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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
冒険者編②
222/253

21 魔物の本命 ※視点変更有






「フロン!方向を変えて!」


私は堪らずそういった。

もし私の考え通り、魔物たちが私を狙っているのならば私が離れたほうが皆が助かる確率が上がる。

私はフロンがいれば逃げ切れる。

それにポーションだってまだまだたくさん残っている。

大丈夫、問題ない。

そう思っていったのに、フロンは私とは違う考えなのか否定する。


『だめだ!出来ない!サラを危険に晒すなんてことできっこない!』


「フロンがいれば危険になんてならないから!」


『それでもダメだ!』


堅く意志を変えようとしないフロンに、私は息をのみながらもフロンに捕まる手をグッと握りしめた。


霊獣が契約する為に人間を選ぶのにはなにも生涯を共にするからという理由だけではない。

魔力を乗せた契約主の命令には例え霊獣が嫌がったとしても従わざるを得ない強制力が働くからだ。

嫌な命令にも従わなければならないからこそ、霊獣は人を選ぶ。


私はフロンに心の中で謝罪しながら口を開く。


「“フロン、方向を変えなさい”」


『ッ!』


余程嫌なのか、フロンの身体はカタカタと僅かに震えながら方向を変えた。

私は頭を少しだけ向けて後ろを確認する。

思った通り追いかけていた魔物の大半が私を追うように着いてくる。

これならあっちは問題なく森を抜け出せるだろう。

そう思いながら私は手探りでカバンの中からポーションを探し、魔力を回復させる。

向かってくる魔物には氷魔法で凍らせて、なるべくフロンが飛ぶ邪魔にならないように魔物を片付けていった。






■視点変更


聖女が狙われるというのは一つの仮説だった。

なんの確証もない、昔の聖女が書き残した書物からのただの推測だ。

だが実際サラの前に三度も瘴気の魔物が現れたことで、魔物は聖女の持つ力を求めているという仮説に強みが生まれたと、何も知らない張本人以外の誰もが考えた。



魔物の攻撃を避けながら森を抜けるために駆けている中、後ろから叫ぶような鳴き声が聞こえた。


騎士団の二人を先頭に、第一王子殿下、聖女を乗せた兄上が続き、俺とサラが後ろに配置された並びで駆け抜けていたからこそ、後ろから聞こえる声はサラとサラの霊獣のものだとわかる。

