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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
冒険者編②
212/253

11 ただの八つ当たりに近い





フロアには第二王子であるエルフォンス殿下の姿は一切見えなかった。


本来ならば第一王子であるアルヴァルト殿下の次に第二王子が王様に挨拶すべきなのにも関わらず、次に挨拶をしたのはフィオーナ王女殿下だったのだ。

ちなみにレルリラがエスコートしている王女様の婚約相手は、周りの話声を聞く限りレルリラが一番の有力者らしい。

歳も私よりも五歳は下のため、オーレ学園に王女が入学したとしても完全に入れ違いだ。

それに貴族の婚約関係は正式に取り交わすまでは多くの情報が出回らない。

それが王族に関わることならば余計だろう。

だから学園でも王女の婚約者候補であるレルリラに告白する人がいたことを、頭の隅で考えながらも、私はこの場にいない第二王子のことをアルヴァルト殿下に尋ねた。


「…あまり考えたくないことだが、情報が現実になるかもしれないな」


アルヴァルト殿下はそう呟いた。

アルヴァルト殿下と聖女様に嫌がらせをしようとしていると噂がある第二王子。

その彼が今この場にいないということは、後で急に現れてとんでもないことを仕出かすのだろうとアルヴァルト殿下が言っているのだ。


勿論その為に聖女様ではなく私が変わっているのだし、危ないことをしようとしても第一王子がこっそり手配した部下たちが潜んでいるらしいので、危険な目にはさせないということらしいが、第二王子が考えているのはテロのような被害が出ることではないと考えている。

少なくとも私が第二王子の立場だったならそんなことはしない。

第二王子の性格とか事情とか、全然知らないけれど、聖女の保護者的な役割が第二王子からアルヴァルト殿下に変わったということは、アルヴァルト殿下のほうがより成果が期待されているということだと思う。

だったら成果を出せてないことを証明したいと考えるだろう。

ほら、自分と変わらない結果だと、それを沢山の人の前で証明したくなると思う。

それにアルヴァルト殿下が第二王子の情報を掴んでいるということは、その逆も有りえるのだ。

だから第二王子は聖女様の能力もしっかりと把握している可能性が高い。


そんなことを考えていると、私達が入場した天井まで続く両開きの扉が勢いよく開いた。

あんな重い扉をよく勢い付けて開けたなと思う所でもあるが、現れた第二王子にため息をついたアルヴァルト殿下が気になったために私は場違いな思考にはならなかった。


第二王子は遅れて入場したことをまず詫び、王様へと挨拶をしたのちにこう宣言する。


「瘴気の魔物が目撃されている数も増え、今も国民たちは不安に震えているだろう!優秀な手腕で王太子と選ばれた我が兄上と、多数の貴族の頂点に立つレルリラ公爵家の元に聖女様が預けられて二年が経った!

その成果をこの国王陛下の誕生という祝いの場で是非見せてもらいたい!!そしてどうか不安を取り除いてもらいたいと考えている!!」


ご丁寧に会場全体に聞こえるように拡声魔法を使用しながら話す第二王子に、アルヴァルトが小さくため息をついた。

だが第二王子の発言で、一斉に注目されることとなったために横目で確認したアルヴァルトの表情は余裕がある笑みが浮かべられている。


第二王子が指を鳴らすと、再び扉が開かれた。

そして運び込まれたのは小さな動物タイプの魔物が入れられた大きな檻。

だけど中にいたのは普通の魔物ではない。黒い靄のかかった瘴気の魔物だったのだ。


会場内は騒然とした。

瘴気は人に移る等と“まだ”言われてはいない。

だが初めて見た瘴気の魔物に狼狽える者や、関わりたくないと距離をとる者達で会場内は私とアルヴァルト殿下、そしてこの騒動を引き起こした第二王子から波がひくように開けられた。


「さあ!聖女よ!この瘴気の魔物を浄化して見せてくれ!!!」


第二王子が声を張り上げると、一気に私に突き刺さる視線の数々。

その中には早く浄化してよといったように、嫌悪感を出す者もいた。


私はアルヴァルト殿下を見上げる。

あっさりと終わらせてしまってもいいか。と。

アルヴァルト殿下は私に答えることなく数歩歩き、私と第二王子の間に立つ。


「……一つ聞くが、お前が聖女様についていたときは浄化は出来ていたのだろうな」


アルヴァルト殿下が何故そんなことを第二王子に尋ねたのかはわからないが、私は殿下からの合図がないままに動くのは得策ではないとその場にとどまる。


「あぁ、勿論だ。小さな光だったが、聖女様はしっかりと浄化の力を見せてくれた!」


「そうか。………聖女様、どうかお力をお示しください」


アルヴァルト殿下は私の方へと振り向くと、胸に手を当て頭を下げた。

王子にこんな姿勢をとらせてしまうなんて、あとで不敬にならないかと気にしながらも私はアルヴァルト殿下の横を通り過ぎる。

そして第二王子の前に置かれた大きな檻の前に立ち止まるとその場に膝をついた。


両手を合わせて軽く握る。

私はいつしか見た絵本に描かれた聖女のように、神に祈りを捧げるような体制を作った。


大きな檻の中に閉じ込められた小さな魔物は近くにいる私へと飛び掛かろうとしていた。

怖い顔をしなければ可愛い顔をしているのに、敵意丸出しで歯茎まで見せつけてくる魔物を、私は薄目を開けて確認する。

場所をしっかりと把握しなければ魔法陣の使用がバレて、浄化ではないと分かってしまうからだ。


でも、なんだがムカついてきた。


そもそも何故第二王子が実の兄に対して敵意剥き出しなのか。

兄弟なのだから仲良くすればいいのに、兄の足を引っ張るようなことをして楽しいのか。


そもそも第二王子が変なことを考えなければ、私がパーティーに参加することもなく、レルリラに恋をしていることも気付か……いつかは気付いたかもしれないけれど、それでもこのタイミングではなかっただろう。

失恋と同時に気付かなかった筈なのだ。


そもそも祝いの場所に魔物を連れてくるな。

瘴気が人間にも移ったらどうしてくれるんだ。

王子として、もっと考えなさいよ。


そんなことを考えていたから余計な力が入ってしまったのかもしれない。

水魔法よりも治癒魔法に多くの魔力を込めすぎて、ほぼ治癒魔法のみになってしまっていた。

だけど失敗はしていなかったみたい。


少量の水が聖水へと変わり、瘴気の黒い靄を晴らしていく。

瘴気を浄化した後特有のキラキラした輝きが会場の中に降り注いでいるようだった。


私は胸を撫でおろしほっと息を着くと立ち上がった。


「……これで不安は取り除かれましたでしょうか?」






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