6 ライバルの存在②
「今日からは、自分の魔力で魔法陣を書く練習だ」
一か月も魔法陣ばかりを書いていたことからか、一部の生徒の表情が曇る。
その気持ちはすっごくわかる。
私だって魔法をお母さんに習っていたとき、飽きてお母さんに聞いてしまったくらいだ。
「いつまで魔法陣をかくの?」って。
でも魔法陣は魔法の基礎であり元なのだ。
そもそも正確に魔法陣をわかっていないと、詠唱魔法も無詠唱魔法も使うことができない。
詠唱魔法もしくは無詠唱魔法を行うためには、イメージが大事とよく言うが、魔法陣を理解していないとそもそも描けないし、描くことが出来なければ発動すらしないのは当然のことだ。
ならばイメージはなぜ大事なのか。という疑問が出てくるだろう。
詠唱魔法はペンを持たないからこそ記憶にある魔法陣を具現化する為にイメージが必要になってくるのだが、それ以外にも発動場所の特定の為にイメージが必要になってくる。
自分自身から離れた場所に魔法陣を描く。
これは目に見える範囲であればあまり問題にならないが、目に見えない場所に発動する時には簡単にはいかない。
具体的な位置を思い描き、発動する魔法の魔法陣を、目に見えない場所でも正確に寸分の狂いなく描くことが必要なのだ。
だからイメージが出来ていないと、いつまでも離れた場所に魔法を発動させることが出来ない。
その為にも魔法陣を無意識化でも描けるようになっていなければ詠唱魔法も無詠唱魔法も厳しいとされている。
つまり何をいいたいかというと、学校に通う前から魔法を習っている人は魔法陣ばかり描くという行為に飽き飽きしているというわけだ。
「先生、詠唱魔法に時間かけたほうがよくないですか?」
「私も同意見ですわ」
ブーブー文句を垂れる生徒たちに苦笑しながら肩をすくめる仕草をする先生。
なんだか貴族という感じがしないでもないけど、私と同じ年齢なのだし飽きるという前では私と変わらないのだろう。
こういう姿を見てしまうと、貴族と平民ってあまり変わらないような気もしなくもない。
「お前らなぁ……、いいか?魔法陣ってすっごい重要なんだ。
それは魔法の発動には必ず魔法陣が根本にあるからだ。
だがそれと同様に自分の魔力を可視化するのもかなり大事な事なんだぞ。
この世界には確かに詠唱魔法が主に使われているが、それは自分の魔力をコントロールして魔法陣を描くことが出来ているからだ。
いつまでも紙にペンが必要な魔法使いではなく、自分の魔力で魔法陣を描く。
これが出来ようになるためにも、必ず必要な工程なんだ」
じゃあ始めるぞ。と言って先生が手本を見せる。
指の先からほんのりと光る魔力で、みんなに見えるように簡単な魔法陣を大きく描いた。
あまり見たことがない人が多いのか、おおっと言う声が一部からあがる。
私もお母さんから習った時しか見たことないから久しぶりだ。
ちなみにお父さんは精密な魔力操作が苦手だったのか、お母さんから習っている間目を合わせてくれなかった。
「それでなんで詠唱魔法ができるの?」と幼心に聞いたことはあるが「才能があるってことだな!」と豪快に笑われたことだけは覚えている。
そしてそんな反応が新鮮だったのか、先生はハハハと嬉しそうに笑っていた。
「と、まぁこんな感じだ。
初めてやる者は魔力の具現化すら手こずると思うから、魔法陣を描くよりはまず具現化を維持するのが目標だな」
教室内を見渡すと半数くらいはスムーズにこなし、後の半数の生徒は苦戦していた。
ふーん。
貴族でも基本的なことだけの教養しかやってないのが大半なんだ。
「随分余裕だな、サラはできるのか?」
他の生徒が気になった私は周りを見渡していたのだが、それを教室内を見回っていた先生の目に留まったみたいだ。
声をかけられた私はニコリと笑って、得意げに魔力を具現化して手くらいのサイズの魔法陣を描く。
お母さんに習ったからね。
最初の頃、具現化に手こずったけど今では余裕で出来るようになった。
というか、これを簡単にこなせるようにならないと詠唱魔法なんてできないもの。
コツは指先に魔力を留めること。
留めた魔力を絵具を伸ばす様に少しずつ伸ばしていく感じだ。
「こりゃぁ大したもんだな。じゃぁ次はレルリラのようにもっと小さく出来るように頑張れ」
「へ?」
てっきり褒められるものかと思っていたが、想定していない言葉に目が点になった。
ヴェルナス・レルリラ。
満点の私を差し置いて、初めて行われたテストで1位になったその人は、私の席の前に座っている貴族の男の子だ。
もっというと、初日不快感丸出しで私に「離せ」と言い放った奴だ。
……まぁ、あれは私が悪いと思うけどね。
思わず腰を上げて立ち上がり、レルリラの描いた魔法陣を覗いた。
「なッ!?」
「具現化された魔力は細ければ細いだけ、魔法陣も小さく、そして描く為に使用する魔力も少なくて済む。
お前の次の目標だな」
ポンと頭を撫でてから他の生徒のもとに向かう先生に、私は驚愕したままレルリラの描いた魔法陣を前にして動けなかった。
魔力を具現化するには、コツを掴めば大体の人が習得できる。
だけど細く、そして小さくするためには魔力コントロールの精密さと集中力が大切なのだ。
魔法陣の種類にもよると思うけれど、お母さんのように指先ほどに魔法陣を小さく描くことは、きっと一部の人しか出来ないことだろう。
だからこそ、私のお母さんは凄い人なのだと思っていたし、そんなお母さんに褒められるたびに私は嬉しかった。
そんな私の前にいる男の子、レルリラの描いた魔法陣は手のひらほどのサイズ、つまり私の半分の大きさで書いているのだ。
ゴクリと飲み込む。
(わかった……、これでハッキリした)
先生の言った通り、この魔法学校は贔屓なんてせずに、あくまでも平等に判断している。
満点の私の答案より上ということには、コイツがどうやって解答しているのかは全く検討もつかない。
が!
それでも私がコイツに劣っている事、そしてその結果2位という成績だということがはっきりした。




