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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
冒険者編②
206/253

5 気付きかける想い







「…サラ!」


応接室へと足を踏み入れたレルリラがまず見たのは私の手元にある書面だった。

私の著名の横に拇印が押し付けられていることを確認したレルリラは、はぁと深く息を吐き出してレルリラのお兄さんを見る。


「やってくれましたね…兄上」


レルリラのお兄さんは睨むレルリラに苦笑しながら両手を上げた。

手のひらを見せるように顔の横付近にあげるだけの、降伏を意味する仕草だ。


「言っておくが俺が殿下に吹き込んだからじゃないぞ?卒業式が行われて暫くした後、殿下が指示したことだ」


レルリラはお兄さんの言葉で王子がいることに気付いたのか、胸に手を当てて王子に頭を下げる。


「挨拶もせず申し訳ございません。

…ですが一般市民を巻き込むおつもりですか?」


レルリラは謝罪の言葉を口にすると、目線だけを王子に向けて睨みつけた。


王子はレルリラの睨みに怯むことなく、そばにいるレルリラのお兄さんへと語りかける。


「…ラルク、そなたの弟はこんなに感情豊かだったか?」


「殿下が弟の懇意にしている人を巻き込んだから、ですよ」


「あぁ、それで…」


王子は口角をあげてレルリラに視線を戻した。


「ヴェルナス・レルリラ。私は手順に従い依頼を出した。そして彼女も了承している。これのなにが問題か?」


「王族が一般市民に依頼を出すというならば、まず王族に仕えている人々に指示を出すのが当たり前なのでは?これでは我々が殿下に信用されていないといわれているようです」


「適任だと思う人物を選択するのも、指示を出す者として当然の選択だと思うが?」


「それで一般市民を巻き込んだというのですか?」


「先ほどから一般市民やら巻き込むやらと口にしているが、そもそも冒険者にはギルドを通し、国からの依頼を受ける権利がある。なにも間違ったことはしていないだろうに」


全然困っていないのに肩を竦め、あー困った困ったと口にした。


「え、何この展開」


私は思わず呟いた。

その言葉をレルリラのお兄さんにも届いていたのか、お兄さんは少しだけ王子から離れると私に話す。


「ハールさんは愛されているね」


「愛さ…?過保護なだけでは?」


お兄さんの言葉に真っ当な感想を返すと、王子のように肩をすくめた。


「可哀想な弟だ」


いや、だって、私昨日レルリラに魔国に行きたいと言ったらだめだしされたばかりよ?

しかも正論だから返す言葉もでなかったけど。

今回だって王子に頼られなかったレルリラが嫉妬…的なものをしているだけではないかと思うのだ。


というか王子相手にこんなに意見しても大丈夫なのかと、レルリラからレルリラのお兄さんへと視線を移動させると、レルリラのお兄さんは「そうだね。そろそろ止めようか」と口にした。

止めることが出来るのならとっととやってほしい。


レルリラのお兄さんは王子に噛みつくレルリラに近づくと、肩に手を置いて耳元でなにかを囁いた。

なにを言ったのだろうとじっと見ていると、レルリラが私の方に顔を向けじっと見る。

え、なに?本当になにいったの?


私の方に歩み寄るレルリラに、私は思わず立ち上がり後退したがすぐに腕を掴まれた。

痛くないけど、離してほしい。

そう思うほどにレルリラの眼差しは真剣なもので、向けられるこっちとしてはなんだか気まずいというか、変な気分になる。


「え、なにこれ。面白いやつ?」


そう王子が口にして「そうそう」と答えるレルリラ兄に私はイラっとした。

だけど二人に意見を言うわけにもいかないので、というかいえないので、私はレルリラから視線を逸らすことなく問いかける。


「ど、どうしたの?」


いつもより瞳に力がある人に見られていると、なにかあるのではないかと尻込みしちゃうよね?

今そんな感じだからこそ、レルリラが何を考えているのかを知るために質問する。


さあこい!と心の中で意気込んだ私は、レルリラの言葉を聞いて拍子抜けした。


「陛下の誕生パーティーには俺が選んだドレスを着てくれ」


「は?」


「陛下の誕生パーティーには俺が選んだドレスを着てくれ」


「いや、二回言わなくてもわかってるって」


レルリラは渋い顔をした。

なら聞き返すな、もしくは本当にわかっているのかとでも思っていそうだ。


「…私が聞いたのは、なんでレルリラが選ぶ必要があるのってことなんだけど…」


無言だけど視線で訴えるレルリラに私は答える。

そうするとレルリラは一つ息を吐き出すと私をまっすぐ見た。


「俺がお前に他のやつが選んだ服をきて欲しくないからだ」


「へ?」


私はきょとんとした。

なに?どういうこと?と。


私はレルリラを見上げる。

何故かまっすぐ見つめるレルリラの瞳を見ると少しだけ戸惑ってしまったが、それでもどういう意味かを聞こうとした時だった。

レルリラのお兄さんが私とレルリラの間に入り、レルリラの口を塞ぐ。


「なにを…むぐ!」


「はい、ごめんね。…ハールさん、ドレスについてはこっちで用意するから安心して。依頼する立場なわけだし、第一陛下の誕生パーティーにふさわしいドレスとなると、値段も相当だしね。流石に用意させられない」


レルリラのお兄さんは微笑みながら告げるとうっすら目を開く。

私は自身の足元に魔法陣が描かれていることに気付いた。


(この魔法は浮遊…!?)


気づいたときには私の体は中に浮かび、部屋から追い出されていた。

ご丁寧にバタンと扉まで閉められてしまったため、私は呆然と扉を眺めるしかない。

そして部屋から一人出てきた私に気付いたセバスチャンさんが私を外まで案内した。


(……なんで、レルリラはあんなこと言ったんだろう…)


まるで小説で読んだヒロインに思いを寄せる男の人のようなセリフを思い出した私は、わけがわからなくてモヤモヤした。


(だって貴族のレルリラにとって私は平民で、恋をする相手なんかじゃ…)


『サラ!』


「ふ、フロン!?」


私を心配してか、自身の魔力を消費して星域から来たフロンはボフンと煙を上げながら私の前に姿を現した。


『依頼はどうだった?怪しくなか……サラ?風邪でも引いたのか?顔が赤い』


フロンは首を傾げ、心配げに私を見上げる。

指摘された私は咄嗟に自分の頬を触った。

確かに少しだけ熱を持っているかもしれない。

でも体調が悪いわけでもない私は「なんでだろう?」と、フロンに笑いかけながら平気な姿を見せた。

フロンは腑に落ちないような表情を浮かべていたが、私の首元に柔らかい肉球がついた前足を置くと、『確かに熱はなさそうだ』と安堵したのだった。







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