18 嫌な予感は的中する
そのように話すフロンに私は瞬いた。
そしてにへっと表情が崩れる。
「フロン凄い!さすが私のフロンね!」
前から賢いとは思っていたけど、どうやら私の霊獣は物凄く頭がいいようだ。
頭をよしよしと撫でたいけれど、歩きながらではうまく撫でれないためぐっと我慢する。
「そうだ。他の皆にも伝えないと」
私は前をズンズンと歩く他の人達に、頭上に潜む魔物のことを伝えた方がいいと思いフロンを追い越し、前を歩く皆に駆け寄ろうとするとフロンに引き留められた。
『それは大丈夫だよ。他の人たちにも僕と同じように契約している霊獣がいる。霊獣なら異変に気付いている筈。
それにあの聖女という女性を守っている男二人なら特に大丈夫だよ。色が常に警戒している。表情も張りつめているから魔物の存在には気づいている筈だからね』
「……そっか」
フロンの言葉に頷いた。
仮にもレルリラは私にずっと教えてくれていた立場だったし、レルリラのお兄さんならもっと優秀だろう。
王子の側近でもあるみたいで、しかも騎士団の特務隊という組織の隊長らしいし。
そしてその前を歩く特務隊の人も、実力をかわれてこの場にいるのだから、私でも気付いたことを気付かないままでいるわけがないのだ。
『それにもし伝えたことによって変に騒がれたら迷惑。僕たちを観察している魔物たちは緊張の色に包まれているからね。このまま僕たちが何もせず大人しくしてここから移動すれば、特に襲ってきたりもしないはずだ』
フロンはなんでもないようにそう言った。
そう言えばフロンには色が見えると前に聞いたことがある。
私との契約も、私の持っている色ってやつが他の人とは違うとか、確かそのように言っていた。
だから目に見えない魔物たちの色から、魔物が今どのような状態なのかをフロンだけが見える色を見て判断しているのだろうと私は考える。
そしてそれはフロンだけじゃなくて、魔物の存在に気付いていると思われる他の人たちも同様の考えを持っているのだろうと思った。
そうでなければ、なんのアクションもなしにいられるはずがない。
(……聖女様を守るためにも、ここは大人しくするべき)
そうするべきなのはわかっている。
わかっているんだけど……
(でも、なんか嫌な予感がするんだよね……)
よく嫌な夢をみたあとの起きた時のモヤモヤした感じが、胸の中でうずまいているような、そんな感じがして私は不安になる。
でもじゃあどうするか、と問われたら明確な答えを持ち合わせていないから、やっぱりフロンのいう通り私は大人しく着いて行った方がいいかもね。
そんなことを思っていたのが数分前だった。
なにがきっかけだったのか、潜んで様子を伺っていただけの魔物たちが一斉に襲ってきた。
潜んでいたのは学園で言えばエリアBにいたような鳥系の魔物が多く、エリアCにいたような動物系の魔物が少しといった割合だ。
どれも強い魔物ではない。
ないのだけど、圧倒的に数が多すぎる。
「聖女を守れ!!」
叫ぶように指示を出したアルヴァルト殿下に私達は聖女様を囲むように陣形を組む。
「<バーリリー・デオー_水のバリア>!」
「きゃ!?」
「お前なにを_」
「私の防御魔法です!安心してください!」
小さく悲鳴を上げた聖女様に特務隊の一人は私を睨む。
この中で水属性持ちの魔法使いは私だけだからだ。
でも私は聖女様の安全面を考え防御魔法を掛けただけ、アルヴァルト殿下やレルリラのお兄さんも「前に集中しろ!」と告げたことで特務隊の一人は私から視線を逸らす。
いきなり魔法を掛けた私も悪いけど、この状況下で一々説明なんてしていられない。
そもそも指示を受けなくても最適な状況になるように動けなければ、冒険者としてやっていけない。
騎士団は組織という枠で動くために、こうした場面も”指示”というのが重要なのかもしれないが冒険者は違うのだ。
私は目の前に迫る魔物に口を開く。
「フロン!目の前の魔物を全て倒すまで全部許可する!好きにしていいよ!」
フロンに私はそう伝える。
霊獣というものは契約主の許可なく契約者の魔力を使うことが出来ないからだ。
だからフロンが魔法を使う度に私に許可を取る必要がある。
もしくは私がフロンにお願いするか、だ。
だけどそんなことは戦闘中には非効率だ。
だからこそその面倒な仕組みを取っ払うために、冒険者として活動している中に色々試した。
先程言った”許可をする”という言葉で、フロンが自由に魔力を使えることはすぐにわかった。
だがその持続時間は長くは続かなかったのだ。
では次は持続時間を引き延ばすための方法だ。
”魔物を全部倒すまで”といった漠然な表現だとうまく適用できず、先程私がいった”目の前の魔物を全て倒す”という言葉ならば、契約として成り立つのかフロンの制約が働くことがなかったことがわかった。
フロンは『了解!』と告げると駆け出し、魔物の横を通り過ぎる。
私は向かってくる魔物の間に大きな氷の壁を作った。
そして私の魔力が減る感覚を感じるとともに遠い場所でピカッと稲妻が走る。
「…アイツ、サラの魔力だからって好き勝手に…」
そんなことを呟くレルリラに私はくすりと笑って「早くしないとフロンと私に全部倒されちゃうかもね」と返す。
私の魔力量のことを心配してくれるのは嬉しいが、今は節約するべき場合ではないのだ。
レルリラもそれをわかっているから、少しの間を置いた後「ちゃんとポーションで回復しておけよ」と呟く。
「<フレーム・アロー_炎射矢>」
ポーションを飲みながらレルリラの方に視線を向けると、レルリラは広範囲に魔物の頭上にいくつもの魔法陣を描いて発動すると、炎の矢を真下へと放った。
貫かれた魔物は燃え上がり、避けた魔物は燃え広がる草木で多少なりともダメージが入る。
二次災害的なものが起こる属性ってずるいよね。
水や氷だと避けられて終わりだから、火属性が急に羨ましく感じてくる。




