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恋愛初心者の恋の行方  作者: あお
冒険者編②
205/253

4 聖女との対面






「落ち着いて、座りなよ」


レルリラのお兄さんがそういって私に微笑みながら指を鳴らす。

流石というかなんというか、レルリラと同様に魔法を巧みに使うお兄さんはサイド部分に新しく一人掛けのソファを用意した。

そして聖女、といわれる私そっくりな女性を座らせると、王子の後ろに控える。


「では、紹介しよう。聖女、山田 眞子様だ」


王子が聖女の名前を口にすると聖女は私にぺこりと頭を下げる。

私も慌てて頭を下げた。


「初めまして、聖女として召喚されました山田 眞子といいます」


「は、初めまして、サラ・ハールといいます、冒険者をやっています」


ヤマダ マコと名乗った聖女様は眉を少し下げた表情で私を見た。

不安を抱えている、というより私に対して申し訳ないと思っているような聖女の表情に私はにこっと笑って見せる。


たぶん王子が言った影武者として私が選ばれたという話を聖女様も知っているのだろう。

だから申し訳ないと、罪悪感を感じているような表情を浮かべている。


でも様子を見る限り今の聖女は大丈夫そうだ。

夢で見た様にやせ細ってはいないようだし、王子に対して怯えている様子もない。


「サラ・ハール、君には先ほど影武者をしてもらいたいと伝えたが、君を選んだ理由はもう伝わっているだろう」


王子の言葉に私は頷く。

魔法もせずとも似ている容姿ならバレる可能性は低くなるからだ。

そして私がオーレ学園を卒業しているところから、最低限のマナーが備わっていると思っているのだろう。ほとんど忘れたけど。


「何故影武者が必要になったのか、それを今から話そう」


そうして王子は話す。

聖女として召喚された最初から、今までの事を。


聖女として勝手にもてはやした人を、能力が伸びないからといって叱っていた第二王子の事。

実際今でも浄化の力は使えず、聖女だけではなく王子もレルリラのお兄さんも状況を変えるためにどうすればいいかと頭を抱えている中、第二王子が王様の誕生祭で聖女を瘴気の魔物討伐の旅に送り出すと宣言しようとしているという噂を聞いたこと。


そして、聖女によく似た私の存在を王子が知ったこと。

聖女様とは関係がない事はわかっているが、それでもオーレ学園を高い成績で卒業した私なら、第二王子が企てていることへの対処をうまいことできるのではないかと考えたという。

今ではレルリラから聖水を作れるという報告も受けているから、是非私に聖女の代わりをやってほしいということだった。


つまり私が聖女の影武者をする場所は王様の誕生パーティーだということだ。


正直その話を聞いて私はホッとした。

誕生パーティーに参加するという事ではない。

寧ろそれは不安要素でしかないが、それよりも力を使う度に命を削っているかのような聖女の姿を夢を通してみたからこそ、聖女、山田 眞子様が力に目覚めていないのなら、犠牲になることもないと安心したのだ。

そして夢の男たちの様な第二王子の傍から離れ、聖女の事をちゃんと考えてくれていそうな第一王子とレルリラのお兄さんがいることも安心した理由だ。


「あの……、浄化が出来ないと発表することはダメなんですか?」


私は恐る恐る尋ねた。

そして私の問いに、王子だけではなく三人が揃って首を振る。


「それは出来ないんだ。もう既に眞子嬢の存在は貴族の中に伝わっている。そして浄化も出来ると……私の弟が話してしまった。

今からそれを否定すれば王族としての品格や尊厳が危ぶまれてしまうし、眞子嬢にも危害が加わる恐れが出てくる」


王子の言葉に私は口を閉ざした。

王族が発言した言葉がこんなにも重いものだとは思わなかったからだ。

間違ったからといって、ごめんと謝れる程単純なものではないことを理解する。


「……あの、幻滅、しましたよね?呼ばれた聖女に力がなくて、二年近く放置してたんだもの……」


聖女はそういって俯いた。

そして小さく「巻き込んでごめんなさい」と呟かれる。

だけど私はそんなこと一切思わなかった。

寧ろ聖女の魔法を使うことがなくてホッとしたぐらいだ。


「…そんなことありません!」


夢で虐げられる聖女たちをみたというのは簡単だ。

だけどそれを信じてくれる人はいないだろう。

なにをおかしなことをいっていると思われるし、第一男たちの中には王族もいた。

例え夢とはいえ、王族を侮辱しているのかと咎められてしまうと考えた私は、どうにかして気持ちを聖女に伝えようと考えた。


「寧ろ、…謝罪するのはこちらです」


「え?」


聖女は首を傾げた。目を真ん丸くさせて私をみる聖女に、同じ顔でも雰囲気が違うと全然印象が違うものだなと考える。


「私、学生の時瘴気の魔物を見たことがあるんです。それから校外授業は中止になりました。聖女様が召喚されているのに、なんで授業が中止になるんだと思ってしまいました。本来ならばこの世界ではない聖女様に頼ること自体理不尽な考えなのに、私は自分勝手なことを思ってしまったんです」


だからごめんなさいと頭を下げた。

聖女が「え?え?」と困惑する声を聞き、私は顔をあげる。


「だから聖女様の為に私に出来ることがあって、私は嬉しいんです」


ニコリと微笑んでいうと、聖女はうっすらと涙を浮かべてやっと笑顔になった。

私によく似た容姿の聖女様だけど、こうして話してみるとどこか違うなと思えてくる。


「そうだな。とても理不尽だ」


溜息を吐き出すかのように言われた言葉に、私はギギッと動きが悪いおもちゃのように首を動かした。

ニコリと綺麗に笑みを浮かべる王子の後ろで、レルリラのお兄さんが隠れるようにして笑っている。

レルリラと違って感情豊かだな!


「あ、いえ、国の方針に意見をしているのではなく…」


「よい。咎めることはしないから安心しなさい。それに私だって眞子嬢の話を聞き、君と同じような心情を感じていたんだ。

……だが瘴気の魔物は聖女しか対応出来ないことは事実。聖女に頼らない方法を模索している中、なんとか時間を伸ばせるように交渉してはいたが、それも我が弟の所為でダメになった」


痛むのか頭を抱える王子に私は尋ねる。


「あの……王様の誕生パーティーが開かれるのっていつなんですか?」


「…もしかして知らないのか?」


王子がきょとんと眼を瞬く。

私は必死で首を左右に振った。


「いえ!勿論知っています!ただ平民の間では来週から一週間の間ずっとお祭り状態なので、その間のどこでパーティーが開かれるのかなと思ったのです!」


「そういうことか。確かに平民はパーティーに参加することがないからな。

父上の誕生パーティーは平民で言う祭りの最後、三日間にかけて行われる」


「みっか!?」


「…大丈夫だ。元から眞子嬢には全ての期間を出席させようとは思っていなかったのだから、ハール嬢は最終日にだけ出席してもらえればよい。

ちなみに報酬額はいい値を払おう」


王子の言葉に私はツバをゴクリと飲み込んだ。

…は!これじゃあまるで報酬金目当てだと思われるじゃない。

私は純粋に聖女として召喚された山田眞子様を心配して…!


そんなことを考えながら差し出される契約書面に目を通し、拇印を押しあてていると、バンと勢いよく扉が開かれる。


少し息を切らして現れたのは、昨日別れたばかりのレルリラだった。





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