前にいる自分にもよく届く声が霊獣のもののため、何を話しているのかまでわからないが、それでも話が出来るくらいの余裕があると解釈した。

それでもサラが少しでも進みやすくなるように、森を燃やす勢いで魔法を発動していった時だ。


『ご主人様、あの人間を止めたほうがいいと進言します!』


「…どういうことだ?」


自分の契約霊獣であるシュティにかけられた言葉に、俺はなんとなく嫌な予感がした。

後ろを振り返れば霊獣から落ちないようしっかりと捕まるサラが見えた。

少し距離があったが、それでも俺たちにちゃんと付いてきていることを確認し安堵した瞬間だった。


『あの人間、方向を変えるよう“命令”しているんです!!』


シュティは焦ったように告げる。

二人の会話がシュティにははっきりと聞こえていたのか、声を荒げながらそう言った。

その瞬間、サラの霊獣が方向を変えて飛んでいった様子がみえる。

サラの霊獣が自らの契約主を危険な目に合わせるなんて考えられない。

そしてシュティの言葉から、完全にサラの独断だということを知り、俺は血の気が下がったような感覚で、一瞬何も考えられなくなった頭を無理やり動かした。


本当に目が離せない。

いっその事鎖で繋いで閉じ込めておきたいくらいだ。

サラ本人からしてみれば、狙われていることに気付いてしまったから離れたのだろう。俺たちを助けるために。


良く言えば正義感に溢れる勇敢さを持っているといえるが、悪く言えば死にたがりだ。


お前が狙われていることなんてこっちは出発前から想定していたんだ。


「…シュティ!兄上に伝えろ!俺はサラを追う!」


『ご主人様!?』


「行け!」


戸惑う霊獣の背中を蹴るように飛び下りた。

そしてすぐに風属性魔法特有の浮遊を使ってサラを追う。


風属性持ちは鳥のように空を飛ぶことができると羨ましがられるが、スピードは思ったほどでない。

だから霊獣に乗って移動する人が多いのだが、そんなデメリットを選んでも一人でサラを追うには理由があった。

上司でもある兄上やこの場を仕切る立場の王子殿下に報告をしなければならないという理由は勿論あるが、それよりも魅了という禁術の一つに近いと言われている支配という名の魔法を、人目がある場所で使うわけにはいかなかった。


俺は頭が小さく、人が乗っても問題なさそうな大きな“鳥”を捕まえ目を合わせる。

白目がない真っ黒な瞳をじっと見つめて魔力を注ぎ込むと、魔物は途端に意識を失ったように“落ちる”。

意識を手放し全ての思考を俺に委ねた魔物が地面に落下する前に捕まえ、無理やり意識を取り戻させると魔物は当然のように俺を背に乗せて飛んだ。


本能で行動するといわれているだけあって、魔物への支配は簡単だ。

それも今俺がやったように思考回路が弱そうな種類の魔物は特に。

だが万能ではない。

簡単だからと多くの魔物を支配しようとすると、自分自身の自我も衰えていくような、そんな感覚に陥ってしまうとされている。

だからこれをするのは二度目だ。

一度目は支配という魔法を知った時、興味本位で行ったことが最初。

そして偶然居合わせた父上に、二度とやってはいけないと約束させられた支配魔法を、緊急とはいえ使う場面を兄上に知られることは避けたかった。


俺は魔物の背に乗り、サラを追いかける。

サラの後ろ、そして俺の前にはサラを追いかけるように魔物の大群が続いていた。

魔物の本能はどこにいったのか、すぐ隣を飛ぶ俺には目もくれない魔物の様子に、俺は推測が当たっていたことを悟る。


元から聖女の残していた書物やサラが見た夢等から、聖女の力が狙われていたことを想定していた。

だからこそ魔国へ旅立つ前に王子殿下と兄上から告げられたのだ。


『なにがあっても彼女を守れ』


と。

言われなくともそのつもりだったが、二人からはっきりと言葉にして伝えられるほど、聖女を守らなければならないという意思が感じられた。

国を守るために。


それでも二人が俺に任せたのはサラが本物の聖女であることを隠しているからだ。

本来なら聖女の存在を周知させて大々的に守らなければならない。

だが俺のわがままと、異界から召喚されたという聖女の事情が、サラのことをただ聖水を作れるだけの冒険者として、今回の瘴気の魔物対策のメンバーに加わったということになっているからこそ、俺だけに告げる。


どれほどの魔力を消費しているのか、凄いスピードで駆け抜けるサラを追いかける。

これなら問題ないかのように思えるが、サラが向かう先は兄上たちとは真逆だ。

つまり国からどんどん遠ざかっている。

このままでは森を出ることは叶わない。

それどころか魔力が尽きれば森のど真ん中で倒れるという最悪なパターンが脳裏に浮かぶ。

せめて方向だけでも変えさせることが出来ればと噛みしめた時、魔物が一斉に止まり引き返した。

そして俺という人間の存在にやっと気付いたのか、目の色を変えて襲い掛かる。

全てを薙ぎ払いながらも先を進むと、急に大人しくなる魔物たちに俺は首を傾げた。


「…どういうことだ…」


まるで境界線があるかのように、一定のラインを超えるとそれ以上襲い掛かってこなくなった魔物の様子をみて違和感を感じる。

肉眼ではそんなラインは確認することが出来なかったが、邪魔がいないこの機会に、サラとの距離を一気に詰めるべく魔物に喝を入れた。




視点変更終わり

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