

すると明りが差し込んでいるのか穴の底がうっすらと見えた。

なんの変哲もない普通の地面。

レルリラは「下りるぞ」と呟いて、地面にゆっくりと足を付けた。





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